28 シーソーゲーム
ヤマオカを追い詰めたその時、長官室へマクレーンが入ってきた。
頭からは出血し、剣は折れている。
「敵がこの階までやってきている。あの大魔女シェフィすら押され気味だ。
こんな隠し玉を……」
ケンイチが廊下を覗くとバリケードをつくって、ユバやエルフ3人組の魔族とマクレーン配下の生き残りが、狙いも定めず廊下を進むなにか巨大な影に魔法や投擲を行っている。
ケンイチの前に、シェフィが吹き飛んできた。ワンドも折れて、服もボロボロだ。
「アタシより強い魔物をつくるとは、やるじゃないアタシ」
やられているわりに満足げな表情をしている。
廊下を進む影は、バリケード越しの攻撃など無視して、そのまま突進してくる。
「バリケードの連中、伏せるか逃げるかしなさい!アタシの最高傑作よ、勝てるわけないじゃない!」
シェフィは血まみれになりながらも、息荒く興奮して、メモ帳になにか書き留めている。
そして、影はバリケードを突き破り、壁を突き破って、長官室へやってきた。
それはキメラと呼ばれる犬のような下半身にドラゴンの皮膚と爪、上半身は悪魔というシェフィが考えた最強モンスターであった。
首にはフレアすら洗脳した首輪が巻かれている。
その背中には、ニングスタ王家の家紋が刺繍された軍服をきている男がいる。
「ヤマオカよ……手駒を一つ失ったようだな」
「申し訳ありません、ヨリヒデ様。ここは私の命一つでどうか、部下たちにはお慈悲を」
「待て待て。貴様の忠義は、よく知っている。
それにキメラを手に入れた今、潜在的に反逆の可能性がある厄災の吸血鬼など、もはや用済みよ。
処分が遅くなったか、早くなったかの違いだ。
此度の失策、許す」
「……ありがたきお言葉」
ヤマオカは膝をついて、泣いている。
「では、我が忠臣を泣かせる諸悪を断つとするか……」
ヨリヒデは、キメラの腹を蹴ってフレアの前へ走らせる。
フレアの前で、キメラはその口から長い犬歯を威嚇するように見せ、ウウッと唸っている。
「かわいいワンちゃんね。乗ってる飼い主は、クズだけど」
「忠勤ごくろうであった。用済みとはいえ、役に立ってもらったな。
その褒美として、このヨリヒデ自らの手で処分してやろう」
「は?バカじゃないのこのオッサン」
王族ゆえに、ストレートで煽られる経験がなかったのだろう。
ヨリヒデの顔に青筋が走る。
「キメラよ、コイツは好きにしてよいぞ。お前の好きなように、いたぶってやれ」
ヨリヒデの言葉にキメラはキャンキャンと喜ぶ。
そのまま、キメラはフレアへと飛びかかった。
ゴトリと重いものが地面に落ちた。
「くううう、なんてっ、なんでなのおおおお!!!」
フレアは瞳孔の消えた目で声をあげる。
「ダーリンのくれたチョーカーに汚れがついちゃったのおおおお!!!」
キメラの緑色の体液が飛び散り、チョーカーについてしまったのだ。
血液を操れるフレアは、返り血ならシミをとることできたが、キメラの謎の緑色の体液は血液扱いではないようだ。
「新しいの買ってあげるから、落ち着いて」
「嫌なのダーリン。あんなキュンとくるシチュエーションでもらったプレゼントよ!?」
フレアは駄々をこねている。
同じ室内の少し離れた場所では、上半身と下半身を一撃で切断されたキメラの死体が転がっている。
そして、その奥の暗闇では、キメラに乗っていたためその斬撃を喰らって死んだヨリヒデがいた。その死体をヤマオカが、無言で抱きしめている。
増援としてやってきたキタカタは、ヨリヒデの死体を見ると立ちすくんでいた。
そして、泣きながらヤマオカのもとへ行くと、何かを耳打ちする。
ヤマオカの顔色が変わる。
「ヒデヨリ様……最後のご奉公をいたします」
ヤマオカはつぶやいて、剣をそのまま自らの腹に刺した。そのままノコギリでも使うようにギリギリと自らの胴体を切断する。
彼は這ってキメラの下半身までたどり着くと、自分の胴体の切り口とキメラの下半身の切り口をくっつけた。
キタカタは、おどろおどろしい呪文を唱え、自らの心臓に短剣を突き刺した。
すると、緑色の液体が光り、上半身がヤマオカとなったキメラが誕生した。
「流石の天才のアタシ!キメラには、あんなふうに呪文を唱えれば再生する機能つき!後は動作確認ね」
新キメラの誕生に、シェフィは言った。
「シェフィ、呪文を唱えるのをわざと見逃したな!?
