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終末の境界線  作者: 5ion
幕間
33/65

幕間Ⅱ 日常か非日常か

 何気ない日。

 ソファに座って眠そうに空中をスワイプしているソラ。学校はヴォルフの依頼をいつでもこなせるように休学しているため何もない日は本当にすることがない。くあー、とあくびを1つ。昼寝でもしようかと思ったその時、通知が来る。それもソラの眠気を吹き飛ばす人物、ヴォルフからのものだ。


「ウミ、ヴォルフから依頼が来た」


 奥でPCをいじるウミに話しかける。


「うん、今確認してる……これは急ぎの依頼だね準備しないと」


 2人が慌ただしく動き始める。装備を準備していくソラ。機械刀を見た瞬間とあることを思い出す。


「あーそうだった。ウミ、刀の予備ってあったっけ?」


と聞いた。PCの前で真剣な顔で準備を進めていたウミが口を開く。


「もしかしてこの前、隠し玉使ったの? ……えーと、確かトランクの底に一本なかったっけ?」


 サラとの死闘で使った、内部を爆発させての居合い。あれは確かに強力だが1つ大きな欠点がある。それは、刀が何度も爆発に当てることになるので刃がボロボロになって切れ味が落ちてしまうというものだ。久々に隠し玉を使ったソラはそのデメリットを完全に忘れていた。彼は言われた通りのトランクの底を漁る。すると埃を被った筒が見つかった。そして、その中には予備の刀が入っていた。

 

「あった、あった」


 ソラはそれを取り出して、埃を払う。

 また今度、予備の刀を買いに行かなくては。


「エマさんに連絡したから、合流地点に行くよ」


 ソラがトランクから戻るとウミが運転席に座っていた。

 キャンピングカーでしばらく進み、市街地の端に着く。そこにはストレイと比較すると遥かに小さい侵蝕区域がある。合流場所として設定した駐車場にはライフルバックを肩に担いだエマが既に立っていた。キャンピングカーが到着したエマが乗り込んでくる。


「ごめん、待たせちゃった?」


 ウミが申し訳なさそうに尋ねる。


「ううん、さっき着いたとこ」


 エマがライフルバックを壁に立てかけて、ソファに座る。


「それで作戦は?」


「こほん、それはうちから説明させてもらいます」


 まず、依頼の概要を確認していく。今回の依頼は誘拐された女性の救出だ。その女性はこの辺りで拉致された後、追跡されないために侵蝕区域に逃げ込んだ。

 A.E.Rは侵蝕区域内の行方不明者を捜索を滅多にしない。これはその理由は侵蝕区域そのものにある。侵蝕に長い間晒されるといかに耐性が高くとも対策なしではいずれ侵食症を発症する。そしてさらに侵蝕が進むとやがてルイン結晶へと身体そのものが転化する。そうなると遺体すら発見できずに完全な徒労に終わる。グリッドに星の数ほどある侵蝕区域の監視、制御で人手が多く必要であり、人員を無駄に動かせないA.E.Rは形式上の捜索のみ行い、すくに行方不明として処理してしまう。

 その結果、一縷の望みにかけてヴォルフに依頼がなされ、それがラプターアイに降りてきたという訳だ。侵蝕区域内のどこにいるかは分からないがヴォルフが捜索エリアを分割して複数人に依頼を出している為、捜索範囲は狭い。ウミのドローンで探せばすぐに分かるだろう。捜索だけでも30万トークン、女性を救助すれば追加で70万トークンと太っ腹な依頼だ。救出対象のセレナ・ソルティスは相当なお金持ちかその関係者だろう。ウミも“この名前見たことある気がする”としばらく首を捻っていた。

 さて、作戦の話に戻そう。まず、侵蝕区域に入ったらドローンを展開、救出対象の有無を確認する。対象がいた場合は、誘拐犯を突破して救出する。誘拐犯の人数は数名らしいので策を弄して時間をかけるより、素早く叩いて、助け出した方が良いという判断だ。


