22 演説
まるでミイラのように全身を包帯で巻かれたケンイチは、切り株に座って、スープを飲む。鶏ガラのだしに、人参とパセリが入った簡単なスープだ。それでも、疲れた体には染み入るように、うまい。
「どうですか?おいしい?」エルフのスジギューが言った。
「うん。美味しいよ」ケンイチは、答える。
「やったあ。大魔王さんに喜んでいただけて、アタシ光栄です。お母さんから、教えてもらったスープなんだよ、おいしいでしょ。
大魔王さんも、早く元気になって、またチャーハンつくりましょう!」
ケンイチが、意識を失っている間に戦局はひっくり返った。
フレアによって、砦が壊滅しただけでなく、本拠地であり物資を保管していた赤バラの館まで消え去ったのだ。
動揺するチャーハン大魔王軍に対し、態勢を整えなおしたニングスタ王国軍は攻勢をかけ、指揮官不在、防衛拠点もない、物資もない、チャーハン大魔王軍は敗走した。
ユバは、気絶したケンイチを馬の後ろにのせて敗走した。
ケンイチたちは、混沌の森の西側へ落ち延びた。
「一度、忠義を誓ったにも関わらず……くっ、デュラハンの面汚したちめ」
ユバは、逃げ去った同族たちに、恨み節を述べる。
一時は、100人を越えた配下の魔族たちも、どこかへ消え去ってしまっていた。
ひとり、反省会をして闘志むき出しのユバ。
キャッキャと、煮えるスープ鍋の前で、雑談しているスジギュー、ワクチ、イダコンのお気楽エルフ3人。
総勢4人だ。
「あれ……なんだろ?」イダコンが空を指差した。
空中にツボのような金属が浮かんでいる。
ツボの口から、光が放たれると、長方形に広がっていき、空に映像が映し出された。
2人の男が映っている。
『混沌の森に住まう魔族の残党ども、我が愛すべき臣民、そして本土の人間たちへ告ぐ!』
空に浮かぶツボは、巨大な映像だけでなく拡声機能までついている。
森の獣たちの鳴き声など、聞こえなくなるほどの大音量だ。
『我は、ニングスタ・ヨリヒデ!人類における唯一、正統な指導者である。
われわれは、人類の不倶戴天の敵であった、混沌の森に住まう魔族を壊滅させた!
竜人族の長老サンダーを討ち取り、赤バラの館を薙ぎ払った!
すでに魔族同盟は、壊滅したも同然である』
魔族同盟には、ケンイチの他に2人の有力者が残っている。けれど、シェフィは研究ひとすじなので、この戦いに興味はなさそうだ。
アヴァーロは、人間との裏取引で儲けているため、商売をスムーズにまわすためにも、人間国家であるニングスタ王国と対立する理由はない。
『そして、人類の同胞諸君よ!今こそ立ち上がれ!
君たちが従うのは、人材物資ともに充実しながら、それをすべて人類同士の醜い争いに浪費し、混沌の森すら長年攻略できなかった本土の無能政府ではない!
ニングスタ王国こそ、人類にとっての救世主となる!
本土の各政府に通告する!3ヶ月以内に、我が王国への帰順を表明せよ!
さもなくば、人類の未来のために滅ぼさせてもらう』
ここまでは、ニングスタ王国気合入ってんな、という感じであったが、次の発言にケンイチの肝は冷えた。
『混沌の森に居座る魔族残党へ告ぐ!すぐさま投降せよ、さもなくば、厄災の暴力が降り注ぐ!』
空に浮かぶスクリーンには、瞳から輝きを失ったフレアが映し出させる。
覇気なく、指示に従い、歩いている。
『実演しよう!我らに逆らうことが、どれほど無意味かということを』
画面は、移り変わる。
ニングスタ王国の本拠地が置かれている飛竜の巣の上空だ。
竜人族やドラゴンが、飛竜の巣の上空に集まっている。
『今、竜人族の残党どもが、愚かにも我々の拠点へ、攻めかかっている!
人類よ、魔族よ!ニングスタ王国の力を見よ!』
竜人族の残党たちは、飛竜の巣を奪還しようと攻めかかっている。
族長であるサンダーは死んだが、それでも個としての竜人族は、魔族のなかでも群を抜いた強さである。
まだ人類の技術力が未熟だった時代には、下っ端の竜人族に当時最強の人間国家が一晩で滅ぼされたこともある。
スクリーンに映る竜人族は、普段の王者ゆえの傲慢な姿はない。
血走った目で、あるものはドラゴンにまたがり、あるものは飛行魔法を使いながら、攻撃魔法を放っている。
竜人族の本気だ。魔法が一つ着弾するたびに、映像が揺れるほどの威力だ。
『やれ、厄災の吸血鬼よ』
ヨリヒデは、見せつけるようにわざとらしく言った。
フレアは、何も言わず、無表情でコクリとうなづいた。
そこからは、早かった。
カメラは再び、空中の竜人族たちへ切り替わる。
中央に、ひとまわり大きな古竜に乗った竜人族がいた。指揮官だろう。
古竜の首が、すとん、と包丁でも振り下ろしたようにきれいに切断された。
指揮官は驚いて目を見開いたが、すでに彼の首も飛んでいた。胴体側の切断面から血が吹き出す。
落下する古竜のうえにフレアは乗って、古竜と指揮官の傷口から飛び散る血をボール状に集める。
浮かぶ血のボールは、ハリセンボンのように膨らむと、爆発し、散弾となって血は飛び散った。
まるで、殺虫剤を噴射された虫の集団のように、最強の名をほしいままにした竜人族は地面へと落ちていった。
そして、空にはフレア以外、誰もいなくなった。
『というわけだ。賢明なる臣民ならきっと、我が王国の強さを理解してくれたはずだ。
腐った椅子に座る偽善者どもよ。返事を待つ』
ヨリヒデが、そう言い捨てると、映像は終わった。




