天狐(1)
色々と出てきます。伝説の霊獣や、狐達。 編集しなおしました。
帰りの 500km、優介は、ドライブする喜びに酔っていた。
愛車は、快調そのものだ。
街中では、強力なトルクに振り回されるが、長距離クルージングでは、圧倒的なパフォーマンスが、体感できる。
事務所近くのガソリンスタンドに寄り、燃料を満タンにし、洗車をしてから車をガレージに入れた。
優介は、2人分のキャリーバッグを持って 落ち込んでいる優子を連れてガレージから事務所へと戻った。
車の中では、色々な話をして 笑ったりしていた優子は、車から降りる手前辺りから終始 黙っていた。
事務所に着いた優子は、誰に言うでも無く 無言でソファに腰をおろし、下を向いている。
俺は、窓極の灰皿の所で タバコに火をつけて
「さて、此処に居れば、天狐が やって来る。天狐の話を聞けば、漸く目処が立つだろう」
と、優子に話した。
それを聞いた優子は、
「えっ、まだ仕事をして頂けるんですか」
と言った。
俺は、ある意味 唖然として
「まだ、何も解決してませんよ。依頼者が安心して眠れる様になるまで・・、事件が完全に解決するまでが 仕事です。」
彼女の目が 輝き、まだ、一緒に居て良いんですね。と 明るく返事し、コーヒー、入れてきますと言いながらキッチンへ向かった。
(人の話を半分程しか聞かず、自分勝手に解釈する女性。だが其れだけならまだ良いが、問題なのは、先ず マイナス方向に物を考える事。
何とか、プラス思考へと持って行かないと今回の件、完全に終了って事には、行かなさそうだ)と目の前に居る女性への対応を考えた。
マイナスへ物を考えると言うのは、それだけ魔を寄せる事になり兼ねないからだ。
優介は、パソコンのある机の前で、当面は、天狐。
9本の尾を持ち、1000年生きている妖狐。
有名処としては、京都、伏見稲荷大社の小薄、いずれにしても稲荷神の神使であり、神ではない。上着の内ポケットから 少彦名命から貰った玉を取り出し、摘み上げ見つめたが、何もわからない。
残念ながら 優介には、そういったたぐいの神通力を持っては、いない。
(もっとちゃんと修行してたら見えるのかも)溜息が出た。
2日間は、何事もなく過ぎ去った。
優子は、父親の友人であった野間とか言う弁護士に実家の売却と相続問題を依頼していた。
彼女、曰く、あんな広い家に一人で住めません。税金もバカみたいに来るし、相続税の問題もあるし、おまけに何時、私に近づいて来るか解らない魔物も居るわけだしと理由を言っていたが、やはり、少し、寂しそうな雰囲気を纏っていた。
この2日間、優介は、自分に掛って来る電話よりも彼女に掛ってくる電話の本数が、多い事が、情けなかった。
(此処、俺の事務所なんですけど~)と声にならない心の声で嘆いていた。
大洗磯前神社から戻って、3日目の昼過ぎに優介の携帯が、鳴った。
「天狐の白雲と申します。今、ビルの前に居るのですが、この結界、何とかなりませんか?」
「この結界、俺の自由には、なりません。血が、結界を勝手に張っているものですから」
「今、暫く御待ち下さい。天日殿に知恵を授かり、御連絡させて頂きます。」
「天日、あの失礼ですが『宮川舎漫筆』に出てくる空狐ですか? 実在されていたのですか?」
電話の向こうでクスッと笑う声が、して
「失礼しました。良く御存じですね、流石は、中司家と言ったところでしょうか。そう、その天日殿です。力を貸して頂けるかは、解りませんが、この結界の中へこのまま入ると私その物が、滅されてしまいますので、今、暫く暇を頂き、近く再度、御連絡若しくは御伺い致します。」
と、電話を切った。
優介は、優子に 今、このビルの前に天狐が、来ていた様だと言うと、彼女は、窓際へ、まっすぐ走って窓の中から下を覗いた。下の道では、ビルの反対側に帽子をかぶった男が、立っており、男は、彼女を見上げてにっこりと笑うと、優雅に帽子を脱いで、胸の前に持って行き、頭を下げながら、煙の様に消えた。
