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 ああ、そうそう。アンタたちが聞きたかったのは、ケイちゃんの話だったわよね。話が逸れるのは、アタシの悪い癖なのよ。

 アタシも、初めて見たときからケイちゃんが気になったのよねえ。結構、浮いていたのよ。だってケイちゃん、バイトの面接なのに、見るからに安っぽそうな服装をしていたのよ。激安店の処分セールで買ったような服でさ、ああいうのって女の子が着るような服じゃないわよねえ。

 酷かったのは、身なりだけじゃないのよ。ケイちゃん本人も酷かったのよ。あんまりお手入れしてないのか、髪の毛も痛んでてボサッとしていたしさあ、お肌も荒れっぱなしで、唇は乾燥してバリバリで割れていたのよ。手も骨が浮き出ていたし、爪も痛んでて、とても十代の子には見えなかったわねえ。

 たかがバイトっていっても、もうちょっと身なりを考えるべきじゃん? あんな格好じゃあ、一見しただけで、だれも採用してくれないってのがわかりそうなんだけど。いまになって思い返してみたら、すでに何回かバイトに不採用だったのかもねえ。

 アタシもさ、心配になってきたのよ。それでなくても、ケイちゃんくらいの子って、化粧をしたり、着飾ったりしたい年頃じゃん? なにか事情でもありそうでさ、アタシもちょっと声をかけてみたのよ。

 するとさ、アタシの心配は的中していたのよ。なんでも、ケイちゃんってさ、だれにも頼らずひとりで生きてるんだってさ。十代後半なのに、完全にひとりだってさ。

 アタシも、ケイちゃんがひとりになった理由を聞いたんだけどさ、適当にはぐらかされちゃってさ、正直知らないのよねえ。まぁ、こういうのって根掘り葉掘り聞いたりするようなことじゃないじゃん? アタシだって最低限のデリカシーあるわよ。

 それでもさ、バイトをする理由くらいは知りたいじゃん? そのくらい聞いたって、罰は当たらないでしょ? それで、いざ聞いてみるとね、それがね、なんとね、一字一句に至るまでアタシと完全に同じだったのよ。学費を稼ぎたいという、立派な理由だったのよ。

 なんでも、ケイちゃんってさ、中学を卒業したあと、高校へ行かなかったらしいのよ。だから、中卒だったのよ。中卒ってことで不利になることが多かったみたいなのよ。実際、ケイちゃんも就職どころか、バイトもままならなかったって言ってたし。中卒ってだけで、門前払いされたこともあるって。

 こんな時代だから、最低でも高校くらいは出ときたいじゃん? 高校くらい出とかないと話にならないじゃん? ケイちゃんも、せめて高校くらいは卒業しておこうとしていたのよ。まあ、一度でも脱落しちゃったら、定時制とか通信制しか残されてないけど、そんな学校でも一応は高校の卒業じゃん?

 ケイちゃんはさ、最初は学費の安い公立の通信制高校へ通ってたみたいなのよ。だけどさ、ケイちゃんって、中学へあんまり通ってなかったらしくて、勉強がサッパリだったみたいなのよ。学校の先生も不祥事を起こした人とか、やる気のない先生ばっかりみたいでさ、授業が身につかなかったらしいのよ。

 このままじゃ卒業できないって、担任の先生にも相談したらしいんだけどさ、

「バカにもわかりやすく教えてやるよ。高校は義務教育じゃねえんだ。自分の面倒は自分で見ろ。バカヤロー」って一蹴されちゃったんだって。

 ちょっと酷いと思わない? ホント、学校の先生って変な人ばっかりよねえ。

 アタシの小学校の先生も、気に入った生徒ばっかりをひいきにしていたしさ、中学校の先生も教え方が超ド下手でさ、この先生の教えたとおりに解いたら、学年全員が間違いになったのよ。生徒から苦情が大発生してるのに「俺の教え方が悪いはずがない、覚えられないのはお前がバカだからだ、お前はバカなんだ、お前はばかなんだ、お前はバカなんだ、お前はバカなんだ」とか言い張るし。ムキーッ。高校の先生なんか授業中に喫煙するような有様だったのよ。生徒に注意されたら逆上して体罰を加えるし、なんであんな連中が教員になれるのかしら? 音楽の先生なんて、ピアノが弾けなかったのよ。ピアノが弾けないのにどうやって教員のなったのかしら? ピアノが弾けない時点で足切りされちゃうのに。やっぱりコネなのかしらねえ? って、また話がそれちゃった。

 こんなんだから、時間ばっかり過ぎるだけで、なんにも身につかないから、ケイちゃんは退学したんだってさ。

 けどさ、高校を卒業するのは諦めなかったんだって。公立が駄目なら、私立があるって。なんでも、私立通信制高校って卒業率が九十八パーセントもあるって話でさ、公立の通信制高校を中退するきっかけにもなったんだって。

 ところが、私立に入学したのはいいらしいけど、変な学校に入学しちゃったみたいなのよ。なんでも学校モドキみたいな校らしくてさ、トラブルが起きていたみたいなのよ。もの凄い学費が掛かるって話で、当初の予定だと学費は年間五十万だったけど、実際には三倍の百五十万を一括払いにまで膨れあがっちゃったんだってさ。入学後にも、さらに追加で学費を請求されていたみたいなのよ。おまけに宣伝と実態がまったく一致してないって嘆いていたのよ。

 ケイちゃんも、不味いと思ったみたいなんだけど、いかんせん契約書にサインしちゃったらしいのよ。学費を支払わなければ訴える、って学校側に脅されているって困っていたのよ。夜中まで電話が掛かってきて、学費の支払いを請求してくるって話よ。変な学校よねえ。

 さらに生活費とかも滞納していたらしくてさ、ホント、追い詰められていたわねえ。

 アタシだってケイちゃんに同情しちゃってさ、少しくらいは手助けしたかったから、面接時に口添えしてあげたのよ。

「この子、アタシの友達なんですけど、さっき水たまりで転んじゃって、あわてて服を着替えたんです。ちょっと変な格好ですけど、大目に見てやってください」って。

 この甲斐もあって、アタシたち、バイトの面接に合格したのよ。登録費用として二万円もゲットしたのよ。

 ケイちゃんも急場はしのげるみたいでさ、よかったって笑っていたし。ああいった子は笑顔が一番よね。

 でもさあ、ケイちゃんが笑顔を見せたのって、後にも先にもバイト代を貰うときだけだったわねえ。いっつも、生まれてごめんなさいって感じだったし。あの子って、どんな生き方をしてきたのかしら? そうよね、笑顔じゃなかったのかも。お金をを貰うときだけ、普通の表情になれたのよ。あの顔が、あの子の普通の顔だったのよ。悩みがなくなって、人に迷惑をかけていないと実感できて、普段の顔に戻れたのよ。あの笑顔が、あの顔が、あの子の本当の普段の顔だったのよねえ。あの子が本当に笑ったら、どんな顔をしていたのかしら?

 けど、死んじゃったから、もう見れないのよねえ。

 なんで、みんな寄ってたかって、あんな健気な子をイジメるのかしらねえ?

 って、湿っぽい話になっちゃったわねえ。

 まあ、とにかく、アタシたちはバイトに受かってさ、さらにアタシとケイちゃんでチームになったのよ。

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