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9/29

9 ラブコメを開始する!

メチャかわヴァンパイア 

お付き合いして 

イチャイチャ生活

始めたかったぜ


戸昼タカシ 辞世の句




先程の出来事である。


「あっ、今日、会議だったわ。代わりに行ってきて頂戴」


そんなフレアの一言で、魔法によりどこかの部屋へ飛ばされてしまった。


ツヤのある茶色の椅子、お金持ちの家にある立派な椅子を更にグレードアップさせた椅子に座ったケンイチは、知らない人に囲まれ居心地が悪い。


石造りのテーブルには、ケンイチの他に3人座っている。

部屋は薄暗く、天井が高く、とにかく広い。この場には4人しかいないのに、会議室くらいの広さがある。冷暖房が効きにくいだろうなと、ケンイチは思った。


メガネをくいっとさせている、細身の男。黒いしっぽが見える。悪魔だ。ケンイチは悪い本を読みすぎて、しっぽは、おしりに突っ込むものだと思っている。


めんどくさそうに腰掛けている、魔法使いの女。耳が尖っている、ケンイチの乏しいファンタジー知識から考えると、エルフだろう。


落ち着いた様子で出席者の様子を眺めている、老人。身体のところどころに、ウロコが見える。ドラゴン関係者か?


全員、強キャラのオーラが漂っている。

これ、四天王会議か?


「ほう。貴殿がフレアの名代か?あまり強そうには、見えぬな。それに人間とは」老人は言った。


「いいじゃない、サンダー。フレアちゃんったら、ここ30年無断欠席よ。代理を派遣してきただけいいじゃない」エルフの魔法使いが言った。


「ククク……彼女が最後に出席したのは、幹部会議にむりやり自分の誕生日パーティーをねじ込んだ時。お友達がいないというのは……フフッ。これは失礼」メガネ悪魔は、メガネをクイッとして言った。


(不憫なフレア……)ケンイチは思った。


だが、フレアの心配をしている場合ではない。

興味の対象となっているケンイチは、緊張で胃に穴があきそうだ。

圧倒的強者に、囲まれている。言動を一歩間違えれば、死ぬ。


「へえ、そうなんですねえ。ボクは、ケンイチっていいます。みなさん、よろしくおねがいします」ケンイチは言った。


「フレア嬢が部下を、それも人間を雇うとは。どういう風のふきまわしだ」サンダーという老人が言った。


「いやあ、それが部下じゃないんですよね。ボクとフレアは、お付き合いすることになりまして。

あいつが、彼氏をみんなに自慢したいから、幹部会議に出席しろって言ってきたんですよ。ボクみたいな雑魚は、こんな場には、不似合いで。すいません」ケンイチは、ヘコヘコしながら言った。



場の雰囲気が、突如、殺気を帯びる。

ケンイチの全身に鳥肌が立つ。恐怖にひざの震えが止まらない。膝の皿われたかも。


「お主?人間ごときが、フレア嬢になにをした?」サンダー老人は言った。


「怪しいわよねえ。人間どもに都合の良いタイミングで、フレアちゃんに人間の彼氏ができるなんて。

それに、アタシよりも先に、彼氏ができるのは許せないし」エルフは言った。


それは私怨だろぅ!

ケンイチは助けを求めて、悪魔を見るけれど、面白そうにこちらを観察している。


「ちょっと、おトイレにいかせてください」ケンイチは言った。


こんなの逃げるしかない。


(そりゃあ、俺だって、いきなり職場の女の子が、代理で彼氏を出勤させてきたら、戸惑うけどさ)


別に、トイレに行くのは嘘ではない。威圧感にあてられて、ちょっとちびってしまったのだ。


ケンイチは立ち上がり、扉に向けて歩きだす。

このまま、こっそり帰るしかない。帰り方とかわからないけど、そのうちフレアが迎えに来てくれるだろう。


「きみぃ、どこへ行こうというのかね?」悪魔が言った。


ダンディな悪魔が、ケンイチに向けて、眼を動かす。


ケンイチは、一刻もはやく退室すべく、早歩きになる。

ところが床から生えてきた手に靴をつかまれて、ケンイチは転んだ。


ケンイチは必死だ。

靴を脱ぎ捨てると、もはやなりふりかまわず、出口に向けてダッシュする。


「あら?そんなに急ぐほど、お花摘みが近いのかしら?アタシが手伝ってあげるよ」


魔女は、ワンドを一振りする。

すると、ケンイチの身体が空中に浮かぶ。そして、弾丸のように飛び出した。


(人をこんな玩具みたいに……これが魔法っ、関心してる場合じゃないぞ)


