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16 竜人族の恐怖

空の王者、竜人族。

伝承によれば、世界を創造した龍が人の形をとって、魔界に降り立ったのが始まりという。

大そうな伝承は、ハッタリではない。

最強モンスターであるドラゴンを使役するとともに、彼ら自身も、背中に生えたその大きな翼で空を飛ぶことができる。


竜人族の四肢は、分厚いウロコで覆われており、ドラゴンのウロコ以上に防御力は高い。剣は通らず、魔法をはねかえす。

平均的なドラゴンは10メートルほどの大きさである。一方、竜人族は、2メートル程度の肉体にもかかわらず、ドラゴン以上のパワーを誇る。

そして、魔法適正もエルフ並であり、強力な魔法を使いこなすこともできる。


その本能的に理解わからせられてします実力差ゆえに、気難しいドラゴンたちも竜人族を主として認めている。


圧倒的王者として君臨する竜人族は、余裕のなせるワザか、世俗の争いには無関心であった。

ところが、動いた。


人間たち率いる植民地軍は、沈黙の森の周辺部の諸部族を滅ぼした後、竜人族傘下のワイバーン族の本拠地、飛竜の巣への進軍を開始したのだ。


竜人族における対人間・魔族の窓口であり、竜人族の忠臣、ワイバーン族からの救援要請を受け、竜人族の族長サンダーは、非常呼集をかける。

増長する人間たちを、ここらで打ちのめそうというのだ。


族長サンダーは、竜人族の精鋭2,000人を率い、飛竜の巣へ向かう。













植民地軍第3軍団は、混沌の森の南部を制圧後、そのまま北上を続けている。

途中、いくつかワイバーン族の小規模の拠点を発見し、すべて制圧した。多少の抵抗があったものの、C級冒険者でも、討伐事例があるような弱小種族だ。魔族討伐のため、寝る間も惜しんで訓練に取り組んできた第3軍団の敵ではない。

現在、第3軍団は飛竜の巣に向かって行軍している。

ワイバーン族は、空を飛べる利点を生かして徒歩ではたどり着くことが困難な険しい場所に住んでいる。

本拠地の飛竜の巣も例外ではなく、岩山の頂上部にある。

第3軍団は、両側に崖がそびえる谷を進んでいる。

険しくかなりの脱落者が予想されるが、数少ない飛竜の巣にたどり着けるルートだ。




「南部の攻略に手間取ったが、それ以後は順調だな」第3軍団長であるヤマオカは言った。


「これも閣下の統率のなせるワザです。

多少の被害はありましたが、問題はありません。飛竜の巣まで、あと半日あれば、到着するでしょう」副官のキタカタは、報告書を読み上げて言った。


「わが祖国の再興も近い……」ヤマオカはそう呟くと、空を見上げる。先程まで群れになって飛んでいた鳥たちがいない。森の生き物たちの声も騒がしくなったかと思うと、声は次第に遠ざかっていく。


「ふふっ、虎の威を借りるキツネは、虎を呼んだか。防衛拠点にこだわらず襲撃するセンスも優れている。敵にとって不足なしよ」ヤマオカは言った。


キタカタは、あわてて首にかけていた双眼鏡で前方の空を見る。レンズの先には、大きな翼を羽ばたかせるドラゴンの群れが見えた。


「各隊、対空防御陣、展開!トカゲ1匹とおすなよ!」キタカタは、叫んだ。





谷底を進んでいる第3軍団へ向け、急降下したドラゴンは、火炎を放つ。

岩陰に隠れて、弓矢や魔法を放っていた人間たちの部隊は、一瞬で、黒焦げになった。

そのままドラゴンは空へ戻ろうとする。

タタタンと乾いたタップ音が聞こえると、ドラゴンは力なく地面へ墜ちる。

別の岩陰に潜んでいた魔法機関銃部隊に蜂の巣にされたのだ。

圧縮された魔力の銃弾は、ドラゴンの分厚いウロコを、まるでクッキーに穴でもあけるように、たやすく貫通する。


ドラゴンの背に乗った竜人族は、愛竜の死に激怒し、その剛力で近くの穴に潜んでいた兵士たち数名の首をねじ切ったが、複数陣地からの十字射撃を受けて、愛竜と同じように穴だらけになって死んだ。


