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九尾の孫 【結の章】 (1)  作者: 猫屋大吉
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山神

書き直し、書き足し しました。

良く晴れた朝だ。太平洋と言えど 海沿いだけに風が、すごい。

海は、波が高く、潮を吹いている。

中司優介と相馬優子は、大洗磯前神社の二の鳥居を潜り、階段を上り、随神門を潜って拝殿に参拝した後、優介は、境内の御嶽神社前に行き、持って来た酒瓶を開け、碗を取り出し、その酒を注ぎ、碗を供えて 前にあぐらをかいて座りこんだ。そして、優子を呼び、優介の右斜め後方に座る様に指示をした。

優介は、色々な印を両手で結び、氏名を名乗り、大己貴命(おおなむちのみこと)、少彦名命(すくなひこなのみこと)、両柱の名を呼んだ。 

優子は、疑心暗鬼の中、ドキドキしながら待った。

しばらくして碗の中の酒が、無くなった。

優子は自分の目を疑った。

途端に周囲が、さらに冷え込んできた。だが、嫌な冷え方では、無かった。

凛と身が、引き締まる清涼感と言った類の冷え方だ。優子は 無意識に姿勢を 正した。

風が、止んでいた。

いや、この社の周囲、だけ、ぽっかりと台風の目のように風が、無くなっている事に優子は、気づいた。

向こう側の木は、相変わらず 風に揺れている。優介は、変わらず 正面の祠を見ている。

優介が、唐突に頭を下げた。優子もつられて下げる。

突然、声が響いた。

優しく力強く腹に響く声だった。

「久しいのぉ~、お主の事じゃから 山の気の動きを 察したか?」

「御無沙汰しております。少彦名命様、やはり、山の気、動いておりますか。」

「実は、この者に取り付いている者の正体を探しております。何か、御気づきでは御在居ませぬか?」

「触手の痕跡がある。印を受けた様子じゃの、ん? やや、呪詛(じゅそ)では、ないか? 魔道に落ちた物の仕業の様だな。」

「優介、お主(ぬし)、この呪詛の刻印が、見える様になったか? それでワシの元へ来たのか?」

「いえ、私は、未だ未熟者ゆえに印は見えませぬ。ただ、自然界に少なからず、何らかの影響が、出てるのではと思い、参じました。」

「自然界か、北の方に何やら前々からは、あるんじゃが、動きも無い様なので屠っておいたが、しかし、優介、その印、妖仙のたぐいでは、ないか? 中々、悪質な邪気を帯びておるわ、 ほっほっほ~、娘、もそっと 前へ」

