天狐(5)
宴がはじまっちゃいました。どこまで続くのでしょうか?
宴もたけなわになった頃、相馬優子が、あろう事か、天日、白雲、白澤の事を 其々、白のおじいちゃん、三つ目の兄貴、金ぴかじいちゃん 等と呼び始めた。
優介が妖狐、霊獣にちゃん付け?と呆れながら聞いていると、
咲子さんも一緒になって言っている。
5人が、楽しそう酒を酌み交わしているのを見ながら、優介は、軽い頭痛と嫌な汗を一人でかいている。
優介は、優子は、懸念してたけど、あの咲子姉さんまで、あんた、当主の嫁だろ!
心底、彼女達が、恐ろしいと思った。
天日様が、立ち上がり、優介の前に来て座り直して、
「お主、真面目じゃのう。おぅーっと、それと、お主には、礼をせぬといかんかったわい」と言う
かなり、酒が回っている様子だ。
優介は、「そんな、礼なんて 俺は何もしていませんよ」と言うと、
「あれだけの事をして貰ろうて、何もしてないとは、かー、惚れた、主に惚れたぞ 儂は、」と言いながら優介の肩に手を乗せてくる。
・・・完全に酔っ払いのじじいと化している。
更にその横に白雲様が、やって来て、
「人間にしておくには、もったいない」等と言いながら、瞼を押さえている。
これも酔っ払いの泣き上戸のサラリーマンと化している。
何故、泣いている?・・・泣き上戸なのか?・・・
優介は、心の中で あんたら、同じ化けるでもそっちかよと焦り、額には、更に変な汗まで浮かんで来た。
そこへさらに、やっかいな奴が、ちょこちょこと小走りに来た。
「白のじいちゃん、ダメですよ、私が、先に惚れてるんですからねーー。私が、妻です。きゃはっ!言っちゃった、言っちゃった。」と、一人で手を叩きながら優子が、また勝手な事を言いながら後ろから抱き着いて来た。
白澤様も来て、「お主は、まじめじゃのぉ、本に生真面目すぎるわい」
優介の後ろで咲子ねえさんまでもが、「あら、まぁ、持ててますねー、羨ましい」等と言いだす始末。
天日様が、姿勢を正して、頭を下げ、
「我が一族、に代わり、礼を申す。」と又、言いだした。
「だから、何もしてませんって」と言うと 金色の獣の目でじっと俺の目を見つめにっこり笑い、
「狐の母子の事じゃよ、覚えておるか?」と言いながら俺の髪をくしゃくしゃとする。
「名張から連れて来たあの親子の事ですか? あれは、たまたま、弱っていたから医者に連れて行っただけですよ。それと彼らの会話を聞いていると住処を追われたらしく。同じ、生きている者同士、気づいて自分が助けられる様であれば助けるでしょ、普通の事をしただけですよ。」と、言うと
天日様が、「泣ける、わしゃ、嬉しゅうて、泣けてきたわい」と言いながら大声で泣き出す。
「私も弱ってるんですけどぉ~」と言い、優子が、抱き着いたまま言っている。
天日様を見ると、その横で白雲様も泣いている。
優介は、また、頭痛に見舞われた。
白澤様が、その光景を見ながら 付いて来て良かった、良い話を聞けたわい、と言いながら咲子さんから酒を注いで貰っている。
優介は、(この終始、どうすんだよっ)と心の中で泣き叫びながら助けを呼んでいた。
同じ頃、離れの外の方々も 札を持ちながら、寒さに泣いていた。
時は、夕方を過ぎて8時になろうとしていた。
狐が、一匹、離れの玄関から入って来た。
狐が、「あんまり遅いので見にきました」と言いながら天日様と白雲様の後に座り、
「やっぱり、こうなりましたか。中司優介様、その昔、世話になった青狐と申します。其の節は、何も解らないとは言え、失礼を働きました事、御詫び申し上げます。」
と優介に頭を下げると 白雲様が、
「主の話をしていたところじゃ」と泣きながら狐の頭を撫でる。
それを見て 優子が、「可愛い~、狐がしゃべってる」と近ずこうとすると
白澤様が、「これこれ、今は、寄ってはならんよ」と優しく制すると、
「もう、この様な時間か、こんなに人と楽しく時間を過ごせたのも何年ぶりかのぉー、天日。」
「そうよのぉー、かれこれ、1000年か2000年ぶりになるかも知れぬ」と笑いながら
「咲子様、今宵、この様なもてなしを頂戴頂き、感服致しております。御当主様には、くれぐれも宜しく御伝え下さい。酒宴の席では、ありますが、我らに出来る事あらば、精一杯 尽力致します。また、優介様の警護、援助、我らに任せては、頂けませんか?」
咲子は、「私の一存では、決める事が、出来ません。当主の返答、書を持って御伝え致したく存じますが、それで宜しいでしょうか」と 言うと、柏手を2つ叩き、
「当主様が、文を認めておるはず、それを此処へ」と玄関先へ投げかける。
「はい、只今、受取りに参ります」と返事が、返って来た。
暫くして若者が、襖を開け、正座、一礼して咲子姉さんに文を手渡した。
咲子姉さんが、その文をそのまま天日様に差し出すと受け取った天日様は、その文を開き、
「おぉ、これは、今しがたの御返答、任せて頂けるそうじゃ、いや、さすがは、御当主、何もかも御見通しと言ったところ、益々、感服致します。ありがとうございます」と頭を下げた。
「天日、青狐が迎えに来おったんじゃ、そろそろ、暇をせぬか?」と白澤は、言った。
「そうじゃのぉ、名残りおしいが、本に良い時を刻ませて貰うたのぉ、これ、白雲、何時まで泣いておる。礼、以上の物を尽くして頂いたこの御恩、けっして忘れるでない。それと、明日からの優介殿と優子殿の警護、者を吟味して御守りする様にの。では、奥方様、優介殿、優子殿、また、御会いするまで息災であって下され。また、御当主殿に我ら一同、心を持って忠信すると申し伝え御願い致しまする。」
と言うと、頭を垂れ、立ち上がり、天日、白雲、白澤の三者とその後を青狐が玄関へと歩いて行く。
俺達、3人もその後へ続くと何時の間にか、正面玄関まで入って来た時と同様に道の両端にずらりと並んだ者達が居た。
「寒空の下、御苦労を掛けます。健やかな時を過ごせたのも貴方達のお蔭であり申した」と並んでいる者達に白澤が、礼を述べ、正面玄関を出た所で屋敷に向き直り、3者と一匹、頭を垂れた。
出迎えた時の小僧が、4つの風呂敷包を持って走って来て各々に手渡し、こちらへと来た時に立っていた棒のある場所へ誘導し、
「当主、中司雄一郎が、言われてました。その御持ちになった封書は、互いの友情の印として持っていて下さい。との事です。道中、御気を付けて御帰り下さい。」と大きな声で述べる。
「かたじけのうござる。坊も元気でな、こちらの青狐、この近くに住んでおるので逢う事もあろう、その時は、良しなに御願い致しますぞ。」と天日が、言い彼らは、屋敷を後にした。
優介は、救いの主は、青狐、お前だ。礼は、返してもらったぞ、と呟きながら遠く離れて行く彼らの後姿を見送った。優介の横で、優子が、大きな声で
「じいちゃん達、元気でねー、また、呑もうねー」と大きく手を振っていた。




