17 どたどたばたばた
傷ついたワイバーン族集団が、赤バラの館にやってきた。
彼らの本拠地である飛竜の巣は、植民地軍に占領されたそうだ。
「ワイバーン族に手を出して、竜人族はどうしているんだ?」ケンイチは言った。
「サンダーのジジイが死んだらしいわよ。どうも人間に討ち取られたって」フレアは紅茶を飲みながら言った。
「どうやったら、あの爺さんを殺せるんだ」
かの老人に殺されかけたケンイチとしては、腕力もあり、魔法も一流、そのうえドラゴン特有のぶ厚いウロコに守られたサンダー老人がやられる姿は、想像できない。
「まあ、吸血鬼たる私なら、余裕だけど?」
「こんなときになんでマウントをとるんだ……」
逃れてきたワイバーン族から聞き取りを行うと、どうやら竜人族の精鋭部隊は、植民地軍を襲撃して負けたらしい。
その際に、サンダー老人は戦死。
混沌の森の魔族たちにとって、反撃の希望であった飛竜の巣には、ワイバーン族の守備部隊が残っていただけで、人間の攻撃を受けてあっさり陥落したそうだ。
ケンイチは、テーブルの上に地図を広げて、南部の森と飛竜の巣にバツ印を書き込む。
「赤バラの館は、包囲されつつあるぞ」ケンイチは地図を見て言った。
人間との国境地帯にある混沌の森の南側と、東側にある飛竜の巣が落ちたことで、森の中央部に位置する赤バラの館は、人間の支配地域にくの字で囲まれている。
ワイバーン族の情報によれば、植民地軍は2,3万人はいるそうだ。
対するコチラは、総勢100人もいない。
それに、非戦闘員や怪我をしている者も多い。
「アタシが行ってくるわよ。人間なんてオヤツなんだから。ああっ、ダーリンは別よ」フレアは言った。
ケンイチも、いざとなれば、フレアに頼んで一騎当千やってもらえばいいじゃんと思っていた。
だが、サンダー老人を殺せる実力者が、植民地軍のなかにはいる。
それに、竜人族の部隊をどうやって壊滅させたのかも、気になる。
「フレア、行くのはやめてくれ。相手はサンダーを殺せる実力者がいる」
「なに?私の実力を信頼できないっての?」
フレアの瞳の紅色が濃くなる。怒っている。
ケンイチはごほん、ごほんと咳払いをすると、腹の底に力を入れて、ハスキーボイスで言った。
「……俺が、君の婚約者にふさわしいところを見せたいんだ。俺の力を試させてくれ。なあ、いいだろ?……ホントのピンチになったときには助けて欲しい」
ケンイチはフレアの小さな顎に触れて、瞳を見つめて言った。
「ひゃ、ひゃい」
フレアは顔を真赤にして、コクンコクンと頷いた。
周囲の魔族たちは、「あのフレア様を……流石はチャーハン大魔王」と感心している。
ここ数日、デュラハンやエルフたちとも話したが、魔族も普通に気のいい連中だ。
フレアとケンイチだけなら、混沌の森を捨てて別の場所で生きていくことも可能だが、ユバたち普通の魔族には難しい。
他の魔族の支配地域で、肩身の狭い思いをしながら生きていくか、人間の支配下で奴隷同然の暮らしをしていかなければならない。
ケンイチも、ここ数日で情が移ってしまった。ユバやスジギューたちを助けたいと思う。
それに、フレアに頼りっぱなしのヒモ生活はつらい。
フレア自身は気にしていないだろうけれど、居候している気分になる。まあ、現に居候なのだけれど。
「よしっ、俺たちで植民地軍を迎え撃つぞ!陣地の構築をいそごう!」ケンイチは言った。




