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24 滅びゆく街

旧植民地行政府、首都アンビシオン。

もともと本土から魔族領進出の橋頭堡として築かれたこの街は、当時の人類が確保していた場所に建設された関係上、辺鄙な場所にある。


アンビシオンを経由しない新生ニングスタ王国と本土への交易ルートが確立されたため、この都市は、政治的にだけでなく、経済的にもその意義を失った。



居住者がいなくなったビル街の中心を通る大通りに、ドラゴンは着陸した。


「警告や対空防御もないとは、罠でしょうか?」ユバは言った。


「見りゃわかるだろう。警告や対空防御をする人自体いないんだよ。

いずれ戦火に焼かれるのが決まっている、本土から見捨てられたこの街に住みたい物好き以外は残ってないからな」ケンイチは言った。


大通りの真ん中には、噴水が置かれていた。

けれど、水は真緑に濁って底が見えず、花壇は雑草で埋まっている。


道路に敷き詰められた敷石の間からは、草が伸びている。わずかに残った人間が使っているだろう一車線だけ、草は伸びていない。



一つだけ明かりが灯っているひときわ立派な建物、植民地行政区本庁舎と看板がついている、に入る。

すると、痩せた長身の男と、スーツを着用したされたビジネスウーマン然とした女性が立っていた。


室内は薄暗く、背後に見えるなんらかの部署があったらしき場所には、散乱した書類が床に散らばり、放置されたデスクが雑にならんでいる。


ケンイチたちは、長官室と木札がかかった部屋へ案内された。

ここはまだ、人が使っている気配があり、掃除もされている。


応接机を挟んで、ケンイチと長身の男は向かい合って、座る。ソファのきしむ音がした。


「あなたが、マクレーン長官、手紙をよこした人ですか?」ケンイチは言った。


「そうだ。元長官マクレーンだ。本土の新聞によれば、アンビシオンを不法占拠する賊の親玉らしい」


マクレーンは、自嘲するように、フッと笑った。

ニングスタ王国の武力に怯える本土の諸国家は、ニングスタ王国へのさらなる媚売りとして、縮小していた植民地行政区の解体を決定した。


「あなたの政治生命は終わったとはいえ、本土に帰れば悠々自適な年金暮らしが待っているでしょうに」ケンイチは言った。


「私はヤマオカたちの本質を見過っていた。

連中は狂信者だ。ニングスタ王家、ヨリヒデの統治を正当化するためなら、手段を選ばん。たとえ相手が、魔族だろうと、人間だろうとな……

そんな連中がいるなかでは、恐怖に怯えたスローライフになる。私は隠居してまで胃薬を持ち歩きたくはない」


マクレーンは、秘書であるナザリーを呼び、新聞を持ってくるように言った。


「これは……」


一面の記事を見て、ケンイチは唸った。

<ロドング帝国、崩壊!>という見出しとともに、帝国の宮殿が瓦礫と化している写真が添付されている。

宮殿の瓦礫の上には、ニングスタ国王ヨリヒデが立ち、その後ろにはランスを構えたフレアとヤマオカが立っている。

そして、ヨリヒデの前には、ロドング帝国の皇帝が膝をついて、降伏している。


「ロドング王国って、7大国の一つじゃないか」


ケンイチでも知っている大国だ。


「ロドング帝国は、かつての戦争でニングスタ王国を滅ぼした国だ。新生ニングスタ王国の承認にも反対していた。

これは、復讐だろうよ。

このまま、こんな感情的に周囲を破滅させる連中をのさばらして置くわけにはいかんのだ。

もはや、魔族も人間もない。チャーハン大魔王よ、協力してくれ」


「しかし、勝算はあるのですか?

魔族同盟も、ニングスタ王国の洗脳したフレアにやられて、壊滅状態ですけど……」


「こちらもその点は承知している。だが、ニングスタ王国を倒せるのは、チャーハン大魔王、あなたしかいないんだ!」


マクレーンは、ケンイチの手をとる。


「新生ニングスタ王国の力の根源は、厄災の吸血鬼フレアにある。彼女を洗脳しているからこそ、彼らは無敵なのだ。

そのフレアを奴らの手から解放できるのは、チャーハン大魔王、あなたしかいないんだ!」


ケンイチもフレアを救いたい。

けれど、ここで無闇に同盟を結べば、ニングスタ王国の良い標的になってしまう。


ケンイチは、コーヒーをひとくち飲んだ。

しばらく沈黙していたケンイチは、口を開いた。


「マクレーンさん、そちらに残っている戦力は?」


「残ってくれた同志が300人ほどだ。軍人上がりも多く士気も高い。けれど、フレアが相手となれば戦力としては、話にならんだろう。

ただ、我々には、これがある」


マクレーンは、手を叩く。すると、ナザリーが台車に乗せて巨大なアタッシュケースを持ってきた。

マクレーンは手袋をつけ、アタッシュケースを開いた。

内部には、金色に輝く、インゴットが敷き詰められている。


「どこからこんな金塊を……」


「非常時に備えて貯めていた軍資金さ。本土の強欲な連中と一戦交えることもあるかと思った歴代の長官が貯めたものだ」


しかし、金がいくらあっても、フレアには勝てない。とケンイチが思っていると、シェフィがやってきて言った。


「これだけの資金があれば、アタシも面白いものが作れるよ。

兵隊をいくら雇っても、一瞬で消されちまうんだ。アタシに全額投資しな。損はさせないよ」シェフィは言った。


シェフィは、指先に魔力を込める。

すると壁に向かって、魔法を放った。

マクレーンもケンイチも、突然の行為に、呆然としている。


壁が吹き飛ばされる。

すると、煙の向こうに、人影が見えた。


「盗み聞きとは、相変わらずクソッたれな性格だな」シェフィは言った。


「取引の機会に敏感なだけです。商人としては褒められるべき性質でしょう」


現れた男は、悪びれずに言った。

アヴァーロだ。魔族同盟の幹部にして、大商人である。


「この金で、今からアタシの言うモノは買えるか?」


「純度の高い上物のインゴットですね。予算内なら何でも揃えますよ」


シェフィから渡されてメモを受け取ったアヴァーロは、いつもの作り笑顔で、ますます笑った。


「しかし、勝ち馬に乗らなくていいのか?アヴァーロ」


ケンイチは、再びコーヒーに口をつけると、言った。


「強すぎる馬は、オッズが低くなりますからね。

おかげで、穴馬であるあなた達に賭ける甲斐がありますよ」


「なにキザってんのよ。あんたの一番の大口顧客は、ロドング帝国だったでしょう。せっかくの取引先を潰されて、内心は怒ってんでしょう」シェフィは、笑った。


「はあ……バレていては仕方ありませんね。そうですよ、何年もかけて堕落の種を蒔いたというのに、ニングスタ王国に果実を横取りされてしまいましたからねえ。

悪魔を舐めた報いを受けてもらいましょう」



ケンイチとマクレーン、シェフィ、アヴァーロの4人は、互いの手を重ね合い、協力の盟約をむすんだ。



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