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 アタシさ、ケイちゃんがひとりになった理由を知らないって言ったけど、あれウソね。ウソ、ウソ。

 こっから先の話は絶対に内緒だからね。ここから先の話は、絶対にだれにも言っちゃダメなんだからね。

 実はさあ、ケイちゃんってね、複雑な家庭に生まれたのよ。っていうかさ、産み落とされたのよ。いわゆる「I was born」ってやつ。

 なんでも、日本有数の会社の社長の家で育ったらしいんだけどさ、その家の本当の子供じゃないんだってさ。その社長ってのがさ、風俗好きで、会社でも愛人を沢山囲ってたんだってさ。

 その愛人のうちのひとりが、遊んでばかりいるパープリンだったみたいで、愛人は愛人でほかの男とできてたらしいのよ。ストレス発散ってやつ。

 それで妊娠しちゃったらしんだけどさ、社長が中絶費用として三百万円もその愛人に工面してやったらしいのよ。

 中絶費用の十倍じゃん。そんな額をポンと出すなんて、いくらなんでもありえないじゃん? ああいうのってさ、ホントは中絶なんてどうでもいいのよ。トラブルの解決費用でもないのよ。

 社長はさ、自分のものをだれかに取られたってのが悔しかったのよ。悔しくてたまらなかったのよ。たとえそれが部分的であっても、自分より優れた人間がいたのが許せなかったのよ。アタシにはわかるのよ。

 愛人は色々と自分を勘違いしちゃったらしくて、子供を産んで、金、金って社長に無心したらしいけど、突っぱねられたんだってさ。そりゃあ、無理に決まってんじゃん。社長は愛人なんてどうでもよかったんだもの。おまけに、男とはすでに別れてて、会社もクビ。

 愛人は逆ギレして、子供を社長宅の門前に捨てて蒸発しちゃったんだってさ。その子供ってのがケイちゃんなのよ。

 こういう場合は児童養護施設とかに送られるんだろうけどさあ、社長のメンツとか、奥さんの嫉妬とかで、その家で養われることになったんだってさ。

 最終的には変な施設に追いやられて、絶縁状態になっちゃったらしいけど。

 考えられるなかでも最悪の生まれじゃん? 「ケイちゃん was born」って感じでさ。

 けどさ、そんな生まれでもさ、生まれちゃったんだから、しょうがないじゃん? お金を稼いで、食べなきゃならないじゃん? 生きていかなきゃならないじゃん? 自殺ってのも選択肢のひとつだけどさ、ケイちゃんは選ばなかったのよ。もちろん、死ぬのは苦しいだろうしさ、怖いってのもあったと思う。それでもさ、ケイちゃんには希望があったんだと思うのよねえ。

 こんな状態だと、どこまで生活を続けられるかわからないし、いつゲームオーバーになるかわからないけどさ、ケイちゃんはいつかは幸せのひとつくらいにはたどり着けると思ってたんじゃないのかしら?

 幸せが降ってくるんじゃないのよ。むこうから転がり込んでくるのでもないのよ。

 自分でたどり着いて、自分で見つけるのよ。

 ケイちゃんには、その意志があったのよ。

 そのための努力をしていたのよ。

 ケイちゃんの話を聞いたアタシも泣けてきちゃってさ、あの子のために必至に考えたのよ。

 そうして、思いついたのよ。不幸な境遇でも、バネにしちゃえばいいじゃんって。向かい風でも、方向を変えて追い風にしちゃえって。

 そう、名付けて「泣き落とし作戦」よ。

 お仕事でアンケートを採るときにさ、色仕掛けをするんじゃなくて、泣き落としに掛かるのよ。アタシ、こんな境遇なんですって。アタシって、不遇な生まれなんですって。学費を稼がなくちゃいけないんですって。高校くらいは出たいんですって。

 声をかける対象もね、モテなさそうな男とか、オタクっぽい人じゃなくて、中高年の人をメインにしてみたのよ。リッチそうなオジサマとか、ダンディな重役とか、渋い感じのお爺ちゃんとかね。

 するとさ、結構上手くいったのよ。

 いやさあ、ケイちゃんってさ、なんだか弄りたくなってくるタイプじゃん? 気弱で、感受性の強いタイプじゃん? でもさ、言い換えればさ、保護欲をかきたてるってことじゃん?

 中高年のオッサンには大ウケだったのよ。オジサンたちの保護欲を見事に射止めたのよ。ハートをガッシリ鷲掴み。

 ああいうオジサンってさ、会社では上手くいっているように見えても、家庭じゃグダグダってことが多いみたいなのよ。ほら、反抗期の子供とかがいたり、子供が口をきいてくれないとか、家庭の問題を抱えてて、ストレスが溜まってるみたいなのよ。子供がいうことを聞いてくれなくて、押しても引いてもダメって感じで、鬱憤を募らせてるのよ。

 そんなときに、ケイちゃんみたいな従順なタイプがやってくるのよ。なんでも言うことを聞いてくれる子が現れるのよ。人間サンドバッグが現れるのよ。

 オジサンはここぞとばかりに不満をぶちまけるのよ。あーでもない、こーでもない、家庭が上手くいかないって。

 それをケイちゃんは聞いてあげるの。うん、うんって。大変ですねって。まあ、ホストみたいなものよね。相手をいい気分にさせるのよ。気持ちよくしてあげるの。

 そして、タイミングを見計らって、泣き落としにかかるのよ。アタシ、学費を稼いでるんです、借金があるんですって。

 オジサンたちは少しくらいはいいかって感じで、契約してくれるのよ。高収入の人が多いみたいだったしさ。ケイちゃんの稼ぎになってくれたのよ。

 こんな感じで、ケイちゃんは契約を取れ始めたのよ。「泣き落とし作戦」は成功の一歩を踏み出したのよ。

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