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給料ってさ、現ナマで支払われたのよ。万札が茶封筒に入れられて、手渡しだったのよ。領収書とか明細書は、一切なし。そういう仕事なのよ。
アタシはさ、ケイちゃんと一緒にお店に行って、給料を貰おうとしたのよ。
それで、実際に茶封筒を貰ったんだけどさ、なんか妙に薄い封筒だったのよねえ。アタシの計算だと、時給と歩合給をあわせると五十万円くらいになってるはずだったのよ。だけどさ、封筒が薄すぎて、とてもじゃないけど五十万円が入っているとは思えなかったのよね。そんで、その場で封筒を開いて、札束を数えてみたら、三十万円しか入ってないのよ。あれって感じでさあ。
アタシは抗議してみたのよ。「アタシの計算だと、五十万円ちょっとの給料になるはずなんですけど。封筒には三十万円しか入ってないんですけど」って。
するとさ、例のホストよりオツムが弱そうで、無理してスーツを着ている、金髪の猿が出てきて、バイトの契約書を見せつけてきたのよ。端から端まで精読しろって感じでさ。
その契約書ってさあ、もんのすごい細かい字で書かれていたのよ。電子顕微鏡でも持ってこないと読めないような小さな字で、ビッシリ書かれていたのよ。あの契約書を書いた人って、南米アマゾンの狩猟民族と、モンゴルの遊牧民族と、アフリカのナントカ族と、勤勉な日本人のハーフに違いないって。いや、ホント。間違いないって。
アタシも気合いでなんとか読んでみたんだけどさ、とんでもないことが書かれていたのよ。
罰金とかいうシステムがあったのよ。
遅刻すると罰金、早退すると罰金、欠勤すると罰金、トラブル起こすと罰金、契約取れないと罰金ってシステムだったのよ。
これって詐欺じゃない? 意図的に小さな文字で読みにくい契約書を作るなんて詐欺じゃん? だれも読まないような契約書に、変な制度を書くなんて卑怯じゃん?
アタシも腹が立ったんだけど、ケイちゃんのほうはもっとやばかったのよ。
ほら、ケイちゃんってひとつも契約取れなかったでしょ。だからさ、もしかしたら給料ゼロ円になるかもしれないじゃん?
ケイちゃんのほうを見てみたらさ、あの子、ボーッと一枚の紙きれを見つめていたのよ。足下には開けられた茶封筒が捨てられていて、アタシが声を掛けても返事をしなかったのよ。心配になってきて、ケイちゃんの後ろからのぞき込んでみたんだけどさ、紙きれには請求書って書かれてたのよ。なんと、罰金十万円とか書かれてたのよ。
罰金の額が高かったのよ。時給なんて簡単に消し飛んじゃうくらい。罰金が高かったのよ。
そうなのよ。アタシたちってさ、やり方が悪いと、働いてるのに逆に、お金、取られるのよ。まったく契約が取れないと、ケイちゃんみたいに赤字になっちゃうのよ。店が必ず儲かるシステムだったのよ。
ハッと気がついてみたら、怖い人がアタシたちを取り囲んでいたのよ。全員黒服で、がたいのいい人ばっかり。社員っていうより、構成員。そいつらが、「支払わなきゃ沈めるぞ」って風に脅してきたのよ。
アタシは問題なかったんだけど、ケイちゃんのほうが問題だったのよ。ケイちゃんは泣きそうなのを必至でこらえていたし。そう、泣きたいのこらえていたのよ。あんな年齢なのに、強いわよねえ。ケイちゃんは知っていたのよねえ。泣いてもだれも助けてくれないし、泣いても付けいられるだけって知ってたのよ。あんな年齢なのに。
だからさ、アタシが助けたのよ。ケイちゃんの代わりに十万円を払ったのよ。まあ、ケイちゃんをバイトに受からせちゃった責任も感じたしね。
これでなんとか、その場は切り抜けられたのよ。
店からなんとか逃げ出して、一息ついて、ケイちゃんにアドバイスしたのよ。
「ほかの仕事を探したら?」って。
ところが、問題があったのよ。
アタシはホストでの失敗経験から、バイトの契約書には適当な名前と適当な住所しか書いてなかったのよ。アレなバイトだったしね。あんなの適当に埋めとけばいいじゃん?
だけどさあ、ケイちゃんって、ご丁寧に自分の名前とか住所を、契約書に書いちゃってたみたいなよ。ちょっと変なバイトなんだから、個人情報なんて書かなきゃいいのにさ、ご丁寧に泉ケイって名前と、東京都村田区坂本アパート207て住所を書いちゃうんだもの。
いまでも疑問よねえ。なんでケイちゃんって、自分の名前と自分の居場所なんて書いちゃったのかしら? これが命取りだったのに。ホントに、なんでかしらねえ? アタシにはわからない。サッパリわからない。
ねえ、アンタたち、わかる?
とにかくさ、バイトを続けざるを得なかったのよ。だって、バイトを解約するのにだって罰金が取られるのよ。中途解約費用五十万円って感じでさ。
アタシは契約を取れていたし、お金も稼げていたし、いつだって逃げられたからいいんだけど、ケイちゃんが困っちゃったのよ。
契約が取れないから、罰金がかさむ一方でさ、これじゃ行き詰まっちゃうじゃん? それでなくても、学費や生活費が必要だったんだし。
どうしようかと、アタシとケイちゃんのふたりで額を寄せ合って、策を練ったのよ。どうすれば契約を取れるかって。お店に呼びさえすれば、あとはお店の人が頑張ってくれるから、どうすればアンケートを採れて、電話番号を書いてもらって、電話で呼び出せるかって。
アタシは人に声かけたり、人をおだてたりするのが得意だから簡単だったんだけど、ケイちゃんってこういうのがどう頑張っても下手だったのよねえ。
そこでさ、逆に考えてみたのよ。
逆の方向で頑張ってみればいいんじゃないの、って気づいたのよ。