生き返るってなんだよ、反則じゃないか?」
「ダーリン、私が行くわ。お洋服をよごされた報復をする機会をわざわざ相手が用意してくれたんだから」
フレアとヤマオカキメラが向かい合う。
ヤマオカキメラはドラゴンの尻尾を振ってフレアにぶつける。
「こんな単調な攻撃……」
フレアが尻尾を回避しようとジャンプした瞬間、四足歩行で一瞬で距離を詰め、タックルが彼女を吹き飛ばした。
「組み合わせ次第で、ここまで強化されるとは」
フレアが吹き飛ばされたのを見て、シェフィは喜んでメモしている。
「あのキメラに、何か仕掛けをしたのか。フレアが押されているなんて」ケンイチはシェフィに言った。
「仕掛けなんてしてないわよ。ただ、司令塔が変わったの。あの緑色の液体は、思いに反応するアタシ謹製の液体。この世への未練を残した悪魔の残骸を使うことで、下半身のドラゴンへある程度の知性を与える設計だったけど、今は上半身の人間の意思に液体が反応している」
シェフィは専門の話を早口でまくしたてる。
「つまりは?」
「上半身の戦闘経験豊富な人間と下半身のフレアなみの身体能力を誇る強化ドラゴンの相乗効果で、最強生物になっている。
アタシったら天才だわ~」
ともかくフレアのところに行かなければと、ケンイチは瓦礫に埋もれたフレアを引っ張り出す。
彼は気がついた。フレアの全身にべっとりとついている緑色の液体が光っているのを。
「この液体は、思いに反応する液体……なら、俺たちも使える?」
「ケンイチとひとつになれるってこと!?なら、大歓迎よ」
緑色の液体がべっとりとついたフレアの首元に巻き付いたチョーカーに、ケンイチは手を当てる。
すると光がふたりを包み込んだ。
「「爆誕!チャーハン吸血鬼」」
フレアがダメージを受けて弱っていたせいだろうか、肉体はケンイチ。着ている服は、フレアのドレスという、ケンイチが女装している姿になった。
「多少、姿が変わったのがどうした。強者に弱者がくっついたのだ。大したことはできん。ヨリヒデ様の仇、取らせてもらう!」
「チャーハン・シャワー。サービスチャーハンだ、受け取れ」
なにもない空中から現れたチャーハンの濁流に、ヤマオカキメラは溺れる。
「ふざけた技をっ。なぜ急に強くなった!」
「それは……俺には媚を売る力、つまり相手を思いやる、いや、フレアを愛する力がある」
「そして私は、ケンイチ好き好き、めっちゃ好き!」
「「つまり、俺(私)たちラブラブだからさ(わよ)」」
「そんな理想もなにもない、肉欲に溺れた力に私が負けるなどはありえんのだっ!」
ヤマオカキメラは、ヨリヒデの死体から剣をとる。
「ヨリヒデ様、私に力を!理想を!あの夢をっ!
ニングスタ王家に捧げてきた、その力すべてぶつけさせてもらう」
ヤマオカキメラは、ヨリヒデの剣を構え、吶喊する。
チャーハン吸血鬼も、タカシが剣舞の際に落とした剣を拾う。タカシの剣は、紅色の魔法につつまれる。
「タカシのめっちゃ硬いソードwithブラッド加工済み(フレアが加工しました)」
二つの剣、いや四人の思いが交差する。
しばしの沈黙が広がった。
そして、ヤマオカキメラは倒れた。