優子は、窓の下を指差しながら、「き、きえました、消えましたよ。本当に居たんだ。狐、あれ? スーツを着て優雅な振る舞いをしたお兄様って感じですね。此処へ来るんですか」
テンション高くしゃべりまくった。
優介が
「結界が、邪魔で入れないそうだ。空狐に力を借りに行くとか言ってたな。上手く借りれたら入って来れるはずだ。」
「中司さんの居てる世界ってすごいですよね、今まで生きて来て見た事ないですよ。」
優介は、少し、照れ笑いをしながら、
「色々、見えてるはずだけど、彼らも空気の様な存在で 居るんだけど、人間の記憶に残る程の存在には、決してならないんだ。俺の結界の中に居るからはっきりと認識出来ただけだろうね。」
「天狐、空狐、って空狐の方が偉いんですか?」
「妖狐の世界は、天狐・空狐・気狐・野狐が、位の順と言われている。」
「天狐は、1000年以上、生きている。だか、空狐は、3000年以上生きている。位こそ下に扱われているが、妖力においては空狐が圧倒的に上で最上位になる。気狐や野狐は、人を惑わせたり色々、悪さをする輩も居るようだが、天狐や空狐においては、それは無い。彼らは、時に神使、わかるかな? 神に仕える者として存在したり、今の天狐が、逢いに行った空狐は、名を天日と言い、正直者や、愚鈍で生活に窮している者を助けるためだけに術を使ったと言う記述も『宮川舎漫筆』って言う本の中に残されている。空狐のレベルになるともう位なんてどうでも良い事になっちゃうんだろうね。人でも聞くだろ、魂の位が、上がれば金の亡者に成らないし、自分が困窮してても困窮してる人を助けようとしたりって。」
「中司さんは、魂の位が高いんだ。だって、自分で貧乏って言ってる割りにこんな小娘を助けようとしてくれてるんだからっ!」と、手を叩いて飛び跳ねながら、何度も「中司さんすっごーい」とはしゃいでいた。
優介は、すっごく傷付き、同時にすっごく落ち込み、(俺のたとえが、間違っていたのか?
俺は、やっぱり貧乏に見えるのか・・・、嫌、貧乏なのか・・・、貧乏だけど・・・) 自問自答していた。
天狐、白雲は、空狐である天日と会っていた。
天日は、
「中司家は、本当に特殊な存在じゃて。あの血の結界、儂も昔、見た事が、あるのじゃが、凄まじい力を持っておる」と言い続けて
「さて、どうするかのぉ。少彦名命殿の願いじゃから無碍にする訳も行かず、かと言うて、儂らごときの術では、返り打ちに逢うてしまう。」
「・・・うーん、困った。」天日と白雲は、頭を抱えて悩んでしまった。
「丁度、白澤殿が、客室に居られる。白澤殿に聞いてみようかの」
天日は、傍に控えていた子狐に白澤を呼びに行かせた。
暫くして、白澤が、やって来た。
「坊主から来る廊下で話を聞いたが、主ら、なにをしようとしておる。面白そうじゃから、儂も混ぜい」
と、天日、白雲の横に座り、天日が、使いに寄越した子狐に酒を持って来る様に言い、。
「中司家が、どうとか言っておったが、あの結界を破るのか? して、破ってどうする?」
「いや、違うんじゃ、少彦名命殿に頼まれ、中司家に行く事になっただけじゃ。」
「あの結界を抜けんと当然、面会も出来ぬ。と言う訳なんです。」と白雲が、補足した。
「それなら、中司の本家に 源翁心昭の残した【八角ゲンノウ】があるはずじゃ。あれを借り、持参すれば良いだけの話じゃ」
「なんと、我らと因縁の深い源翁心昭とな。恨み等無いがあれは、殺生石を砕いた物ではないか」
「そうじゃ、あれと中司家の正当後継者、当主じゃな、当主の書いた札があれば、出入りは、可能となるはずじゃ」
「玉藻前、白面金毛九尾の狐の化身、いや玉藻御前の石を砕いたあれか!」
「まぁ、玉藻御前が、人間に悪さを働いたので封印され滅された物怪では、あるな」
「この際、それは、それとして中司家に御願いしようと思うが、如何ですか天日様」
「そうじゃな、そうしようか」
「おもしろそうじゃ、儂も行こう」と、白澤が、同行を願い出た。




