7 サファリパーク気分
馬車が通れる道もなくなり、ケンイチたちは荷台から降りる。
ここから、後方支援員として参加しているCランク冒険者たちの出番である。
草木の生い茂った暗い森の中を補給物資を詰め込んだ重たいリュックサックを背負って、歩いていくのである。
A・Bランクの実力者たちは、自分の装備だけ持って、部隊を先導していく。
途中、ケンイチでは瞬殺されてしまうであろう強力なモンスターも、彼らトップ冒険者の前では、相手にならない。彼らが、剣を一振りすると、悲鳴をあげ地面に倒れる。安全を確保した後、ケンイチたちが通過していく。
遠くで、ケケッ、と鳥の鳴き声が聞こえる。まるでこの森に入ってきた者をあざ笑っているようだ。
「ホントにこっちで合ってるんだよな」
物資がパンパンに詰まったリュックサックを背負って、ケンイチは言った。すでに2時間近く歩いている。タカシから受け継いだ剣を杖のようにして、歩いている。
「トップランカー冒険者タカシの報告によれば、かなり森の奥にあるらしいからな。迷っているわけじゃないだろ」同じくリュックを背負った顔見知りは言った。
タカシ!お前、生きていたのか!ケンイチはタカシと書かれた剣を見る。
「それで、タカシはどうなったんだ?」
ケンイチは食い気味に聞いた。
「うおっ、目的地はどこかって話じゃないのかよ。
タカシは、赤バラの館の位置をギルドに連絡した後、赤バラの館にアタックして行方不明ってウワサだ。なんでも、赤バラの館近くに、血まみれになったヘルメット、タカシとこれまた太い黒字で書かれたものが見つかったらしい」
タカシィィィ!!!絶対、ガチャでもらった装備の前の持ち主だと、ケンイチは確信する。
「どうも上の連中は、この森を押さえたいらしいぜ。理由は知らねえ。どうせクソみてえな理由だからな。
だが、トップランカーが行方不明になったんだ。ギルドもビビって、討伐隊を組んだわけさ。おかげで、俺たちは荷物を運ぶだけで大金が出る」
話はそれっきりで続かなかった。ケンイチは腐った葉っぱを踏みながら、歩いていく。
森の中に、突然、真っ白な壁の館が現れた。屋敷のまわりを囲む塀垣はすべて真紅のバラである。ケンイチが知っているバラよりも、より鮮やかに紅色で、トゲも鋭い。まるで金属製の針のようだ。
討伐隊は玄関にたどり着く。巨大な木製の扉で、文様が彫り込まれた美術品といっても差し支えない呼び鈴がついている。
討伐隊のリーダーであるA級冒険者ガガムは、扉の前で立ち止まる。
筋肉のほどよくついた金髪の30歳くらいの男だ。ケンイチの所属するギルドでは、一番の実力者であり、有名人だ。ドラゴンとかも倒したことがあるらしい。
荷物運びのケンイチにも優しく声をかけてくれた、ナイス・ガイである。
「いいか?みんな。扉を開けると、俺が安全かどうか確認する。大丈夫なら、一気に制圧するぞ。知的なモンスター相手には、速攻が大切だ。考える時間を与えるなよ。
相手がどんなモンスターだろうと、ぶちのめして、素材にしてやれ。俺たち、人間の居場所を拡げるぞっ」
「「おうっ!!!」」
ガガムの鼓舞に、討伐隊のメンバーは気勢を上げる。
彼は扉を開け、建物のなかの様子を確認する。大丈夫だ、というハンドサインが出た。ガガムを先頭に討伐隊は、赤バラの館へ突入する。
館のなかは、圧巻であった。
貴族の屋敷を思わせる重厚な調度品に、シャンデリア、カーペット。まるで、貴族の屋敷に強盗している気分になってくる。
一部の不心得者に至っては、小型の調度品を自分のポケットに入れる者までいる。
ギギギと背後から、扉の閉まる音がする。
「開かない!閉じ込められた!」
冒険者のひとりが、ガンガンと拳で扉を叩きながら言った。
「人の家にあがりこんで、泥棒?だから人間は野蛮って言われるのよ」
気配なく、突如、美女が現れた。金色の髪をポニーテールにした、お嬢様である。
その姿を見て、ガガムは笑った。
「のこのこと出てきたなっ。探す手間が省けたぞっ!」
「あら?人間さんの割に強気ね」
美女は、微笑んだ。開いた口から人間ではありえない長さの犬歯が見える。
「ふっ、ヴァンパイアか。昔は狩られるだけだったかもしれんが、今の人間には、貴様を倒す手段は腐るほどあるのさ。
お前らっ、フォーメイションタイプVだっ!蹂躙を始めるぞ」ガガムは言った。
彼のパーティーメンバーや他の実力者たちも、戦闘態勢に入った。
「オレは、A級冒険者ガガム。貴様を倒して、さらなる栄誉を手にする!」
ガガムは銀製の長剣を抜いた。磨き抜かれた刀身は、わずかな光も反射して光っている。
「私は、フレア・ミラージュ。いわゆる吸血鬼ね」
フレアと名乗る吸血鬼は、肩肘張らず、天気の話でもするように名乗った。
「敵が出てきたぞ。どっ、どうする?」
ケンイチは顔見知りの冒険者に、視線を移す。
彼にとっても、圧倒的に格上の敵がでてきたわけだが、彼は緊張する様子もない。
彼は、ポケットからタバコを出して、一服する。
はあ、と大きな白煙を一つ口から出すと、言った。
「慌てるなよ。ありゃ、人間は弱いって昔のイメージに生きている時代遅れの吸血鬼さ。ここ数十年で、強者同士なら、人間のほうが強くなってる。なんも心配することねえさ。オレたちゃ、ここで荷物を持ってりゃいい」顔見知りは言った。
ガガムが動いた。一瞬のきらめきとともに、カーペットの上を生首が一つ転がる。
「ふん、他愛もない」
他の冒険者たちは、ゆっくりと剣を下ろした。




