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13 お話できるかな?

朝、ケンイチは起きて、何気なく窓から外を見た。

すると、館のまわりをぐるっと囲むように、キャンプができていた。

厄災の吸血鬼というあだ名を持つフレアが恐ろしいのか、塀から少し離れた場所から、館を中心にして円を描いてテントが並んでいる。



「どうしたんだこれは……」


ケンイチは、カーテンを閉めようかと思った。


「あら?私の家に入ってこないのは感心だけど、景観の邪魔ね。消してきましょうか?」隣のベットで寝ていたフレアが起きてきて、ケンイチの横に並ぶと言った。


「待て待て、そう簡単に殺すなよ。俺が様子を見てくる」


ケンイチとしては、フレア(超かわいい)の倫理観にビビる。なんで、窓開けるノリで殺そうとするんだよ。吸血鬼、オニ怖ええ。


ケンイチは、タカシから譲り受けた軽戦士の装備を身につける。カタログギフト魔法でスーツや作業着を召喚したかったけれど、自分が心の底から媚び売りたいと思わない限り発動できないので、注文できなかった。


ケンイチは、フレアのクローゼットで見つけたワイシャツとスラックスを下に着て、上にタカシの軽鎧を装備する。久々にチクチクしない下着なのは喜ばしいけれど、ちぐはぐな格好だ。そのまま玄関へ向かう。


庭園を通り過ぎ、門を開ける。すると、一斉にケンイチに視線が向いた。

相手からすると、自分たちの生殺与奪を握るフレアからの使者が来たと思うのだろう。

自分より強そうな人がうじゃうじゃいる、とケンイチは思った。やっぱり知らんぷり決め込んで二度寝したほうが良かった。


「何用だ……ここはフレア様の館だぞ」ケンイチは精一杯の低い声で言った。


ここはロールプレイ。いかにも、フレアの代理人(実際にそうなのだが)っぽく振る舞う。冷酷な吸血鬼の忠実な執事。

言った後、ボロボロの軽鎧の下に不自然なほど整ったワイシャツとスラックスと、自分が執事としては変な格好をしているのを思い出したが、これが正装なんだと思い込ませる。相手もきっと勘違いしてくれるだろう。


「私は、ユバという者です。このキャンプのリーダーをしています。私たちは、人間に追われここまでやってきました。赤バラの館の近くは、人が近寄らないと聞いたものですから。

ご無礼をお許しください」


騎士の鉄鎧を身に着けたさわやかイケメンが答えた。彼は一礼すると、首がポトリと落ちた。そして、拾い上げ、何もなかったかのように、首の上へ据えた。


「失礼。留め具が緩んでいたようです」


ユバはチョーカーをギュッとしめた。

デュラハンだ。存在は知っていたが、初めて見た。

ワイシャツの上にボロボロの軽鎧を身に着けているケンイチと比べ、よく手入れされたフルプレートの鎧を身に着けたユバのほうが、よほどフレアの家臣に見える。


まわりを見れば、エルフやコボルトなど、森の周辺部に拠点を構える魔族たちが、疲れた様子でテントのなかで座っている。包帯を巻かれているものも多い。治癒魔法使いが不足しているのだろう。


ケンイチの知っている限り、エルフやコボルトたちは冒険者たちに激しく抵抗、それどころか時には、反撃すら加えて、数多くの冒険者を討ち取ってきた者たちだ。


「エルフやコボルトたちには、堅固な拠点があるはずだが。どうして、こんな森の奥まできたのか?」ケンイチは言った。


「森の南側に住む魔族は壊滅しました。私たちは、普段は反目しあっていましたけれど、もはやそのような余裕もなく、森のなかへ落ち延びたわけでございます」ユバは言った。


「はっ?」ケンイチは思わず声が出た。


魔族同盟が人間に対抗するぞ宣言を出して一週間も経っていない。魔族は団結して人間に対抗しますという、宣言を引っ張り出した時点で、ケンイチは自分の役目は終わったと思っていた。