「うん、それでいいと思う。救出対象がどれだけ侵蝕に耐えられるかも分からないから一気に攻めた方がいい」


 エマもこの作戦に同意してくれた。まともな人間なら侵蝕区域に入ることを決めていれば対侵蝕薬剤を投与しているだろうが、誘拐犯にそこまでしているかは怪しい。


「行こう」


 ソラが立ち上がる。エマも立ち上がる。隅に置いておいたカバンを持ち、キャンピングカーを降りる。今回の侵蝕区域はA.E.Rの努力によってかなり衰退したエリアだ。一度、コアルインズが発生するレベルまで侵蝕が進んだため、小さいが銀の膜で外界とは分断されている。

 クローシュの前でソラが止まり、エマを見る。エマは頷きを返した。2人は分断された空間を跨いで侵蝕区域に入った。中はストレイと同じで至って普通の住宅街だ。全体的に少しボロボロの建物が多いのがストレイとの違いだろうか。

 ここまでくれば外からは見られないので装備を身につけ始める。まずは対侵蝕薬剤を打ち、ソラは機械刀をエマはライフルをカバンから取り出す。同時にドローンを展開してウミに探索を始めてもらう。装備の準備が終わる。とりあえずウミの捜索の結果次第なのでしばらく待機する必要があった。


「急な呼び出しでごめん」


 ソラが口を開く。この前のストレイでの約束を守るためにエマを選んだがこうも急ぎの依頼だと申し訳なさが湧き出てくる。


「ううん、むしろあの約束覚えていてくれて嬉しい」


 エマは首を振り、微笑む。


『2人とも、見つけたよ』


 真剣なウミの声が2人の耳に入る。彼女は続けて状況を説明していく。


『今、共有した地点のアパートに犯人らしい人影があった』


 ウォッチアイ上で地図を確認し、急行する。


 目的のアパートに到着する。建物の中は朽ち果てた部分が多い。いくつかの場所の壁が崩落している。その周りを鳥型のドローンが飛び回っている。ここが侵蝕区域内でなければ普通の住宅街のような見た目だ。


『その建物の512を目指して』


 ウミの指示に従い、5階を目指す。階段を登る。


「私が先行する」


 エマが小さく宣言し、ハンドガンを手に持つ。足音を殺して、クリアリングする。ボロボロの廊下には敵は見当たらない。彼女は手招きでこちらにくるように誘導する。ソラは彼女に続いて後ろを警戒しながら廊下を進む。当たり前だが入居者はおらず、薄暗く無音なアパートは不気味な雰囲気を醸し出していた。

 512の標識を見つけたエマはドアノブ手をかける。静かに手を動かすが抵抗を感じて泊まる。


「鍵がかかっているな」


 エマは冷静に呟く。ソラは少し考えて


「時間をかけたくない、爆破で突破しよう」


と言う。確かに人質に危険が及ぶリスクがある。だが、ここで足を止めると侵蝕症のリスクが高まる。事前に確認した情報では救出対象の侵蝕耐性はあまり高くない。2つのリスクを天秤にかけて侵蝕症のリスクの方が高いと判断した。


「分かった、君の判断に従おう」


 そう言ってエマは爆発の範囲に入らないように後ろに控えた。

 ソラの手から放たれた炎が扉に触れ、激しい爆音と共に爆破が起こった。扉が粉々に砕け散り、破片が飛び散る。

 中にいる人間が驚きの声を上げる。


「一気に決める」


 エマが煙を抜けて部屋の中へ飛び込む。遮蔽物と遮蔽物の間を跳躍する。その間に放たれた弾丸は驚くほど正確に2人を射止めて、行動不能にした。続いてソラが部屋に入る。後続の敵がエマを狙って攻撃しようとしているのが目に入る。ソラは手のひらに火炎の玉を作り敵目掛けて放つ。火球が爆発し敵が吹き飛ぶ。

 その隙にエマが遮蔽物から顔を出して、射撃する。


「これで全部か」


 エマは素早く周囲を確認し、冷静に言った。


「ターゲットはどこだ?」


 ソラが周囲を見る。どこにも救出対象らしい人物は見当たらない。


「あのドアの向こうかも」


 エマが指さす。そこにら戦闘で少し傷ついている扉があった。

 ソラがドアノブに手をかける。それを見たエマは猛烈な嫌な予感がした。本能的な何かが危険だと訴える。彼女は走り出し、ソラにタックルした。その次の瞬間、扉が弾丸によってズタズタに引き裂かれた。飛び散る木片と壁に残された弾痕がその攻撃の危険さを表していた。エマはソラを抱きしめたまま一緒に倒れている。


