天狐(3)
いよいよ、妖狐が中司家に登場?か?
ホテルの朝食を二人、向かい合って食べている。
優子は、昨日のテンションが、嘘の様に静かだ。
「怖いかい?」
「うっ、うん、少し」
「妖狐達に聞くだけだよ」
「まだまだ、解決まで先は、長いし、中司の面目に掛けて守れと兄貴に言われているよ」
「違うの、解決は、して欲しいけど、何か違うの。何かは、わかんないけど・・・」
「ここから本家までだと2時間弱ってとこかな、本家に着いたら兄貴の嫁や本家の者達が、全部、面倒を見てくれるよ。俺は、妖狐達を迎える準備をしないといけないから、会合まで、大丈夫だよね」
「うん、頑張る。それにね、それにぃ~、妖狐とかって見るの初めてだから一寸、面白そうって思ってるんだよ、優介が、頑張ってくれてるんだから、私も頑張るよ」
(いつのまにか、中司さんから優介になっているぞ)、と思ったが、突っ込むのは、辞めた。
「昼は、本家で用意するって言ってたから、ホテルを出たら、真っ直ぐ向かうよ、其れともどこか寄りたい所、ある? 一時間ぐらいなら余裕が、あるよ」
「無いから良いよ。10時に出発だよね。コーヒー、お替りもらおっか?」
「貰おう」
2人は、ゆっくりコーヒーを飲みながら出発までの時間を潰した。
優子は、優介が、過去に熟して来た事件を話すと目をキラキラさせたり、時々、うーんと唸ったりしながら楽しそうに聞いていた。
「優介って凄いね、迷宮入りの事件って本当に無いんだ。でも、貧乏なんだね」っと笑いながら言った。
落ちは、そこか、と、ため息をつきながら腕時計を見ると9:40。
「そろそろ、出発しようか」
二人同時に腰を上げ、部屋に戻り、荷物を持ってホテルの駐車場へ向かった。
山道は、雪が、10cm程、積もっていて途中でチェーンを履かせ、丁度、2時間で到着した。
「あの竹林を抜ければ、正面玄関になる」
竹林を抜けて屋敷の正面が、見えた時、優子は、
「すっごーい本当に家じゃなく、屋敷なんだ。大きいなー、うちの家、すっぽり入っちゃうよ」
「坪数にして15,000ってとこじゃなかったっけ。東京ドームが、丸々一個入るはず」
「残念ながら、俺のじゃないけどね」
優子は、ケラケラと笑いながら、「だって優介、貧乏だもの」っと人の傷つく事を言っている。
取り敢えず、無視して呼び鈴を鳴らすと、
「はーい、ただいま 門を開きますので車の中で御待ち下さい」と声がするので、俺達は、車に戻った。
心の中で、この門の開閉を見て 今まで驚かなかった奴は、いないんだぞっとどんな驚き方うをするのか楽しみにしていると、門が、開き始めた。門の内側を流れる川に橋が門の下辺りから伸び始め、門が、全開になるのと同時に橋が、完成した。
「優子が、ちちゃい頃に見た番組の秘密基地だー」っと、手を叩いて喜んでいる。
(こいつは、そうだったな、普通「うぉ、」とか 「わっ」なんだけとな)と期待した自分が、馬鹿だったとガッカリした優介だった。
車を乗り入れ、駐車場に入れると和服の女性が、近づいて来た。
「優介さん、御久しぶりです事」と にっこり笑いながら挨拶して来たので
「御無沙汰しております。こちらが兄に電話で御伝えした相馬優子さんです」
「中司雄一郎の妻、咲子です。大変だとは、思いますが、雄一郎が、中司の名に掛けても御守りすると言っておりました。短い滞在とは、存じますが、どうぞ心を御気楽になさってくださいませ」
と、相変わらず丁寧な物言いで挨拶する。
「相馬優子と申します。以後、御見知り置き頂きます様に」
とこちらも丁寧な挨拶をして返した。
優介は、咲子さんが、彼女のテンションの起伏に着いていけるのか少々、不安になりながら、
「俺は、妖狐達を迎える準備が、ありますので姉さん、後、よろしく御願いします」
逃げる様にその場を立ち去った。
離れに近づくと、分家の方たちが準備に忙しそうに動きまわっていた。
「御無沙汰しております。御手間を取らせますが、よろしく御願い致します」
と、優介は、出来るだけ大きな声で挨拶すると、
「優介、ひさしぶり」「優ちゃん御無沙汰」等、あっちこっちから返事が、返ってくる。
分家を纏めている福井和正が、やって来て、
「優、久しぶり、祭壇の設置と【八角げんのう】の設置は、当主が、やっておいてくれた。準備は、ほぼ終わっている。あとは、ほれ、膳を運んで、終了じゃ。当主から聞いたんだが、この布陣、お前の発案らしいな。上手くいくかは儂らには、わからんが、当主は、大丈夫だと言っておった。それと相変わらず、貧乏しておるそうじゃの、わっはっはっはー」
(いとも簡単に人の傷口を広げる豪快な親父だ)と優介はうんざりした。
「これは、儂ら分家からの軍資金じゃ、受け取ってくれい。この間の借りもあるで」