ケンイチは魔族の対人間軍司令官に任命されたが、何も準備していない。権限も与えられてないし、資金もない。名義貸しみたいなものだ。

ここ数日は、フレアといちゃいちゃしていただけだ。一緒に、ご飯食べたり、お散歩したり。

フレアによって、多くの冒険者が葬られたため、人間側は当分のあいだ動くことはできないと、ケンイチは思っていた。


もし実際に動くことになっても、どうせ異世界なんだから不遇だけど実は有能だった系の天才を見つけて、そいつに任せたらいいだろう、なんて思っていた。


ケンイチの甘い考えは打ち砕かれ、サラリーマン時代、ボーとしていたら、やらかし発覚の電話がかかってきた時なみに意識が覚醒する。

フレアとのイチャイチャの雰囲気も全部吹き飛んだ。


「馬鹿なっ、エルフの谷なんか、冒険者がいくらやってきもびくともしない要害だったろう。コボルト機動部隊だって、どうやったら冒険者が勝てるんだよ?今は、AランクもBランク冒険者もいないんだぞ?」


ケンイチは、フレアの忠臣ロールプレイをするのも忘れて言った。


「人間どもは、軍隊を出してきました」ユバは言った。


「げえっ!植民地軍が出てきたのか!……この森は先に冒険者ギルドがツバをつけていたはず。なりふりかまわず、この森が欲しいってのか」


「私の村も、攻め込んできた部隊の3つ4つは消し飛ばしましたけど、人間は数が多く、力尽きました……無念です」


質のギルドと数の軍隊と言われている。

強者の魔族なら、一般兵数十人を普通に相手できる。そのため、魔族には個々の技量に優れる冒険者が相手をするのが良いと言われている。


大半の構成員が訓練された一般人である軍隊は、もっぱら、人間相手か、モンスター相手だ。

魔族を追い払った土地にも、害獣と同じでモンスターは出現するため、それらを退治するために軍隊は用いられている。

また、植民地は本土を追いやられた者たちの新天地であるため、反乱や山賊集団なども出現する。それらを鎮圧するのも植民地軍の仕事だ。


本来なら冒険者が獲得した土地を地固めするために用いられる植民地軍を、森へ侵攻させたということは、いくら損害を出そうとも、混沌の森を征服するつもりだ。


(まずい……あの宣言に名前載っちまったし、俺、人間に捕まったら殺される)


ケンイチなのかで、あの宣言の重みが、急にどしりと乗りかかってきた。

緊張で心臓の鼓動ははやくなっていくのに、身体の芯は急速に冷えていく。お腹が痛くなった。




その後、ケンイチは避難民たちに「フレア様にお伺いする」と言って立ち去り、便所にダッシュした。                    

緊張のあまりスクランブル発進寸前になっていたブツをひねり出し、スッキリしたケンイチは、フレアに「避難民たちを配下にしていい?」と聞いたら「めんどいからイヤ」という答えが返ってきた。


「だって、私の配下にすると、連中が揉め事を起こした時に、巻き込まれるじゃない」


ケンイチが都合の悪いことを隠そうとした時、フレアは妙に勘が鋭い。正論である。


「言ったでしょう。面倒事は、根本的解決が必要なのよ。これぞ長き時を生きる吸血鬼の知恵ね」


フレアはそう言うと、屋敷の外にキャンプしている魔物たちに、ブレッド・ランスのミサイルを打ち込もうとする暴挙に出た。

脳筋解決はやめろ。


「待て!そうだ、俺の配下にするから、殺すのはやめてくれ」ケンイチは言った。


「それなら、景観の邪魔になるのも我慢するわ。だって愛するケンイチの部下だもの。もちろん、無礼なら殺してもいいよね?」


1人のエルフが、こっそりと柵を登って庭園に侵入しようとしていた。何か盗み出すつもりなのだろう。

フレアが、フッと軽く腕を振る。

真紅のかんざしが、エルフの頭蓋を貫いた。彼は、力なく屋敷の外へ、落ちていった。


「ひっ……ケースバイケース……」ケンイチはかすれた小さな声で言った。


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