23 ありがとうタカシ
「行けっ、ゴーレム兵!!」
白衣を着た長身の女は、目の下にクマのできた不健康な眼を開いて叫んだ。
金属製のゴーレム兵たちは、侵入者を排除すべく、その巨体を一歩ずつ揺らしながら、進んでいく。
一歩進むたびに、地面は揺れて、テーブルに置かれたフラスコやグロテスクな物体が入った瓶が、地面に落ちて割れる。
鋳造されたゴーレム兵のぶ厚い装甲は、矢はもちろん、魔力機関銃すら無効化する。
1機のゴーレム兵が、その分厚い腕を横に大きく振った。その腕に当たったフルプレートの騎士数名は後ろに飛んだ。
壁に叩きつけられた彼らは、巨大な物に踏み潰されたように、その鎧ごとぐしゃぐしゃになっている。
けれど、侵入者の指揮官は動揺する様子はない。
「フレア、敵を排除しろ」
ヤマオカは、迫るゴーレム兵たちをつまらなさそう見て、言った。
フレアは、ゆっくりと頷いた。
大きな足音を立てながら、ゴレーム兵たちは進む。
その進路上に、フレアは立ちふさがる。手をかざして、血の長刀を生み出すと、横一線に一振り。
数秒遅れて、空気を斬る音がした。
そして、ゴーレム兵たちの胴体は、上下2つに分かれて、倒れた。
「バカがっ!コイツらがやられるのは想定内なんだよっ。
意識がねえのは、残念だが、人間にやられるフレアが悪い。
てめえの首、アタシが獲らせてもらうよっ!」
後方で魔法陣を展開していた白衣を着た女エルフ、大魔法使いシェフィの握る魔法杖の先端の宝石が光る。
すると、5メートルほどある魔法陣から大口径のビーム砲が放たれた。
部屋中のなにもかもが、嵐にあったかのように吹き飛ぶ。
巻き込まれた人間は、潰れて死んだ。
けれども、舞い上がった煙のなかで、フレアは、何もなかったように、先程と全く同じ場所に立っている。
「やっぱ、フレアが死ぬわけないか……やばいわ。手札切れね」
シェフィは、さすがは私のライバルと言わんばかりに、ニヤリと笑う。
爆風で白衣は破けて、その柔肌は、おろし金でもかけられたように、傷だらけになっている。
「接近戦に持ちこんで自爆ダメージ覚悟の攻撃が、効果なしとは、こたえるものがあるねえ!」
「ライバルと正々堂々と戦えて気分も晴れたろう。
さあ、研究成果を渡してもらおう。君の今後の態度の如何によっては、王国の研究員として雇ってやってもいい」
フレアの後ろに隠れていたヤマオカは言った。
「フレアの寄生虫に渡すものはないね」シェフィは、ヤマオカをにらむ。
「その寄生虫は、宿主を完璧にコントロールしている」
「アタシの研究所から盗み出した首輪でね。人のフンドシ使ってるくせに、カッコつけんな」
「黙れ。時間を無駄にした」
ヤマオカに命じられたフレアは、ランスの尖った先端をシェフィの首元にあてる。
シェフィは、大きくため息をつく。上目づかいで、フレアの目を見るが、その瞳は焦点が合わず、曇っている。
(チッ……完全に洗脳されてるね。我ながら完璧な道具をつくっちまったもんだ)
士官クラスの王国兵が、ヤマオカのもとまで走り寄ると、耳打ちした。
いつも憮然とした表情を浮かべているヤマオカの顔が、いつもと違って、頬をゆるめて少し笑った。
シェフィは、何があったのかを察した。
「研究成果は手に入った。貴様は用済みだ。
フレア、こいつを殺せ」ヤマオカは言った。
その時、爆発音が聞こえ、シェフィたちの頭上にある天井にヒビが入り、崩れた。
侵入者に備えて、分厚い石づくりとなっている天井は、巨大な石の雨となって降り注ぐ。
フレアとシェフィの間に、人間ほどのサイズがある石が落ち、石の破片や部屋の内装がごちゃごちゃになった。白っぽいホコリあたりを覆う。
シェフィは、腰のあたりにぬくもりを感じると、大柄なデュラハンに体をぐいっと引き上げられた。
ケンイチたちが、包帯を体中に巻かれた満身創痍のドラゴンに乗ってやってきたのだ。
「目を覚ませえ!フレア!」
ドラゴンの背中にのったフレアとエルフたちは、下半身の力だけでドラゴンの背に乗ったまま、弓をぎりぎりと引いて、矢を放った。
フレアは、右手でランスの柄の真ん中を握ると、そこを中心にランスを回す。
矢は、フレアの前をバリアでも貼ったように回るランスに弾き落とされた。
「やっぱり無駄か。撤退!」
ケンイチはそう言いと、ドラゴンの手綱を握っているデュラハンのユバは、ドラゴンの腹を軽く蹴った。
すると、ドラゴンは天井に空いた穴を目がけて、上昇する。
「チャーハン大魔王か!?逃さん!」
ヤマオカは、崩れた天井の瓦礫を足場に、ジャンプする。
大柄なデュラハンを含む5人を背に乗せたドラゴンの上昇スピードは遅い。
ドラゴンとヤマオカは、一瞬交差する。
ヤマオカの狙いは、チャーハン大魔王ケンイチだ。魔族同盟の反撃の目は摘んでおかないといけない、と彼は考えた。
「大魔王には、触れされないんだから!」
エルフたちが矢を放つが、ヤマオカは体を捻って回避する。
ケンイチは、やけくそで手に持っていた弓をヤマオカに投げつけ、剣を抜く。
ヤマオカとケンイチの剣が、ぶつかり合う。
「タカシのっ、めっちゃ硬い剣がっ」
「ちっ、仕留めそこなったか……」ヤマオカは、脱出するドラゴンをちらりと振り返り見て、言った。
ケンイチが、転生ガチャでもらったタカシのめちゃくちゃ丈夫な剣は、ヤマオカの剣によって折られた。
ただ、その剣の硬さは、ヤマオカも予想外だったのか、剣筋はそれて、ケンイチは生き延びた。