「今のはヤバかった」


 ソラは自分が生きていることに、エマの咄嗟の行動に感謝する。


「嫌な予感が当たったみたい」


 エマは抱きしめた腕を離して立ち上がる。


「助かったよ」


 ソラは感謝を伝えた。エマは顔と銃をを少しだけ出して銃撃する。エマの目に岩を纏った敵の姿が映った。その敵は大きな岩を障害物として半身だけをこちらに見せていた。そして、それを確認した彼女はすぐに頭を引っ込めた。次の瞬間、弾丸の雨がエマが顔を出したところに降り注いだ。壁に当たった弾丸が大きな音共に爆ぜる。


「あれはクリスタだ。遮蔽物の影から連射してきている」


『となると弾切れを狙うのは現実的じゃないね』


 ウミが悩みの声を漏らす。クリスタは再装填リロードを必要としない。そのためあの攻撃の雨を止めるにはルイン結晶のエネルギー切れを待たねばならない。意図的にガス欠を狙うならかなりの時間、命の危険に脅かされ続けなければならない。他の作戦が必要だ。


「イーグル、このフロアの構造図を用意できる?」


 ソラが何かを思いついた様子を見せる。


『ちょっと待って……すぐ用意する』


 ウミから構造図が送られてくる。ソラの予想通り敵がいる位置は廊下の壁一枚挟んだ向こう側だ。


「僕が爆破魔法で横から叩く、エマはなるべく正面で注意を引いて」


「任せて」


 エマが作戦に同意する。ソラは一旦部屋を出て廊下に戻る。そして攻撃までの間エマはなるべくいろんな方法で正面突破を試みている風の攻撃を加える。その最中、左肩から腕にかけて石の弾丸を浴びてしまう。エマは表情ひとつ変えずに遮蔽物へと隠れる。皮が裂け、肉がえぐれた深めの傷で出血も多い。


「あー、血が出てる」


 エマは痛みを感じている表情1つ見せずに角から銃だけ出して射撃する。止血は後回しで今はとにかくこちらに集中させる必要がある。


『エマ、待たせた』


 ソラからの連絡。エマは最後の時間稼ぎと顔を出す。敵と目が合い、石の弾丸が生成される。真横が爆発して敵は破片で吹き飛ばされる。それを確認したエマは飛び出して接近、確実に戦闘不能にするために吹き飛ぶ敵の身体に2発、弾を撃ち込んだ。


「エマ、無事?」


 ソラが砂埃の奥から尋ねる。エマは「うん」と返しながらポーチから包帯を取り出す。


「怪我したのか!?」


 ソラが左腕の怪我を見て慌てて近付き傷を確認しようとする。


「このくらいどうってことない。ホークはターゲットを探してあげて」


 結構大きな怪我だがあまり気にしていない様子だ。エマも気掛かりだが、救出対象が危険な可能性もあるため一旦、ターゲットを探すことにした。ターゲットは最後の部屋に寝かされておりすぐに見つかった。その女性は苦しそうに呼吸しており、身体からは赤黒い稲妻が走っていた。


「まずい」


 ソラは彼女に駆け寄る。近づくまでに腰の帯刀ベルトから対侵蝕薬剤のシリンジを1つ取り出す。赤黒い稲妻は侵蝕が蓄積して、耐性が限界を迎え始めていることの現れだ。今すぐに対処しなければ取り返しがつかない。ソラはすぐに女性の長袖のシャツを乱雑に捲り、薬剤を投与した。ギリギリ間に合ったらしく稲妻はすぐに落ち着き、呼吸も穏やかになった。


「どう? ターゲットはいた?」


 エマが部屋に入ってきた。その左手には包帯が綺麗に巻かれていた。


「うん、いたよ。薬剤も打ったから侵蝕症の心配もないはず」


「それはよかった」


 エマはほっと無でを撫で下ろした。


その後、救出対象を伴って侵蝕区域を脱出し、引き渡して依頼を終えた。こうしてヴォルフからの2度目の依頼が幕を閉じた。

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