ケンイチは壁に叩きつけられた。視界がチカチカする。

まるで、バトル漫画の世界だ。


「お主。どういう目的で、フレアに近づいた?」


サンダーは、高速移動かワープなのか分からないけれど、気配も感じさせず、ケンイチの鼻先まで近づく。

ケンイチは、魔法の効いたまま、プレスされるように壁に張り付いている。


「まずは、一発じゃの」


サンダーは、そのウロコのついた無骨な手で、ケンイチのみぞおちにパンチした。

ビリっとしびれる。

ケンイチは、オエッともどす。

痛い。身体のなかが、内臓が燃えるように熱い。打撃の痛みだけでなく、なにかで身体の内側をかきまわされた。


壁に張り付いているケンイチの口の端から、血が垂れる。鉄臭い液体が、嘔吐感を伴って、

胃からあがってくる。


このままでは死んでしまう。

媚び売りスキルに頼るしかない。媚び売りスキルに媚びる羽目になるとは、くそったれだな、とケンイチは思う。三流冒険者のケンイチには、他に手段はない。


「お願いだ!<媚び売り>スキルよ、発動してくれえええ!!!ごほっ、ほごっ」ケンイチは、血を吐きながら叫んだ。


「ふっ、人間よ。何を企もうと無駄じゃ」


サンダーは、ケンイチに向けて手をかざした。

テスラコイルのようにバチバチと火花が飛び、手のひらに光の玉が生まれる。

彼は、手のひらから雷撃を放つ。

あとには、黒焦げになってケンイチが残るはずだった。


(雷撃を避けたか。フレアが寄越すだけはある)


雷撃を避けたケンイチは、サンダーへ向けて突撃する。

人間にしては素早い方だが、ただそれだけだと、サンダーは思った。

彼は拳を握りなおして、迎撃態勢をとる。


ケンイチとサンダーが交差する。

サンダーの拳が、ケンイチへ向かって放たれる。ゴーレムすら一発の拳で沈める、竜人族の長であるサンダーのパンチだ。威力、技術ともに申し分ない。


目で捉えることすら、困難なこのパンチを、ケンイチは避けた。あらかじめ来る場所がわかっていたように、必要最低限の動きで避けた。

防御は間に合わない。

けれど、サンダーは落ち着いていた。彼にとっては、人間、それも素手である、からダメージをもらうとは思っていない。

強者としての余裕から、攻撃は避けずに受け止める。


ケンイチの手が伸びる。


(顔面への一発、発想は普通。拳のコントロールは及第点、威力は論外だな。ふっ、期待はずれか)


