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12 謎の幹部

とりあえず、第43回魔族同盟定例幹部会議は無事終了した。


これまで名ばかりであった魔族同盟が、竜人族長サンダー、大魔法使いシェフィ、悪魔族最大企業の会長アヴァーロ、古の吸血鬼フレア、チャーハン大魔王ケンイチのもと、団結して人間の侵略行為に対抗することが、宣言された。


魔族、人間を問わず人々のあいだでは、突如、宣言に名前が載ったチャーハン大魔王ケンイチとは何者か、しばらく話題になったという。

あるウワサによれば、かつて繁栄した王国を、一晩でチャーハンまみれにして滅ぼした呪われし魔術師。

別のウワサでは、呪われしチャーハンを司る邪神であるとか……呪われしチャーハンってなんだよ。


実態は、魔族同盟の実務を嫌ったフレアたち4人が、ケンイチに仕事を押し付けるため、宣言に名前を載せたのである。

実質的に、ケンイチは対人間の司令官を務めることになった。



魔族が動き始めていて、人間側が何もしていないはずはない。

人間サイドでも、混沌の森侵攻作戦についての計画が動き始めていた。




植民地政府庁舎の長官室には、関係者たちが集まっている。

革張りの来客用ソファーに腰掛け、落ち着きのない様子で、コーヒーを飲んでいる中年の男。ケンイチの所属していた冒険者ギルドのギルド長である。


対面に座るのは植民地政府のトップであるマクレーン長官である。


魔導技術が発展し、人類が魔族に対抗できるようになっても、長らく人類が魔族の土地を奪い取ることはなかった。


なぜか?


それは人間による統一国家を建国した後に、領土拡大に乗り出すべきという考え方が主流であったからだ。

ひたすら人間同士の流血がつづき、共和国、帝国、王国、都市国家連合といくつかの大国は生まれたけれども、人間領を統一できそうな勢力は生まれなかった。

そこで、内輪揉めにうんざりした人類は、従来の統一政権方針を捨てた。停戦協定を結び、各国共同で、各国から独立した機関として植民地政府を樹立。

領土獲得へ向け、周辺の魔族領への侵攻を開始した。

獲得した植民地は植民地政府を通して富を吸い上げ分配され、長年の戦乱で疲弊した各国は、国力回復につとめている。

人間同士で争うよりも、魔族を襲うほうが効率が良いと気がついたのだ。


植民地行政区において、領土拡大事業はもっとも重視されている。

冒険者ギルドは、軍隊とならんで、メイン事業である領土拡大に貢献できる組織として、期待されてきたのだ。


「ギルド長よ、コーヒーを飲むのも良いが、古の吸血鬼討伐クエストの結果を報告してくれないか?」マクレーンは言った。彼は黒ぶちのメガネを触って微調整する。


「はっ、はい。A級冒険者7名、B級19名死亡です。館の外で雑用をしていた一部の者を除き全滅です」ギルド長は言った。


「西部地区のエース冒険者であるガガムのパーティーが全滅したと聞いた。相手はかなりできるようだな」マクレーンは言った。


ギルド長は、マクレーンがすでに討伐クエストの結果を知っているにも関わらず、なぜ人がいるところで、再度報告させるのか、と多少の怒りを覚える。


「これは君の認識不足ではないのかね?人類の完全勢力下にある本土より遠く離れたこの地では、腕利きの冒険者は、鉱山よりも貴重だ。獲得した土地を維持、拡大するためには強さが最も求められるのは君も重々知っていることだ。

その上位層である、A級とB級を大量に死亡させるとは……

西部地方の冒険者ギルドは開店休業状態ではないか。これは責任問題だ」マクレーンは言った。


「しかし、長官。これまでの魔族討伐の前例を踏まえると、過剰戦力ともいえる陣容でした。これは、私の責任ではなく、相手の魔族が異常であると考えるべきです。ここは、混沌の森には、手をつけず別の場所を狙うべきでは?」ギルド長は言った。


マクレーンは、自分の目の前に座るふてぶてしい男に、怒りを感じる。

大義を忘れ、己の職分を無視し、保身に走る男。こんな人間ばかりだから人類の発展は遅れてきたのだ。

確かに、この男にしては、今回の討伐クエストはよく練られていた。だが、伝承に伝わる厄災の吸血鬼を軽視し、植民地政府、それどころか人類を危機に晒した罪は重い。


「魔族同盟は知っていますよね?」


「はあ、知っていますとも。魔族の互助会でしょう。投降した魔族たちの話によれば、実態はないようですけれど」


「その魔族同盟の幹部には、厄災と呼ばれる古の吸血鬼がいることが分かっている。

今回の討伐クエストを受けてここ数十年なんら動きのなかった魔族同盟が、宣言を出した。厄災の本拠地を攻撃されてメンツを潰されたのだろう。

はっきりと書いてある<我々は、人類の侵略行為に対し、団結し、対抗する>と。

この宣言の意味が分かるか?

いままで、仲間意識の欠如していた魔族たちが、お互いに連携することを宣言したのだぞ?

貴様の言うような弱い魔族を狙う作戦は、これからはとれなくなる!一つを攻撃すると、他が襲いかかってくるのだ!

人類の植民計画は、大幅に遅れる。その間に、本土の人口増にはどうやって対応する!?食糧問題は!?

それどころか、今まで、やられっぱなしだった魔族が植民地領に攻め入ってくるかもしれないのだぞ?

貴様が利益に目がくらんで独断でした作戦、自分のやった意味がわかっているのか!!」マクレーンは叫んだ。


「考えすぎでしょう、長官。魔族にそのような団結力などありません。しょせんはうわべだけの宣言です。

私は反省しております。私の本国のツテで腕利きの冒険者を呼び、若手の冒険者を育成し、ギルド長として戦力が回復するまでは持久戦に徹しておきます」


ギルド長は、自分の今後のプランを述べていく。自信たっぷりに。


「もういい!貴様のような、楽観主義者は、更迭する!」マクレーンが言った。



「冒険者ギルドへの人事の介入は、認められていませんぞ!植民地政府に認められているのは、助言および指導までだ。このことは、本部へ報告させていただく」ギルド長は言った。


「どこに不満を垂れようと、結構!この俗物を独房へ放り込め!

西部地方に戒厳令を出す。手はず通り第3軍団を出動させろ!これより西部地方冒険者ギルドは、第3軍団の指揮下におかれる」マクレーンは宣言した。


「そんな無法が許されるとでも!」


ギルド長は叫ぶが、衛兵たちに拘束され、部屋から連れ出された。


(人類の時計の針を逆回りさせるわけにはいかんのだ。頼むぞ、ヤマオカよ)


部屋から急ぎ足で立ち去っていく職員をみながら、マクレーンは歯ぎしりする。


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