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 あのオッサンってさ、スーツ姿で店に来たのよ。自分で考えられる最高の服装だったんじゃないのかしら?

 だいぶケイちゃんに入れ込んでいたらしくてさ、ケイちゃんの隣に座って、奇妙なまでにしつこく個人情報を聞きだそうとしていたのよ。まあ、ケイちゃんは上手くはぐらかしていたけど。

 仕事が仕事だけ、あのお店の店員って人間観察眼がかなり鋭くてさ、お客さんの経済力を簡単に見抜いちゃうのよ。こいつは年収三百万とか、あいつは貯蓄が五百万あるって風に判断できちゃうのよ。それで、お客さんが支払える限界の商品を勧めるのが上手かったのよ。

 お店の人がオッサンに勧めたのは、十万円の壺だったのよ。持っているだけで不幸を取り除ける、ってのがウリの壺。

「あなたには疫病神が取り憑いています。不幸の原因はそれです。ですが、この壺を購入して居間に飾れば、すぐに疫病神は退散し、あなたには幸福が舞い降りるでしょう」だってさ。笑っちゃうよね。

 オッサンはどうしたと思う? 買うのを渋ったと思う? 店から逃げ出したと思う?

 違うのよ。あのオッサンはね、現ナマであの壺を買ったのよ。懐から札束を出して、なんのためらいもなく買ったのよ。

 お店の人は読みが外れたみたいで、驚いちゃってたわねえ。

 ケイちゃんはケイちゃんで普段の顔に戻れていたのよ。契約が取れるとリベートが入るからね。

 ケイちゃんの顔をみたオッサンは、得意満面って感じでさ、ケイちゃんに話しかけてたのよ。

 お店の人は気づいたのよ。この男はケイちゃんにゾッコンだって。この男はカモだって。ケイちゃんを利用して儲けられるって。

 お店はケイちゃんを引っ込ませて、今日はここまで、またご来店ください、って会話を打ち切っちゃったのよ。

 オッサンは不満そうだったけど、店側がうまくやりこめちゃったのよ。

 ここから、あのオッサンへの搾取地獄が始まったのよ。

 物事が終わったいまだから言えるけどさあ、あのオッサンも悲惨な人だったわねえ。だって、ホントになんにもない人だったんだもの。人間って生きてりゃ、なんでもいいから、ひとつでいいから、どこかになにかを残すものだと思うのよ。そのなにかっていうのは、いいこととか、悪いこととか、しょうもないこととか、いろいろあるけどさ、とにかくどこかかだれかになにかを残すと思うのよ。人間って、無意識にでもなにかを残しちゃうと思うのよ。それこそ、本人がなにも残さないという生き方を意識してしない限りね。

 けどさ、あのオッサンは無意識になにも残せなかった人間だったのよ。唯一あったのは、ケイちゃんへの偏愛だけ。それを利用されちゃったんだもの。可哀想よねえ。

 次にオッサンが来店したときには、五十万円の絵画を勧められていたし。もちろん、ただの印刷した紙切れ。原価は千円もしなかったんじゃないのかしら?

 オッサンはその紙切れを、またしても現ナマで買ったのよ。

 これは儲けになると思ったお店は、ケイちゃんに色々と指示をしたり、テクニックをたたき込んだりしたのよ。会話を盛り上げさせたり、アクセサリや宝石が似合ってますよって言わせたり、高校を出たら大学に進学したいからもっと学費を稼がなきゃって言わせたりしたのよ。

 ただ、ケイちゃんの個人情報だけは決して教えなかったけど。

 こんな風にケイちゃんを利用して、あのオッサンに色々買わせてたのよ。

 買わせるものはだんだんと金額が高くなっていったわねえ。百万円もする毛皮のコート、三百万円もするアクセサリー、五百万円もする宝石って感じで、どんどんエスカレートしていったのよ。

 オッサンはのめりこんじゃったみたいね。特にケイちゃんの学費って言葉に過敏に反応していたわねえ。お店そっちのけで、学費と称して百万円をケイちゃんに直接手渡そうとしたことがあるくらいよ。お店の人がNGをだしたけど。これをやられちゃうとお店が儲からないからね。

 あるときなんてケイちゃんのあとをつけて、住んでいる場所を割り出そうとしたのよ。これもお店の人が止めたけど。

 ケイちゃんの幸せが、あのオッサンの幸せだったのよねえ。

 こんな奇妙なバンド関係が続いていたんだけどさ、終わりが近づいていたのよ。

 ある日だけどさ、エスカレートしすぎたお店が、オッサンに四千万円ものマンションを買わせようとしたのよ。ケイちゃんの学費という言葉と一緒にね。

 金額が金額なだけに現ナマで支払えなかったから、オッサンはローンを組んだのよ。

 ここで、さすがの店側もおかしいと思い始めたのよ。オッサンの金の出所はどこだ?って。少しくらい蓄財している人もいるだろうけど、いくらなんでも金額がおかしすぎるって。

 そりゃ、そうよね。なんにもなさそうなオッサンが、女の子ひとりに合計数千万円もつぎ込んじゃうんだもの。

 お店は興信所にも繋がりがあったから、内密にオッサンの調査をしようと試みたのよ。けどさ、そんな必要もなかったのよ。

 終わりが訪れたのよ。

 あのオッサンはさ、やばい金策を取っていたのよ。っていうか、金策って呼んでよかったのかしら、アレ。

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