《8》
無線を使った通信連絡、タブレット端末への直電ともに応答はなく、無料通信アプリのリプライにも既読マークが一向に付く気配が無い。
とにかくラジ館へ向うと駅舎を出ると案の定、そこかしこで『海保』の文字が入った黄色いベストを着る取締り員がウロウロしていた。
コレだけ海保隊員が居て、連絡に一切反応がないこの状況、まさか本当に捕まったのではなかろうか?
(もしそうなら、マズいな。‥ったく、世話の掛かる奴だ…)
苛立ちと焦りを紛らわせようと、生乾きの髪の毛を乱暴に掻く。
しかし変に全力で走ると職質を食らうので、ほどほどの早足でラジ館の入り口をくぐった。
流石はアキバのランドマーク、先ほどのユニーロ程ではないが適度に混んでいる。
駅舎ビルを『初心者向け』と位置づけたが、だとするとラジ館ビルの内容は『中級者向け』といったところか。
水上に露出しているのが建物的に最上階と屋上のみで、そもそも店舗の絶対数が面積の関係上、駅舎ビルとは比較にならないが、その分雰囲気がグッとアキバらしい。
営業している店の大半はアニメ関連のグッズショップやプラモ、フィギュア、トレーディングカードの専門店。
衣類品を取り扱う店もあるにはあるが、品揃えは痛Tシャツかコスプレ衣装がほとんどだ。
本屋でもマンガとラノベ、同人誌の占有スペースが広く、趣味関連の雑誌が通常の書店よりも明らかに多い。
(取り敢えず、ココに居ないか…)
まず足を運んだのは、水没層との境目となる階段の踊り場。
既に海保が十数名規模で陣取っており、これから水中に残っている者が居ないかの探査に向かおうと準備を進めていた。
水際でも、水面から新たに出てくる者がいないか、逆に入ろうとするものが居ないかを監視している。
壁側にはしょっ引かれたであろう若者数人がうな垂れて座らされていた。
潜水道具と潜水許可の免許を没収されたようで、後日(と言っても最低一週間後)の返却に必要な書類の交付を持っているのだろう。
ただその中に、マナブの姿はなかったので一先ずは安心した。
だが、まだ油断はならない。
実はラジ館にはもう一箇所、水没層と行き来する裏道が存在する。
それは屋上から続く、現代では使われなくなった通気用のダクトだ。
正規ルートではなく、有志たちによって独自に電灯やガイドマーカーの設置、補修などが行われて開通したローカルルートで、安全性や狭く迷い易いため人の利用率は低い。
反面、扉などの障壁を介さず全ての水没階層に繋がっている事から、コレまで一部のオタクダイバーにしか知られていない穴場ルートだった。
しかし数年前、アキバを題材にしたラノベにそのルートが登場した事で場所が特定されてしまい、ルートは瞬く間にネット上で拡散。
当然行政の知るところとなり、今ではそこも海保の監視対象になってしまっている。
ラノベの著者は、その事で一部からかなり叩かれる事になった。
(……一通り店を見ても居ない。このフロアに居ないとなると、やっぱり上か?)




