1章第18話 決着の一閃
ソラとサラの居合い勝負は、互いに瞬きひとつで終わる、まさしく一瞬の勝負だと理解していた。その間には緊張感が張り詰める。人気のない街に残るわずかな風が二人の周囲を包み、静寂が支配する。
サラは両足を少しだけ開き、体重を安定させる。軽く膝を曲げ、刀を納めている鞘を握る左手にわずかに力を込めた。右手は刀の柄に添えられ、彼女の指が静かに柄を撫でるように動く。その動きに無駄は一切なく、刀と一体化しているかのようだ。
ソラは彼女が居合い勝負に乗ったことを確認した後、柄に乗せられた右手前方にずらして何もない空中で停止させた。
「何のつもりだ?」
刀を引き抜くための手を変なところで停止させた、ソラに対して真意を探るようにサラは尋ねた。見た目上はソラがハンデを負っているように見える。それはサラの望むところではない。
「いいんだよ、これで」
ソラは自分に言い聞かせているのか彼女に答えたのか分からないような言葉遣いで返した。サラはこれ以上の言葉は不要と判断して集中し直す。息を整え、サラは目を細める。彼女の瞳はまるで鋭い刃物のようにソラを見据え、その全神経が次の一瞬に集中しているのが分かる。刀の柄に力を込めた瞬間、サラの肩がわずかに下がる。そして
—— 一気に身体が沈み込み、サラの刀が音もなく鞘から滑り出ようとする。まるで刀を引き抜く瞬間が時間を飛び越えたかのように、自然で速い。まさしく、達人の領域だ。まもなく刀がソラに触れる。
ソラの手はいまだに空中で止まったままで刀は1mmも引き出されていない。
勝負を捨てたか。サラは心の中で残念そうに呟く。
だが、サラの目の前で不思議なことが起こった。ソラの鞘が火を吹いたのだ。爆発音が鳴り響く。ソラの手が火炎に勢いよく押し出された刀の柄を掴み、そのまま振り抜く。その速度はサラのそれを遥かに凌駕していた。
一閃。
空気が引き裂かれる音。
瞬きすら許さぬ速さで2人がすれ違う。
2人は背を向けたまま動かない。
互いの呼吸が聞こえるような沈黙。
先に動いたのはソラだった。身体が揺らぎ、片膝をつく。
「……くっ」
腹部から血が滴り、痛みに顔を歪めた。
「爆発を利用した超速の居合い……見事だ」
サラは静かな言葉を発した後、崩れ落ちて地面に伏す。その顔はどこか満足気だった。
ソラは、膝をついたまま息を整え、視線をサラの倒れた姿に向けた。荒れた呼吸を抑えつつ、静かに口を開く。
「サラ、手強い相手だった」
ソラはちらりと鞘を見る。機械刀の鞘は側面のパーツが展開し、熱気を外へ放出している。この機械刀の鞘の内部にはルイン結晶の配線が引かれており、魔法によって、鞘内部を爆発させることができるようになっている。その爆発を利用した高速の居合い。それがサラを突破できる唯一の隠し玉だった。
張り詰めた緊張が少しずつ和らぐのを感じる。サラの瞬間移動と圧倒的な剣術。最初からサラが本気で殺す気で攻撃してきていれば勝敗はひっくり返っていただろう。
ソラは座り込み、腹の傷に手を当てる。傷口がない腹をイメージする。手のひらが緑に発光し傷に吸い込まれていく。その間にも先ほどの戦いが鮮明に蘇る。彼女の剣技と瞬間移動の魔法を攻略できず、隠し玉を使った勝負に持ち込んだ。居合い勝負に全てを賭けた。
「あの誘いに乗ってこなければ負けていた」
ソラは苦笑いを浮かべながら決着の瞬間を思い返した。
機械刀の持ち手に着いたルイン結晶を掴み、爆発を想像する。連続する爆発により押し出された刀を掴み、一歩踏み出し、振り抜いた。その速度を持ってしても一矢報いてきたサラは本当に強敵であった。
そんなふうに回顧しているうちに傷の痛みが引いていった。ただ、血はまだ止まっていない。
ソラはサラの強さに感服しつつ、意識を次の行動に向けた。




