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終末の境界線  作者: 5ion
1章 鋼鉄の指令
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1章第21話 背後の影

 氷の弾丸は容易くノコギリにガードされる。


「交渉決裂か」


 エイデンの張り付いた笑みが少し不機嫌みを帯びる。正面に立つ彼の影が濃くなる。左右の敵も武器を構えて隙を窺っている。今のティナは次の攻撃を凌げるかも怪しい状況だ。

 エイデンの背後で小さな影が動いた。


「エイデンさん! 誰か……ぶっ!」


 アインの言葉が何かが強くぶつかる音でかき消される。アインは軽く跳躍して地面に転がった。起き上がる気配はない。おそらく気絶したのだろう。


「なんだ」


 アインの声の方向に視線が集まる。そこに立っていたのは灰色のボブヘアに紫のワンポイントが特徴的な女性。黒のミリタリーコートとワンピースを身に纏い、オレンジのチョーカーを着けているその姿を見てティナはすぐにエマが来たと認識した。彼女の手にはハードケース(目標)が握られている。

 エマは素早くタイツに取り付けられたホルスターからハンドガンを引き抜き、その薄紫の瞳で下っ端2人とエイデン狙いをつけて、3速射。下っ端は銃撃をモロに受けて地面に倒れる。エイデンも倒れてくれれば完璧だったが、彼は攻撃のため準備していた影を盾のように扱って銃弾を防いだ。

 エマはそのままティナの方へ走りながら銃弾をリズムよく放つ。エイデンは防御の為に動きが止まる。

 ティナとエマが合流したその瞬間、ハンドガンのスライドが開いたまま止まった。弾切れだ。それは撃ちすぎず、撃たなすぎず、彼女の弾薬管理が正確であることを表していた。


「遅かったじゃない」


 ティナは安堵の声を上げた。挟み撃ちの前にエマが目標の物資を奪ってくる作戦。元々は挟み撃ちだけだったが、話し合いの中で潜入のアドバンテージを活かす為に目標を盗んでから合流する作戦へと昇華させたのだ。

 アインが後ろを警戒した時はヒヤリとしたがエマは完璧に仕事を果たした。欲を言えばもう少し早く終わらせて欲しかったが。


「ごめん、待たせた。何故かハッチが凍ってて出るのに手間取っちゃった」


 ティナは目を細め、エマを見る。エマは流れるような手つきでハンドガンのマガジンを交換している。


「ん? 凍ってた?」


 ティナはその原因に大いに心当たりがあった。


「そう、かなり硬くなってて時間が取られたよ。……あれ、ティナのクリスタって確か……」


 エマはショッピングモールでの戦いを回顧する。あの時、ティナが凍らせて足止めをしてエマが射撃で倒す連携をとっていた。あの氷のクリスタを高出力で使えばハッチを凍らせるどころかこの倉庫全体を凍てつかせることも出来るはずと推察するのは何もおかしいことではない。


「あー、それより早く撤退しましょ。段取り通りに」


 ティナは慌てて話題を変えた。エマも今追求することではないと分かっているので頷きを返す。


「逃すと思うなよ」


 エイデンの張り付いた笑みが崩れ、怒りが映し出される。その顔は笑みからのギャップでより恐ろしく感じる。影の槍が九尾の狐のように背中でゆらめいている。


 ゆらめく影が動き出す。攻撃の気配を感知したエマが牽制で射撃する。乾いた銃声が倉庫内に響く。影の一部が盾となり弾丸を阻む。影が迫る。


「走るわよ!」


 ティナが叫ぶ。広範囲に広がる影が四方から襲いくる。味方が壊滅したことで巻き添えを気にしてか出力を制限していた影縫が全力になっていることが分かる。地面だけでなく棚の影からも槍が伸びてくる。影縫は倉庫内にある棚を薙ぎ払うように突き刺さり、鋼鉄の棚が音を立てて崩れ落ちた。商品や機械の残骸が床に散乱し、まるで空間そのものが崩壊していくかのようだった。無数の槍が空間を引き裂いていく。

 圧倒的な破壊力。そこまで距離のないはずの出入り口が遠く感じる。ティナとエマは流れ汗を拭い、ひたすらに足を動かす。影の隙間を抜けて2人は何とか倉庫から飛び出た。


「僕から逃げ切れると思うなぁぁぁ!」


 鬼の形相で迫るエイデン。彼もまた倉庫の出入り口を跨ごうとしていた。接近するエイデン。ティナはエマが合流する直前のことを思い返し、口角が僅かに上がった。


「今よ!」


 ティナの叫び。一瞬遅れて倉庫の出入り口の上部が爆発する。轟音と共に瓦礫が崩れ落ち、エイデンの進路を遮断した。崩れたコンクリートと鉄骨が積み重なり、道を完全に塞いでしまった。

 その様子を見てティナは安堵の息を吐いた。目の前に爆発させた張本人が現れた。


「上手く行ったみたいだね」


 ソラが声をかける。各々が各々を見る。全員激しい戦闘の名残でボロボロになっている。


「助太刀に来てくれてもよかったのよ」


 ティナはイタズラっぽい表情でソラを見る。ソラは肩をすくめつつ、自分の体をさすりながら


「こっちも結構ボロボロにされてね。正直、足手纏いになりそうだったんだ」


と返した。ティナはソラの上から下に視線を流した。侵蝕区域に入った時は綺麗に整っていたセットアップは傷、埃だらけになっている。至る所に血の跡が残っている。彼の言葉に嘘はないようだ。


「でも、爆発は役に立っただろ?」


 ティナは追い込まれた時に来た連絡を思い出した。耳の傷に触れるフリをして無線を聴き、言葉を返したその瞬間を。エイデンはこのことに気付きすらしていなかっただろう。


「そうね、おかげで足止めになったわ」


 ティナは瓦礫に目を向ける。積み重なった瓦礫はクリスタを使っても簡単にはどけられないだろう。


『みんな、話しているところ悪いけど撤収しよ? 瓦礫の足止めがいつまで持つか分からないよ』


「そうだね、イーグル。道案内頼むよ」


 ソラがウミヘ言葉を返した。

 3人はウミの道案内で侵蝕区域を脱出し、A.E.Rの監視網をティナの案内で抜けた。その後、迎えに来たウミのキャンピングカーで現場を離れた。

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