「本家から頂く事になっていますが、」と言うと
「本家は、本家。これは、儂ら分家の気持ち」と言い、強引にポケットに突っこんでくる。
いつの間にか、優介は、分家の方々に回りを囲まれ、「受け取ってくれ」っとせがまれ、
「ありがたく頂戴致します」と、半分、泣きそうになりながら受け取った。
回りからは、「この間は、世話になった」、「助かったよ、ありがとう」等、様々に礼を言われ、優介は、(貧乏でも生きてて良かった)っと四方八方にお辞儀をした。
福井のおじさんは、優介の肩を分厚い掌でばしばし叩きながら、
「向こうの広間に膳を設けた。本家、分家合わせて昼にでもしようや」と歩きだしながら
「皆の衆、粗方終わったようなので、皆で飯にしようや」と大きな声で全員を誘った。
すると、「有り難い、飯だ飯だ」と言いながら、皆でぞろぞろと広間に移動を始めた。
広間に着くと、床の間に向かって左奥から2つ目の膳の前に優子が、座っていた。
優介は、その奥の床の間側に腰掛け、福井のおじさんは、優介の反対側の向かいの席に腰を下ろした。
あとは、決まった席に皆が、ぞろぞろと座り、座ると床の間横の引き戸が、開かれ、咲子さんが、
顔を覗かせ、その前を当主、中司雄一郎が、現れた。
当主が、座り、咲子さんが、その横にすわるとざわざわしていた広間は、水を打った様に静かになった。
当主、雄一郎が、皆に挨拶をし、今回の主旨を簡単に話し、事の重要性を伝えると共に相馬優子さんを紹介した。、集まった全員が、うんうんと静かに聞き、頃合いを見て、当主が、食事にしようと言うと、
静かに食事が、始まった。
優子が、「この料理、すごいですね。有頭えびの煮つけ、ひれとんかつ、鮑の刺身、鮪に透明な烏賊とハマチと鯛の造り、ほうれん草、蓮根のお浸し、それにじゃこの佃煮、お吸い物。何処かのお店で頼んだのでしょうか?」と小さな声で俺に囁くと、
咲子姉さんが、「全部、我が家で作った物ですよ」と、向こうから返事が、返って来た。
「すっごい、家庭料理なんですか、これ全部。あっちゃー、優介さん、私、嫁に来れないよ~」
と、訳のわからない事を言いだした。
すると向かいの席から、「嬢ちゃん、大丈夫だわい。優介は、次男じゃて この家から出て行った奴じゃ、嬢ちゃんは、こいつに惚れてるのか?」っと大きな声で返ってきた。
すると広間全体から笑い声が、し、みんな口々に
「優介、べっぴんさんじゃなかー、良かったのぉ」「良かったなー」「目出度いのー」とか口々に騒ぎだした。
「みなさん、ありがとうございます、私、がんばります」と、訳の分からない事を言いながら口をへの字にし、こぶしを握りしめて立ち上がって礼をしている。
優介は、それこそ【貝になりたい】っと真剣に思った。
「優介それでお前、何時に無く真剣にこの事件をしてるのか」と 兄までもが、笑いながら言っている。
「優介さんのお嫁さんになったら時々、手伝いに来てくださいね」と姉さんまでもがー・・・。
そうこうしている間に昼食も終わり掛けた頃、末席側の襖が開き、割烹着を着た女性が、3人現れ、当主から順番に茶を注いで周りだすと、
「お、お手伝いさんが、いるんだ、やっぱり、こんなに大きな屋敷、掃除が、大変だろうなーって思ってたんです、私、」とまた、しゃべりだした。
「料理もお手伝いさんが!」っと言いだした時、前に茶を運んで来た女性が、「当家の食事は、全部、奥様が御用意しております」と、答えたので、相馬優子は、座ったまま、上半身を仰け反らせ 絶句してしまった。
優介は横で笑いながら、茶を口に運ぼうとした時、兄が、手招きしたので 兄の横に移動すると、兄は、着物の左に手を入れ、これを妖狐達に渡してから家に入るようにと表に結【結】と書いた封書を3枚差出して来たので優介が、天狐と白澤の御二方だけと聞いていますよと言うと、いや、違う、空狐様もいらっしゃってると言い、昨日、夜半過ぎから3名が、この屋敷の先の竹林までいらっしゃっている。と言うので、3枚を受け取った。
「さぁ、皆様、手筈通りによろしく御願い致します。」と言い残すと、兄は、席を外し、奥へと消えて行った。
広間にいた分家連中は、それを聞くと其々が決められた場所へと移動しながら各々が、手に和紙の封書を持ち、ぞろぞろと広間から出て行く。
優子に咲子さんが、こちらへと、優子を誘導し、離れへ向かった。
優介は、分家の福井のおじさんの孫と共に、玄関へと向かい、正門を開け始めると共にその孫に札を渡し、これを妖狐様、白澤様の方々、其々に持って頂くように御渡ししなさいと指示を与え、離れへ急いだ。
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