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 その後も、上手い調子で二歩目三歩目と進んでいったのよ。一度コツさえ掴んじゃえば、あとは簡単なのよ。

 気軽にオジサンに声をかけて、その人のストレスのはけ口になって、学費学費と泣き落として、お金を出してもらう。それだけ。ホントにそれだけなのよ。

 そうやって次の給料日まで、アタシとケイちゃんのふたりで必至に頑張ったのよ。

 結果は上々。アタシの給料は三十万円だったんだけど、なんとケイちゃんもアタシと同じ額を稼げたのよ。三十万円も封筒に入っていたのよ。イエーイって感じでさ。

 給料も入ったんだし、ふたりでどこかに繰り出そう、美味しい店知ってるから飲みに行こう、初任給なんだしパーッと使っちゃおうよって、ケイちゃんを誘ったんだけどさ、乗ってくれなかったのよねえ。それどころか、以前にアタシが肩代わりした十万円を返してくれたのよ。

 律儀な子よねえ。他人の迷惑にならず、自分ひとりの力で生きていくっていうのが、あの子なりの処世術だったのかもねえ。

 アタシは、その十万で遊びに行こうって提案したんだけどさ、それでもケイちゃんは断ったのよねえ。

 ケイちゃんは悩んでいたのよ。こんなことでお金を稼いでいいのかなって、人を騙してお金を巻き上げていいのかなって、自分は悪いことをしてるんじゃないのかなって。

 アタシはさ、別にいいじゃんって説得したのよ。ケイちゃんがやってる仕事ってさ、生存権の行使なのよ。生存権は憲法で認められているのよ。

 お金を稼いで、ご飯を食べなきゃ死んじゃうじゃん? 生きるためには仕方がないのよ。自分の生命を維持するためにはしかたないのよ。社会全体が殺しにかかってくるし、だれも助けてくれないから、正当防衛をしているだけなのよって。

 そもそも、だれも損してないじゃん? だって、モテない男とか、家庭が上手くいかないオッサンは、精神上の快楽が得られるじゃん? アタシたちだって、お金が稼げるじゃん? お店だって儲かるじゃん? 結果として、お金が循環して日本経済も回るじゃん? 最終的には日本経済が発展するじゃん? ほら、だれも損してないじゃん?

 Win-Win関係ってやつよ。アタシたちの仕事はね、Win-Win-Win-Win-Win関係よって。

 学費だって重要じゃん? だって、学校行ってないと人間扱いしてくれないでしょ? それを是認する社会の風潮も悪いのよ。バカのひとつ覚えみたいにガクレキガクレキって。ホーント、バッカみたい。

 実社会ですんごい研究をしているのって、ごく一部なのよ。一部の超天才が、残りの役に立たない九十九パーセントを支えてんのよ。もちろん、アタシもアンタたちも九十九パーセントに入るわよ。みんな気づいてんのよ。

 でもさあ、この世に生まれちゃったんだから、しょうがないじゃん? そう、「I was born」よ。そうそう、「We were born」よ。

 だからさ、こんな世の中でも楽しむのよ。楽しんだ人が勝ち。イエーイ。アタシがケイちゃんから教わったことよ。ケイちゃん自身は、アタシに教えたって自覚はなかったみたいだけどさ。

 当の本人に他人になにかを教えるつもりがなくても、必至に生きているってだけで、周囲の人間は様々なことを教わったりするもんだしね。

 生きるため。それだけで、十分じゃん? 深く考えちゃダメなのよ。

 ケイちゃんも表面上は納得してくれたみたいだしさ。いいじゃん?

 まあ、とにかくさ、ケイちゃんは収入の目処は立ったのよ。生活費や学費を支払いが可能になったのよ。滞納していた家賃とか、公共料金を支払えるようになったのよ。だれにも迷惑を掛けずに済んだのよ。

 ケイちゃんの来年度の学費は百万円で、一括払いだったらしいけど、アタシたちの仕事の状況だとなんとか貯められそうだったしさ、それなりに安心できていたのよ。再来年度の学費も貯められそうなくらいの勢いだったし。

 アタシもときどきホストへ遊びに行けたしね。

 これでケイちゃんはボチボチ生きられていたのよねえ。ご飯を食べて、学校へ行けていたみたいなのよねえ。まあ、学校っていっても変な学校で、授業らしいことはしてないかったみたいだけど。普通の人間の生活を送れていたのよ。いつかは楽しみか、幸せのひとつくらいにはたどり着けるはず、だったのよねえ。

 あんな奴さえいなければ。

 ある日さ、いつものように生存権の行使をしにいったのよ。繁盛している駅前に繰り出して、男の人に声をかけて、アンケートを採ってたのよ。

 アタシは、モテなくて、冴えなくて、パッとしない男の人を狙い、ケイちゃんは、中年のオジサンを中心に声をかけたのよ。

 それなりに仕事は上手くいってたんだけどさ、そのときに変な人が通りがかったのよ。ホントにスーッと通りがかったのよ。

 そう、中年のオジサン。アイロンとは無縁のヨレヨレのシャツを着て、擦り切れたジーパンを履いて、無精髭をして、頭もボサボサの四十代後半のオジサン。若いころはブイブイいわせて遊びまわってて、将来のことをなにも考えていなかったタイプの人。いまさえよければ、ぜんぶよしって人。

 そいつがケイちゃんを殺したのよ。

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