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アタシたちの仕事ってさ、基本的にアンケートだったのよ。アンケートね、アンケート。普通のアンケート。路上アンケート。一枚の紙を埋めてもらうだけのアンケート。
繁盛している商店街とか、混雑している駅前とか、とにかく人通りの多い場所へ出向いてさ、そこで人を呼び止めて、アンケートに答えてもらうのよ。
対象は、ちょっと女っ気のなさそうな男の人とか、モテなさそうな男の人とか、冴えない男の人とか、おとなしそうな男の人とか、オタクっぽい男の人とか、チェック柄をの服を着た男の人とかなの。そうなの、男の人だけが対象のアンケートなの。
アンケートの内容は、結婚願望がありますかとか、好きなアクセサリーの種類とか、普段はどんな服装をしているとか、ってな感じのしょうもないことばかりなの。相手の住所とか、名前とか、年齢なんて聞かないの。個人情報が大事な時代だから、書いてもらえないもの。だけどさ、最後に電話番号だけ書いてもらうの。電話番号だけだったら、それほど重要な情報じゃないから、書いてくれちゃう男の人が多いの。それだけ。ホントにそれだけなのよ。
男の人がアンケートを埋めているあいだね、アタシたちは相手をジッと見つめるの。上目遣いで、相手の顔を見つめるの。笑顔を作って、相手の目を見つめるだけなの。それだけ。ホントにそれだけなのよ。
ある程度アンケートを集めたら、電話番号だけをリストに集めるの。ほかの部分は必要ないの。まったく必要ないの。用済みのアンケート用紙はシュレッダー行きなの。それだけ。ホントにそれだけなのよ。
アンケートをして一週間後くらいに、リストに集めた電話番号に片っ端からアタックするの。「アンケートにご協力いただきありがとうございました。とっても参考になりました。もっと詳しいお話をお伺いしたいです。直接会えませんか? ○○というお店で会いましょう」って。これはちょっと大変なのよ。成功率が低くてさ、三割超えれば上出来かなぁ。けどさ、これをクリアしたら、あとは楽なのよねえ。
そのお店っていうのがね、アタシもよくわからないのよ。某所にある、そこそこ大きなブティックみたいなお店なんだけどさ、イマイチ実態が掴めなかったのよ。あそこに関わっていたアタシですら、よくわからないのよ。いまでも、よくわからないのよ。お店を運営していたのは、バイト先の系列会社って話だったけど、正直胡散臭かったわよねえ。
だって、取り扱ってる品物がしょっちゅう変わるのよ。健康器具だったり、絵画だったり、宝石だったり、毛皮のコートだったり、アクセサリーだったり、壺だったり、そういやマンションを取り扱っていた時期もあったわねえ。
変わるのは商品だけじゃないのよ。あのお店じゃ、あらゆるものがコロコロ変わっていたの。お店の名前だってコロコロ変わってたし、経営者の名前だってコロコロ変わってたし、働いてたスタッフだってコロコロ変わってたし。
それにさ、お店側だけじゃなくて、客層もコロコロ変わっていたのよ。アタシたち以外にもアンケート部隊がいたらしくて、いろんな客をが呼び込まれていたの。あるときは若い女の人だったり、あるときはお爺ちゃんだったり、あるときは男の人だったり、あるときはアジア系の人だったり、あるときは怖い人だったり。ホント、あそこじゃ、あらゆるものがコロコロ変わっていたわねえ。
ま、こういうのってさ、気にしちゃ駄目でしょ。気にしちゃいけないのよ。深く考えてもさ、頭がこんがらがるだけなのよ。携帯電話がどんな仕組みで動いているか、だれも気にしないのと同じよ。考えてもサッパリわからないしさ、考えるだけ無駄なのよ。仕組みはわからないけど、便利の一言で十分じゃん? だからさ、アンケートの仕事は儲かるで十分じゃん?
とにかくさ、男の人をお店まで連れて行くの。これでアタシたちのお仕事はお終い。
あとはお店の人が頑張ってくれるの。モテるためにはアレを買ったほうがいいとか、書類の作成とか、ローンの組み立てとか、ぜーんぶお店の人がやってくれるの。お店の人も商売だからさ、ものすごく熱心なのよ。
取り扱っているものの価格が高いから、抵抗するお客さんもいるけどさ、お店の人が説き伏せちゃうのよ。一時間でも、二時間でも、八時間でも、説き伏せるの。こうなると、ほとんどのお客さんが納得して、自分でサインして契約してくれるの。
それを、アタシたちは隣で見てるだけ。笑顔を絶やさず、見守るの。それだけ。ホントにそれだけなのよ。
アタシたち、なんにも悪いことしてないでしょ。路上で男の人にアンケートを採って、電話して、お店に呼んで、あとは隣で座ってるだけ。ほら、なんにも悪いことしてないでしょ。なんの法律も犯してないでしょ。
こんな仕事なのよ。
まぁ、アタシからすれば簡単な仕事だったのよ。これといって、なんの苦労も必要なかったし。収入もよかったし。
だけどさ、ケイちゃんのほうが問題だったのよ。ケイちゃんって、こういった仕事が苦手だってみたいなのよね。お店に呼ぶどころか、アンケートすら採れなかったのよ。道ばたで男の人に声をかけても、そのまま素通りされちゃうのよ。
ケイちゃんはシャイなほうだし、自分から声をかけるのが苦手だったみたいなのよねえ。練習すれば少しはマシになりそうだけどさ、一生掛かっても完全に克服できないタイプよね、あの子。
こんなんだから、バイトを始めたころなんて、なにも契約が取れなかったのよ。ひとりもお店に呼べなかったのよ。ケイちゃんも困ってたのよねえ。
でもさ、契約取れなくてもいいじゃん? 歩合給がとれないだけじゃん、時給が三千五百円もあるんだしさ、十分儲かるでしょって慰めてみたのよ。
ケイちゃんも、百時間以上働いたから三十万円くらいになるって計算していたしさ、このペースだと来年の学費の百万円が貯められそうって安心していたし。滞納してた生活費を一気に払えるって、人に迷惑を掛けずに済むって安堵していたし、普通の人の人生を送れるかもって、期待していたし。
ところがさあ、いざ実際に初任給を貰うときになって、とんでもない事態が起きたのよ。っていうかさ、起こしちゃってたみたいなのよ。