サンダーは失望する。久々に楽しめる相手かもしれないと思ったのに、期待はずれだ。

さっさと殺してしまおうと思った。

フレアのお気に入りかもしれんが、それならば、このような弱き者を、この会議に派遣したフレアの落ち度だ。


ケンイチの拳は、サンダーの頬を打つけれど、サンダーは身動きひとつしない。


「人間よ?これで終わりか……っ!!!なんだこれは!」サンダーは言った。


口のなかに、ざらついた、だが食欲をそそる塩気のある味が広がる。噛んでみると、カリッとした感触。

ザクッザクッと噛めば噛むほど広がる、塩気のある甘み。


「高級せんべい詰め合わせセット、税別28,000円だ。

じいさん、驚くことはない。貧乏人の俺にとっても未知の味だ。

……よかったら、一枚欲しい」


ケンイチは、サンダーの前に立つと、銀色の缶に入った詰め合わせせんべいを、差し出す。

サンダーはためらい、顔をうーんとしかめる。


死の恐怖にさらされたケンイチは、<媚び売り>スキルと<カタログギフト>の組み合わせを思いつき、それは成功した。

<カタログギフト>は、普段はただのカタログであるが、<媚び売り>スキル発動中に、心の底からの媚び売りの気持ちがあれば、注文できたのだ。

むろん有料であり、ケンイチは財布が軽くなるのが分かった。注文した分、お金が消えている。

200万ゴルドの貯金しかないケンイチにとって、せんべいに28,000ゴルド使うのは痛い。



「お茶もつける。特級茶葉(税別6,800円)だ」


ケンイチは茶葉の入った缶を取り出した。

更に、財布が軽くなる。フレアにもらったお小遣いがどんどんなくなっていく。


「うむ。竜神族の代表として、このサンダーは、ケンイチとやらの参加を認めよう」


サンダーは、せんべいと茶葉の缶を、自分のバックに入れた。ケンイチに一枚あげることはなかった。



「サンダー元帥ともあろうお方が、買収されるとは嘆かわしいですねえ。

くくっ、この私は、ケンイチ氏の参加は認めませんよ。スパイの疑い濃厚ですからねえ」


インテリ風の丸メガネをかけた悪魔、アヴァーロが言った。インテリ風の顔をしているが、来ているのは、破れた革ジャンに、鎖を巻きつけた衣装である。顔と服装がマッチしていない。


「このスーツという衣装はどうでしょう?

アヴァーロさん、肩幅広いので似合うと思いますよ?」


ケンイチは、ワインレッド色のダブルボタンのスーツを取り出す。

<媚び売り>スキルのおかげだ。真の媚び売りは、相手への思いやりである。相手の望む物品の傾向を読み取ることができるのだ。


「ククッ……そんなモノで私が、いや、なかなか良いセンスをしていますねえ。

私、悪魔族の正装が似合わないなあと、密かに悩んでいたのですよ。ちょっと試着してみましょう」


スーツを着たアヴァーロは、ネクタイをしめる。やり手の腹黒いサラリーマンがそこにはいた。


「私の欲望をここまで読み取るとは。……ククッ、おもしろいですねえ。悪魔より悪魔らしい人間。

悪魔族代表として、ケンイチ氏の参加を認めましょう」


アヴァーロは言った。よほどスーツを気に入ったようで、鏡の前に立って、鼻歌を歌いながら服装チェックをしている。


「おいおい、あんたらそれでも四天王かよ?ぽっとでの童貞くせえ人間に、いいようにされてさあ」


大魔法使いであるエルフのシェフィは言った。


一言、誹謗中傷が混じってたぞ。


「シェフィさん、これはどうで……うおっ!」


火球が飛んできて、カタログブックに命中する。魔法でできた本は、物理攻撃無効のはずであるが、燃えている。

ケンイチは、慌てて本を投げ捨てる。燃え尽きたが、もう一度念じると、再びカタログブックが出現した。


「あら?今、アンタにぶつけたのは、封印禁術よ。あの火球にあたった魔術書は、召喚できなくなるはず。無効化するとは、なかなか良い術式で組んでいるのね。ちなみに肉体に当たるとアンタ程度なら死ぬわ」


「なんてもん撃つんだ!」


いきなり異世界チート?生活終了になるところだった。やっと使いみちの見つかった宴会芸魔法を消されそうになった。

頼むぞ、媚び売りスキル。このアグレッシブな魔法使いを満足させる物を教えてくれ!


「見えた!これをプレゼントするっ!」


「ふっ、アタシは大魔法使いだよ。欲しいものは手に入れてきた。いまさら、たかが人間が手に入れられるもので欲しい物など無いね」


「うおおおお!<お家で育てよう!海のアクアリウムセット 税抜14,800ゴルド>だ!」


「くっ、海の生き物を、それも家で育てられるだと!?……そそる」


「俺の参加を認めれば……」


「アタシの負けだ。参加を認めるよ」


シェフィは、ケンイチからアクアリムセットをサッと奪い取った。こころなしか、そわそわして、今にも帰りたさそうになっている。すでにアクアリムセットを開封して、付属品を確認している。帰ったら、すぐにでも使う気だろう。




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