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ケイちゃんとあのオッサンの関係って、なんていえばいいのかしらねえ?
そうよねえ、バンドって単語が適当よね。言葉ってさ、ひとつの単語でも複数の意味を持ってることが多いじゃん? いわゆる多義語ってやつ。
「適当」って単語だって、いい加減って意味もあれば、目的に合っているって意味もあるじゃん。これと同じ。
まさしく、あのふたりの関係はバンドだったわねえ。
バンドって聞くとさ、日本人の感覚からすれば、結束とか、繋がりとか、団結を連想しがちじゃん? 感じとしては肯定的じゃん?
実際にそういう意味もあるしさ、そういった意味で使われたほうが世の中ハッピーになると思う。
だけどさ、海外の人間はバンドって単語を肯定的な意味で取ったりもするけど、否定的な意味合いにも取ったりするのよ。縛りとか、束縛とか、階級で区分する、とかいうネガティブな印象で考えたりもするのよ。
そう、アタシが言いたいのは、どっちかわかるでしょ?
ホントに、ケイちゃんとあのオッサンのふたりの関係って、バンドだったわねえ。
あのオッサンが通りがかったときさ、嫌な予感がしたのよ。見てくれも悪かったし、中身も悪そうだったし、頭も悪そうだったし、なんにも残されてなさそうだったし、なによりもたいしてお金を持ってなさそうだったしさ。
アタシは目も向けなかったんだけどさ、ケイちゃんは違ったのよ。あのオッサンから目を離せなかったのよ。っていうかさ、目を縛り付けられちゃったのよ。ホント、バンドよねえ。
ケイちゃんは、目に見えない運命の糸でもたぐるようにしてオッサンに近寄って、声をかけたのよ。アンケートを採るためにね。
アタシたちの仕事って、ちょっと変なアンケートだって一目見ただけでわかるんだから、アタシたちのことなんてスルーしちゃえばいいのにさ、オッサンもオッサンで、ケイちゃんに呼び止められちゃったのよ。あのとき、たしかにバンドが見えたわねえ。
あとは、ケイちゃんの泣き落とし作戦が開始されたってわけ。不遇な生まれで、学費を稼ぎたいんですって、人並みな生活を送りたいんですって、泣き落としたのよ。
オッサンは妙に熱心に聞き入っていてさ、ケイちゃんの事情を根掘り葉掘り聞こうとしたのよ。生まれとか経緯を調べるような感じでさ、オッサンがストーカー気質のちょっと変な人ってのは、あの時点でアタシにはわかったのよねえ。あのとき、ケイちゃんをオッサンから引き離しておけばよかったのよねえ。あのとき、ああしておけばねえ。
個人情報を軽々しく教えてトラブルになった経験があったから、アタシたちの話には適度に嘘が混ぜられていたのよ。特にケイちゃんの話にはね。自分の生まれとかの重要な部分は適当に誤魔化しちゃっていたのよ。もちろん、本名なんてもってのほか。
オッサンもケイちゃんに適当にはぐらかされているって気づいてたから、なおさらケイちゃんの個人情報を引き出そうとしていたのよ。教えろ、教えろって感じで、ヒートアップしちゃったのよ。
そこでアタシが止めに入ったのよ。いい加減にしてくれって。アタシたちは仕事で忙しいからサヨウナラって。オッサンからケイちゃんを無理矢理引きはがして、その場からオサラバしたのよ。
オッサンは追っかけてきそうだったけど、通行人が多かったから諦めたみたい。まあ、中年のオッサンが若い女のふたり組を追っかけたら、変質者あつかいされちゃうわよね。実際、変質者だし。あのときには、まだ分別があったみたいねえ、あのオッサン。
オッサンから逃げたあとでさ、ケイちゃんに注意したのよ。声をかける相手を選んだほうがいいって。
さっきの出来事が衝撃的だったのか、ケイちゃんは完全に上の空でさ、射止められたって言うかは、ホント、束縛されちゃったって感じ。
まずいことに、アンケート用紙には、あのオッサンの電話番号が書かれていたのよ。あれってケイちゃんが書いた文字じゃない。ケイちゃんは悪筆だったし。オッサンが勝手に書いたのよ。無駄に綺麗な字で。
あのとき、あの紙切れを破り捨てておけばよかったわねえ。思い返してみたら、アタシにはケイちゃんを助けられる機会が、幾度となくあったわねえ。
アタシだけじゃなくて、他の人にも沢山あったんじゃないのかしら? ケイちゃんを助けられるチャンスがさ。
まあ、とにかくさ、そんな気持ち悪いアンケートはさっさと捨てちゃいなって忠告して、その日は解散になったわけ。
だけどさ、アンタたちにもなんとなくオチがわかるでしょ? ケイちゃんはあのオッサンに電話して、店に呼び出したってわけ。なんであんなことをしたのかしら?
呼び出されるほうも変よねえ。自分で言うのもアレなんだけど、アタシたちだってちょっと変な人なのに。なんで引っかかったりするのかしら?
バンド、バンド、バンド。負のバンドよねえ。バンドとしか言いようがないわねえ。