そういった光景が繰り返される。羽は穴だらけになり墜ちるドラゴン、ファイアブレスで燃えあがり断末魔のうめきをあげる人間たち、機関銃の餌食となる竜人族。


次第に、竜人族側の被害が増えてきた。

ここ数百年、竜人族対策を練ってきた人類、圧倒的強者として研究などしなかった竜人族の差が出てきたのだ。

だが、圧倒的強者としてのプライドがある竜人族は退くことはできない。

先行した味方がやられようとも、人間たちが待ち受けている谷底へ向け、突貫していく。







「ヤツを討ち取れば、将軍になれるぞ!」


ある機関銃魔術師は叫んだ。すでに魔力が欠乏寸前でふらついているが、野心が彼を動かしている。

こんな泥のなかで、みじめな思いをするのも今日限りだ。

本土に栄転して、英雄として後方勤務が待っている。


なぜか?

堡塁越しの向こうには、竜人族としても大柄な老人が立っているから。

手配書で見た。竜人族の長老だ。

彼はありったけの魔力を、機関銃に込めた。

魔力切れでかすむ目をこすりながら、標準を老人の胸に合わせる。50メートルもないこの近距離からであれば、いくら竜人族のウロコが厚かろうと貫通できる。

彼は引き金を引いた。


「へっ?」


老人がこちらに向けて、拳をふるう。

放たれた銃弾は吹き飛ばされ、拳の風圧だけで、堡塁から出ていた彼の首は飛んだ。首のなくなった身体が、地面に転がった。


白兵戦に切り替えた野心家たちは、兵士は銃剣を構え、魔術師はワンドを握りしめて、老人に向けて突撃する。

そんな醜い欲望を垂れ流す野心家を、老人はミンチにしていった。



「これ以上、兵を失うわけにはいかん」たった1人になっても、暴れ続ける竜人族の老人を見て、ヤマオカは言った。


「ですが、軍団長!危険です」キタカタが制止する。


「ここで死ぬようなら、祖国復興はできぬ定めよ。とめるなよ」


ヤマオカは刀を一本腰に差し、散歩でもするように、竜人族の老人のもとへ向かう。


「竜人族族長サンダー殿とお見受けする。

私は、植民地軍第3軍団長であり、ニングスタ王国戦闘隊長、ヤマオカ・ゼンだ」


「ワシは竜人族の長、サンダーだ。人間よ、ワシを名乗らせるとはやるのぅ。ガハハ」


サンダーは、血まみれになった顔をぬぐって言った。


「老人!恨みはないが、祖国復興ため、その命、もらいうける!」


ヤマオカは、刀を抜いて駆け出す。


「やってみろ!小僧!」


サンダーは、竜人族自慢のツメに、風魔法を付与する。高速必中の斬撃だ。

2人の戦士が、ぶつかる。


「なっ!?」サンダーは、苦い顔になる。


ヤマオカの刀は、刀の峰をサンダーのツメを優しくなでるように当て、ツメの方向をわずかにずらした。


ツメは狙いを外れ、ヤマオカの両肩をえぐるが、致命傷ではない。ヤマオカの刀は、未だ振り下ろされることなく、頭上にある。

サンダーの伸び切った両腕がヤマオカの背中に回り込み、まるで抱いている態勢になる。密着する二人。

魔力の込められた刀が青白く光る。

ヤマオカは刀を振り下ろした。

サンダーの頭部に一閃。


「敵将サンダー、討ち取ったりィィィィ!!!」

ヤマオカは叫んだ。


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