21 砦の魔族たち
赤バラの館は、混沌の森の中心部に位置する。
人間の勢力下から森の中心部に進むためには、標高500メートル程度の小さな山を抜けなければならない。
他のルートは、人間の数倍の身体能力を誇る魔族ですら通過は難しいほどのガケ同然の山がそびえており、軍隊が通過するのは難しい。
ケンイチは、その小山に砦をつくるようユバたちに命じた。
というか、ユバが「防御施設として砦を作ったほうがいいとおもいますよ」とケンイチの面子を潰さぬように、さりげなくアドバイスしてくれたおかげだ。
山頂付近にある泉を中心に、崖や大岩を利用した防衛拠点ができあがった。
その頂上で、ケンイチは、おにぎりを食べていた。素人が口を出しても迷惑なので、司令部の端っこで、景色を見ながら座っている。
ユバに、「ケンイチ様が姿をお見せすれば兵の士気があがります」と無理やりつれてこられたのだ。みんなが忙しそうに仕事をしているなかで、ひとりのんびり座っているのは、居場所がなく、つらい。
ケンイチが、ぼうっとしていると、遠くから馬の駆ける音が聞こえ、次第に近づいてきた。
乗馬したデュラハンが、司令部にやってくる。
「敵およそ10,000!旗印からして、ニングスタ王国軍と思われます。
チャーハン大魔王、どういたしましょう?」伝令役のデュラハンは言った。
「えっ……どうしよ「決まっているだろうぉ!?迎え撃てええ!エルフ隊、ドワーフ隊にも伝えろぉ!」ユバが叫んだ。
ユバは振り返って、ケンイチを見ると、先程とは違う優しい声で言った。
「迎撃でよろしいですよね?ケンイチ様」
「……うん」
ケンイチは、おにぎりを食べながら、小声で言った。ユバさん、怖い……
戦闘が始まる。
小山のふもとはニングスタ王国軍でうめつくされた。
小山は、険しい斜面が多いが、東側だけは傾斜も緩い。守備側が身を隠す障害物も少ない。
攻め上がるには、絶好のポイントだ。
ニングスタ王国軍は、東側の斜面から攻め上がる。機動力に優れた軽鎧を着て、槍や剣を持った兵隊が駆け上がる。魔法が使える兵隊も多いので、突撃しながら、エネルギー弾を打ち込んでくる。
「首なし騎馬隊、準備はいいか?」ユバは言った。
山頂には、20騎ほどの首なし馬にのったデュラハン騎士が集結している。
一気に、斜面を下るつもりだ。
突撃しようとすると、騎馬の足元に、銃弾が飛んでくる。
敵の突撃部隊の後方に、機関銃部隊がいる。弾幕を張り、騎馬の突撃を防ぐつもりだ。
ユバは、突撃をとりやめ、騎馬隊は山頂に待機する。
敵は、順調に斜面を登る。
敵が斜面の中腹までくると、ユバは手を挙げた。
すると、砂塵が巻き起こり、地面が陥没した。
ドワーフたちが、斜面の地下に、大穴を掘っていたのだ。一の字型に横一直線にひろがる穴は、敵部隊を2つに分断した。山頂側に、歩兵部隊。ふもと側に、機関銃部隊だ。
まずは物陰に潜んでいたエルフたちが、護衛である歩兵のいなくなった機関銃部隊に襲いかかった。
岩陰から、魔法を付与した弓矢を打ち込み、場所をすぐさま移動する。
竜人族すら葬り去った機関銃は、強力であったけれど、エルフたちの居場所が分からない。
恐怖のあまり、乱射して味方を撃つものまでいる始末だ。
こうして、機関銃部隊が無力化されると、山頂からデュラハンの騎馬隊が突撃を開始する。
数千人の歩兵部隊に対して、20騎だが、そこは魔族。
魔法が付与され、エフェクトのかかったミサイルかのような突撃が始まる。
デュラハンの突撃を受け、まるで爆撃でもされたかのように、人間たちは吹き飛ぶ。
一騎で、大隊まるまる吹き飛ばしている猛者までいた。
東側以外の場所に目を向けると、崖ばかりの斜面から登ろうとする部隊もあった。
が、煮え湯が降ってきたり、毒矢が飛んできたりと、エルフたちの殺意ましましのトラップで、死傷者が続出する。
どうにか、崖を登りきった兵隊も、空からワイバーンの襲撃にあって、再びふもとへ叩き落された。
ケンイチは、山頂で、眼下に広がる光景を見ていた。
敵軍の数がみるみるうちに減っていく。
「勝ったな……」
特になにもしてないが、感慨深くケンイチはつぶやいた。
将帥ムーブをして、悦に浸っていたケンイチだが、山のふもとから、突然、なにか飛んできたかと思うと、吹き飛ばされた。
幸い、泉のなかに落ちたので怪我はなかった。が、全身を水面にうちつけて、悶絶するほどに全身が痛い。
びしょ濡れになり、水を吸った服の重さを感じながら、泉から這い出る。
すると、砦の中心部が吹き飛んでいた。
何もなくなっていた。城壁がわりの大岩は、上半分が消え、その向こうにあった櫓は消えてなくなっている。ガレキもまったくない。全てキレイに消え去り、着弾したと思われる場所にはクレーターが広がっている。
ケンイチは、呆然と立ちすくむ。
すると、再び、何かが、山のふもとから飛んできた。
避ける気力も、余裕もなかった。
真紅のドレスを着た、美女が、壊滅した砦にひとりぽつりと来た。
「フレア……どこいってたんだ。探したんだよ、ほら、今、ピンチなんだ」
ケンイチは、うっすらと分かっていた。
でも、一縷の望みにかけて、聞いた。
「…………」
フレアから返事はなかった。
ケンイチに目を向けることなく、ロボットのように、規則だった動きで、砦の向こう側へ向けて歩いている。
そして、赤バラの館がよく見える場所で立ち止まると、手に巨大なランスが形成される。
「やめるんだ!おい、どうしたんだよ?」
ケンイチはフレアに駆け寄る。
フレアは、ケンイチをまるで存在しないように、動く。
フレアは、ランスを投げた。
日光に、ランスの周囲を覆う血が反射して、キラリと光るのが一瞬見えた。
すると、森の中央部で爆発が起きる。
一瞬あいだを置いて、爆風がやってきた。
ケンイチは意識を失った。