優介が、優子の方へ目をやると優子が、固まっていた。

優子の膝を軽く突いた、優子が、ハッとして優介の方へ向き直ると、優介が、横位置を刺し示し、小さな声で、「ここへ」と指示していた。

優介は、優子が、ずりずりと腰から下を引き摺るように移動したのを見てから頭を下げる様に指示する。

優子は、深く、お辞儀をした。

優子は 突如、「あっ、あぁっ、」と小さく叫び、正座したまま、大きく後ろへ仰け反り細かく痙攣を始めた。

目は、白目をむいている。

腕は、力を無くしてだらりと下がっている。

口からは、泡を噴いている。

「相馬さんっ!」と 優介が、手で支えようとすると、

「触るでない。もそっとしたら、元に戻るわい。それまで、触れぬが、良いぞ。主(ぬし)の血は、術を狂わし、惑わすでの。」

「心配要らぬ、優介。呪詛は、取り除いた。それより、酒を注いでくれぬか?」


優介は、慌てて自分の手を引っ込め、自分の手を見つめた。

我に返り「申し訳ございません」と言いながら酒を碗に注ぎ、

「ありがとうございます。」

と、礼を言った。

「この感じ、そやつ狐かのぉ、空狐か、天狐に逢うてみたらどうじゃ。」

「そうじゃな、天狐ならば、千里眼をもっておるし、空狐程、畏まらんでも良いじゃろうから、ほれ、これを見せてみればどうじゃ。」

と、何もない空間、優介の目の前に 丸い黒い2cmぐらいの玉が、浮かんでいた。

「酒も頂いたし、儂は、戻るでな、天狐には、主(ぬし)の元へ出向く様に言っておいてやろう。」

「では、またのぉ。息災での。ふぉほっほっ。」

優介は、深々と頭を下げ、玉を受取り、上着のポケットに入れた。

「ありがとうございます。酒瓶、ここに置いていきます。」と礼を言った。

瞬間、酒瓶は、俺の手から離れ、空中に浮き、消えた。

「わすれものじゃ、ありがたく頂いていくぞ。ふぉほっほっ。」

優介は、一人、苦笑しながら立ち上がり、深々と礼をし、優子を見ながら、タバコに火をつけた。


しばらく後、優子は、前のめりになり、目覚めた。

「あれ、私、何してたんだっけ・・中司さん、今の、何? 何があったの?」

優介は、ポケットからタオルを差し出し、口の周りを拭うふりをした。

彼女は、口のまわりに残った泡をタオルで軽く叩きながら拭って愛らしい丸い目を向けた。

「神様だよ、詳しい話は、コーヒーでも飲みながら、話、してあげる。」

「大丈夫? 立てるかい?」

彼女に言った。

「ええ、少し、フラフラしますが、大丈夫です。あれ、身体、軽いんです、気のせいかな?」

優子が立ち上がるのを待って 俺達は、祠を後にした。

優介はかっこ(さすがは、禁厭(きんえん)の祖神の一人、鮮やかな物だな)と一人、納得しながらも 何か、会話の中に引っ掛かる物が、あった。



禁厭(きんえん):まじない、呪詛。日本在来の呪術のこと



大洗磯前神社を出て、5号線に出て高速の入口へ向かう途中で喫茶店が、あったので、そこへGT500を滑りこませ 店の中へ入り、一番 奥のテーブルに座わった。

そこでコーヒーを二つ注文した後、祠前での出来事を 優子に話して聞かせた。

「中司さん、すごいです。本当に神様と話が・・出来るんですね。わっ、私、神様の声? テレパシー? 声ですよね、初めて聞きました。 私、その呪いから解放されたんですよね。あっ其れと胡散臭いって言ったの謝ります。ごめんなさい」

満面の笑顔で、話し、立ち上がって礼をする優子を見て優介は、解放されたが、まだ付け狙われてる事には、変わりはないんだ と答えた。

本人は、一人 盛り上がっている。

優介は そんな優子を 見つめながら、

「取り敢えず、天狐に逢わないと犯人が、わからん。獲物を諦める奴って余り、否いんだ。特に印を付けたって言う獲物には、たとえ、印が、無くなっても非常に近い関係になっているから いつ、接触してくるかは、解らない、きっと、今度は、直接、接触を試みて来る。だから、今まで以上に危険になったかも わからない。」

「えっ、そうなんですか? 近づく人には、気をつけろって事ですよね。でも、もう、声は、聞こえないんですよね。」

「声は、多分、聞こえないだろうが、後、2年あった猶予期間が、印が、無くなった時点で 一気に0になった訳だから・・・ただね、気掛りなのは、あのいたずら好きの神様が、ただ単に印を消しただけともやっぱり、思えないんだよね・・・とにかく、注意するに越した事は、ないから気をつけようね。」

「え、そ、そうなんでか! ”0”なんですか! 更に危険になっちゃったと言う事ですよね!」

「どうしましょう、どうすれば良いんですか?」と、両手をパタパタと羽ばたきながら、唐突に立ち上がり店の中をウロウロしだした。店の中の他の客が、唖然としている。スプーンを落とす者、口に含んだ水を噴きだす者。

優介は、立ち上がって、優子の手をとり、落ち着く様に言い 椅子に座れせた。

店のマスターらしき人物が、近づいて来る。

そのおじさんが、「お客さん、静かにしてくれませんか?」とかなり怒っている。

優介は、「ごめんなさい。」と、立ち上がり、超丁寧にお辞儀をすると怒っていたおじさんは、

「い、いや、解ってもらえたら良いんだ。ごゆっくり」と言い周りを見渡して戻って行った。

優子は、すっかり大人しくなった。

コーヒーを飲み、タバコを2本、灰にしてから 優子に取り敢えず、天狐に逢うと告げた。

「じゃ、帰ろうか」と告げ、レシートを持って、立ち上がったところ、優子が、さっとレシートを優介の手から奪うと経費は、私が、と言い、精算しにレジに行く、残された優介は、テーブルのタバコと車のキーをポケットに入れ、追いかける様にそそくさと出口へ向かった。

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