10 会議は踊る。ケンイチは踊りすぎて、腰が痛くなった。
テーブルには、ケンイチを含む4人が腰掛けている。
4人の前には、紅茶の注がれたティーカップが置かれ、ケーキとクッキーが小皿に乗って提供されている。
すべてケンイチがカタログブックから注文した品だ。すでに財布は空っぽになっている。ケンイチは所持金がなくなればカタログブック注文はできないと考えていたが、問題なく注文できた。
ただ、魔法を使う際に、家においてある通帳の残額が減っているのが、感覚的に分かった。
1年間必死に貯金したお金が減るのは、つらい。
ケンイチ以外の3人は、それぞれホクホク顔だ。
竜神のサンダーは、せんべいをもらっているにもかかわらず、出されたクッキーを食べ終わると、おかわりを欲しそうな視線を向けてくる。
アヴァーロは新品のスーツを着て、うれしそうに首元のネクタイを何度も微調整している。
シェフィは、アクアリムセットの説明書を読みながら、ケーキを食べている。アクアリウムセットの説明書に夢中になっているおり、ケーキに目を向けず口に入れているため、食べカスが周囲に散って、行儀が悪い。
「では、これより、魔族同盟定例会議を始める」
クッキーのおかわりがないのが分かり、がっかりしたサンダーは言った。
シェフィは、やる気なさげに一枚の報告書を配る。魔法業界の近況が書いてある。よくまとまった資料だ。
「アタシは魔法の研究と実戦以外は、興味ないんだけどね。ウチの助手が作った資料さ。他の魔法使いの動向なんて、クソどうでもいいことが書いてある」
魔法使いの練度ごとの人員構成、魔法使いの移籍情報が書かれている。
「私からの、報告書はこちらになります。我が悪魔族は、公正公平をモットーとしおりますので、ご不明点があれば、何でもお尋ねを」
シェフィの1枚の報告書と違い、アヴァーロの取り出した資料は分厚い。1冊の本くらいはある。入っているのは、まとめられていないデータだ。
ケンイチは、サラリーマンとしての経験から、油断できないと思った。使えるデータと使えないデータをごちゃまぜにして、こちらを煙に巻くつもりだ。
他の二人は、興味なさげに報告書をポーチへ放り込む。一応、パラリとめくって内容を確認したサンダーと比べて、シェフィは報告書を開くことなくしまい込んだ。
「竜人族は、特に争いもなく平和に過ごしておる。特別、報告することはないな」サンダーは言った。メモすらない、口頭で一言報告しただけだ。
「その圧倒的武力であちこちの種族からみかじめ料をとっているのは、平和って言えるのかい?」シェフィは言った。
「ワシらが睨みを効かせているおかげで、小競り合い一つ起きてないのだから、結果としては得しているだろう。人間どもでいう税金ようなものだ」サンダーは言った。
シェフィとサンダーの間で、剣呑な雰囲気が漂う。
その緊張を破るように、アヴァーロが発言する。
「で、混沌の森の様子はどうなんです?ケンイチさん」
フレアの住まう赤バラの館がある森は、混沌の森と呼ばれているらしい。
「フレアは館の敷地から外には、興味がないからな。詳しくはよく分からない」
「でしょうね。フレア殿は基本的に無関心ですから。これまでの会議でも、館は片付いているからいつでも遊びに来て。ぐらいしか言ってなかったですし」アヴァーロは言った。
あの広い館を健気に掃除するフレアを想像して、ケンイチは涙がこぼれそうになる。
もしかして、フレアはこの会議を利用して、お友達をつくろうとしていたのでは?健気だ。
「情報交換も終わったし、そろそろお開きにしない?」
シェフィはアクアリウムセットの中身をチラチラと覗きながら言った。お前、それで遊びたいだけだろ。
だが、ケンイチとしても賛成だ。
今は、プレゼント作戦で機嫌をとってごまかしているが、この3人のうち、誰か1人でも、その気になれば、ケンイチを一瞬で殺せるのだ。
フレアに襲われた時や先ほどの戦闘では、媚び売りスキルが発動したおかげで生き延びたけれど、発動する間もなく襲いかかられたら、間違いなく死んでしまう。
ケンイチもやっと緊張から解放されると安心する。
最後に、もらった資料を持って帰ろうとして気が抜けた緊張感から、何気なく資料に目を通してみる。先程までは、周囲に気を配る必要があって、資料を読む余裕がなかったのだ。
「……ちょっと待って!俺たち、死んじまう!」ケンイチは叫んだ。




