26 決戦
飛竜の巣を出発したニングスタ王国軍3万人は、あっさりとアンビシオン郊外を占領し、市中心部に進む。
ところが、ここには、シェフィやユバたちの魔族が大暴れして、ニングスタ王国軍は、マクレーンたちが籠もる行政府庁舎に近づくことができない。
それどころか、次第に王国軍の戦線は後退し、敗走する部隊まで出てきている。
マクレーンはその光景を、長官室のガラス越しに眺めていた。
「これは必要ないな……」
マクレーンはポケットに入れていた錠剤を机の上に置く。
苦しまずに死ぬための毒薬だ。
「長官……」ナザリーは言った。
彼女は、マクレーンのそばまで駆け寄ると、彼に抱きついた。
「なんだいナザリー。意外と、感傷っぽいんだな。私は戦うよ。自決はせん」
「そんなんじゃありません。生き延びましょう!私もついていきます」
「この部屋から出ていってくれ。君まで巻き込みたくはない」
「嫌です。私も一緒に戦います」
「長官命令だ……」
「植民地行政府も解散した今、あなたはただのマクレーンさんです。
長官命令は無効ですよ、長官」
ナザリーは、長官の部分を強調して、からかうように言った。
「まいったな……」
マクレーンはそう言いながら、窓の外の景色を眺めている。
すると、遠くから黒い影が飛んでくるのが見えた。
「ナザリーっ!!」
マクレーンは、ナザリーに飛びついて押し倒すと、そのまま床に伏せる。
何十にも防御魔術が重ね塗りされたガラスは、薄氷のように簡単に割れた。
割れたガラスの大穴からふわりと飛んで、フレアが入ってくる。
飛行魔法で浮かぶ彼女の肩を掴むかたちで、ヤマオカも入ってきた。
「ふっ、魔族が出てくると通常戦力の力押しではラチがあかぬな。
一気に敵の大将首を獲るしかあるまい。幸い、この部屋には元上司殿もいらっしゃる。その首もらうぞ」
ヤマオカはそう言って床に伏せるマクレーンを一瞥すると、フレアに命令を下す。
フレアの体はマクレーンへと向いた。
「マクレーンさん、おとり役は終わりです。下がってください。
ここからは僕が引き受けます」
廊下に潜んでいたケンイチは、ドアを乱暴に開けて部屋にどたどたと足音を立て、駆け込んでくる。
マクレーンをかばうように前へ出て、ケンイチはフレアと向かい合って、にらみ合う。
「チャーハン大魔王、貴様はフレアに気に入られて成り上がった、ただの人間だとわかっている。
同族どうし、悪いようにはしない。剣を置け」
ヤマオカは、震えているケンイチを見て、笑った。
「ちっ、ちくしょう……そのとおりだよ。俺は、ただのしょうもない人間だよ。
ただな!覚えておけ、これが魔族同盟幹部の権力だっ!!」
ケンイチの雰囲気が変わった。
彼はポケットから、笛を取り出す。すると、おもいっきり鳴らした。
「呪いのアイテムか!?」
「先生!お願いします!」
ケンイチの叫びに応じて、廊下に待機していた援軍が部屋に入ってくる。
「がははは!これが魔族同盟幹部チャーハン大魔王の権力さ!(お金を払えば)強力な冒険者だって雇い放題!
さあ、タカシ先生、やっちまってください!」
なんとここで現れたのは、人類最高峰の強さを誇るAランク冒険者であり、ケンイチが彼のお古の武器を使っている、タカシである。
「私が来たからには安心してくれ」タカシは言った。
「フレア、やれ」
ヤマオカが命令すると、フレアはブラッドランスを投げる。一発の投擲で砦が破壊されたこともある強力な攻撃だ。
タカシは、剣を抜いて、一振りする。
すると、ブラッドランスは消し飛ばされた。
タカシはケンイチの予想以上のパフォーマンスを見せる。
「流石は先生!」
「この戦い、もらったよ」
タカシは気を良くしたのか、剣舞を始めた。
ふっと剣を決めポーズをとった瞬間、ゴキリと人体から鳴ってはいけない音が聞こえた。
彼の剣をもった右腕が関節の支えを失い、プランプランと揺れている。
「衛生兵ぃぃぃ!!!」
タカシの顔色が青くなり、やってきた衛生兵によってタンカで運ばれていった。
こうして部屋にはタカシとフレア、後ろで呆れ顔をしているヤマオカの3人が残った。




