6 エリア赤バラの館
悪いことは続くと、よく言ったものだ。
ケンイチが、車内を見渡す。
すると、殺気立った冒険者たちが、荷台に乗り合わせている。
特に、優待席に座っているAやBランクの冒険者たちのピリピリさは異常だ。いつも余裕な様子の彼らが、緊張しているのは初めて見た。
同じ空間にいるだけで、こちらも胃痛を感じそうなほどの張り詰めた空気。
たまたま、そばに顔見知りの冒険者がいた。以前、彼のパーティーに荷物持ちとして参加したことがある。
「この馬車、どこへ向かっているんだ?」ケンイチは顔見知りに向け、言った。
「赤バラの館に決まってるだろう。ビビリのてめえが、討伐クエストに参加するとは思わなかったぜ」顔見知りの冒険者は言った。
「はあ?討伐クエスト……」
「おいおい、契約書を読んでないのか」
ケンイチは、ズボンのポケットに手を突っ込むと、紙質の悪いザラ紙が出てきた。レシートほどの大きさで、中堅以下の冒険者が報酬額が高い依頼を受ける際に使われる簡易契約書だ。
< 種別:討伐クエスト 難度:A>と契約書には書かれており、ザラ紙の下の空白には、ケンイチとサインが書かれている。間違いなく、自分の字だ。
さっと、自分の顔から血の気が引いていくのが分かった。
この馬車のひりついた雰囲気も、目の前の顔見知りがどこか浮ついた感じなのも、すべて理解した。
通常のクエストでは、命を落とすことはほとんどない。モンスターと呼ばれる害獣の駆除や資源の採取がメインである。事前に十分な準備をしておけば重症を負うことはほとんどない。
一方、討伐クエストは、ぶっちゃけると戦争に行くようなものである。
近年、技術発展著しい人類は人類の住む場所を広げようと、他の種族のテリトリーに攻め入っている。これは報酬も高いが、死傷率も尋常でなく高い。
しかも、難度Aである。ケンイチは、限りなくD難度寄りのC難度をこなすので精一杯の技量だ。
ケンイチは手を震わせながら、契約書を見つめる。ため息をつく、酒くさい。
ネイアのデートを覗き見した後、自分は酒に強くないのに、ヤケになって、度数の高いグラスを飲み干した覚えが、かすかにある。
「昨日の夜中に、てめえ、自分でサインしてただろう。いまさら戻れねえぜ、キャンセルの違約金は500万ゴルドだ。軍隊の敵前逃亡と同じだ。討伐クエストは、親が死んでも、家が火事になっても、キャンセルできない。冒険者の常識だろ」顔見知りの男は言った。
「そっ、そんな……」ケンイチは言った。
顔見知りの男は、ケンイチが呆然としているのに飽きたのか、興味を失った様子で、毛布をかぶって、仮眠を取り始める。
ケンイチは、じっと契約書を見つめていた。




