15 本領発揮
大半の避難民は、チャーハン大魔王軍に加わった。
デュラハンとエルフが20人ずつ。あと、ワイバーンやドワーフなど数名が加わった。彼らは部族単位ではなく個人で逃れてきたらしい。
全員、ケンイチより強そう。
ケンイチは、大きな中華鍋をふるう。
ジュッと音がなり、卵と混ぜ合わせた白と黄色に染められたお米が、中華鍋に入っていく。大量の食材を扱いながらも、すべての食材、お米の一粒、ベーコンのひとかけら、ひとすじのピーマン片までも手にとるように分かる。
ケンイチの持つチャーハンスキルのおかげだ。
「もっと、まんべんなく火力を分散しろ!中央が強すぎる!」ケンイチは叫んだ。
「はい、大将!イダコン、ワクチ、もっと魔力を薄く広げるイメージよ。魔法学校で何を習ったの!」
若手エルフのスジギューが言った。必死に、中華鍋の下にあるかまどの火力調整を魔法でおこなっている。
「なんで、ギューちゃん。必死なの?めっちゃウケる」
片手でカールした髪をなでながら、もう一方でやる気なさげに、魔力を送り込んでいるのは、同じく若手のエルフ、イダコン。
キーチェーンみたいなアクセサリーを魔法杖にいっぱいつけて、ラメ入りのシールを貼っている。
ギャルだ。
「スジギューは、美味しいモノに目がないからね。他のことにも興味を持ってくれるといいんだけど……
それに、スジギュー、あなた、魔法学校では寝てただけじゃない!」
メガネをかけたエルフ、ワクチが言った。彼女は、やる気はないようだが、真面目に両手をかざして、魔力を送り込んでくれている。委員長タイプか?
中華鍋の表面に均一に強火が広がったことで、卵でコーティングされたお米が美しい黄金色に変わっていく。
スナップを聞かせて、お米を宙に飛ばし、再び着地する。シェイクされた具材の水っぽい部分が、熱せられた鉄と触れて、ジュワっと音を立て蒸気が生じる。
「はい、お待ち!」
ケンイチは大型のおたまでチャーハンをすくい、館から持ってきた皿に盛り付ける。
常人なら、これを2,3回繰り返せば、疲れ切ってしまう。
けれど、ケンイチにはチャーハンスキルがある。チャーハンに関わるステータスは、すべて限界突破する。
ケンイチは、並列思考スキル(チャーハン限定)により、50名近いチャーハンづくりを進める。
並列思考スキル獲得に血のにじむ思いをしたシェフィがこの光景をみたなら、ケンイチを殺しても文句は言えない。
即席のテーブルの上には、エルフやデュラハンたちが、半球状でお皿に盛り付けられたチャーハンを置いていく。チャーハンの完成度を高めるためなら、スキルは発動するので、卵スープまでついている。
「ワシは、胡椒を信じる」自分の席にチャーハンが置かれた、あるドワーフは言った。
なお、あるドワーフは一口も味見することなく、チャーハンの上に山盛りの胡椒をぶっかけようとしたため、半殺しにされた。
「「いただきまーす!!!」」
テーブルについた魔族たちは、レンゲを握ってチャーハンを食べ始める。
「うまい!うますぎて、他にいいようがない!」あるデュラハンは、チャーハンがうますぎて鎧が爆散した。
「おほおおおおお!!!うまっ、うましゅぎる!うましゅぎるのおおおおぉぉぉ。おかわり、欲しいっ、欲しいのぉぉぉ!!!」
スジギューは、その美しい容貌をぐちゃぐちゃに溶かして、口の端からよだれを垂らし、目の焦点が定まらない状態で、痙攣している。
仲間の二人のエルフ、イダコンとワクチは、食事中に汚いものを見せるなよと、頬をぴくぴくさせて顔面が固まり、すっかりスジギューに引いている。
「ああ、こんなに美味しい食事は、お腹をすかして帰ったときに、母が作ってくれた料理以来だ……ありがとうチャーハン大魔王」
ユバは、大粒の涙を流しながら、レンゲにすくったチャーハンを口へ運ぶ。彼は、思い出グルメ路線だ。
「うまかった。いや、うま勝った……うし負けた!」
そう言うと、突然、デュラハンから、ミノタウルスに進化した者までいた。なんで?
「ケンイチ、チャーハン、うまっ!おいひい~」
料理の匂いをかぎつけて、いつの間にかチャーハンを食べているフレア。小さなお口で、何度ももぐもぐしながら、食べている。かわいさ1万点!
食べ終わると、お腹がいっぱいになったのか、ぷはあ、と背もたれに体重を預けている。
ケンイチは、全員が食べ終わると口を開いた。
「せーの。チャーハン」
「「「「サイコー」」」」
こうして、ケンイチは、魔族としての一歩を踏み出した。
ただ、こうした間も、植民地軍の侵攻は進んでいたのである。




