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「書かれているな」先生は平然と答えた。
「校舎には植物が生い茂っていますよ。緑色に染まっていますよ」
「よく育っているな」
「ほとんどの窓ガラスが割れていますよ」
「割れているな」
私は他の画像を見た。驚きの画像がてんこ盛りだった。
「教室内にも植物が生い茂っていますよ」
「そうだな」先生は当然のように頷いた。
「廃校というよりも、廃墟と言ったほうが正解ですね」
「そうだ」
「奇妙なポーズをした人体模型もありますよ」
「ちょっと面白かったから、ついでに撮っておいた」あたりまえのように先生は答えた。
「こんな廃墟同然の施設が、学校として利用されているのですか?」
「少なからず、施設の利用はされていない。画像を見ればわかるが、廃校になってから、一度たりとも利用された形跡はない。水道やガス、電気といったライフラインも繋がっていない」
「こんな廃墟に行政が認可を出すわけないですよ。審査の段階で落ちますよ」
「長尾グループは、あとで施設を改築すると説明した」
「そんな説明通るのですか?」
「通るのだ。この廃墟は、長尾グループが運営している私立沖縄サンフラワー高等学校として運営されている」
「教員や事務の人は、ここに勤めているのですか?」
「この廃墟には勤めていないが、ほかの場所に勤めている」
「つまり、だれも利用していないのですね。生徒も先生も、だれひとり利用していないと」
「そうだ。この廃校は、行政から通信制高校の認可を貰うためだけに利用されたのだ。会社でたとえると、ペーパー会社という感じだ。この校は、ペーパー会社ならぬ、ペーパー校舎といったところだ」
「泉さんは、この沖縄の廃墟に通っていたのですか?」
「書類上は通っていた。泉さんは、私立沖縄サンフラワー高等学校の生徒であり、私立沖縄サンフラワー高等学校の授業に出席して、私立沖縄サンフラワー高等学校の単位を取得していた。これは行政の正式な書類にも載ってあった。あくまでも、書類上だがな。事件がなかったら、私立沖縄サンフラワー高等学校の卒業をして、学歴も私立沖縄サンフラワー高等学校卒になり、履歴書にも私立沖縄サンフラワー高等学校の校名を書くことになった」
「ペーパー校舎で高校卒業ですか」ここで私は、ある事実に気づいた。「たしか沖縄サンフラワー高等学校の形態は、通信制高校でしたね。通信教育と言えば、自宅での学習がメインでしたよね? 校舎なんて、廃校でも十分という意味ですか」
「それはあとで教える」と先生は答えた。「その前に、いままでの流れは理解できたか?」
「おおむね理解できました」
「掛布グループの設立は?」先生は、普段の授業を行っているようだ。
「バブル期の一九九〇年です。設立するための資金の出所が怪しいうえに、行政の天下りなども受け入れていました。さらに、典型的な放漫経営でした」
「うむ。掛布グループが起こした不祥事は?」
「大学合格者数の水増しです。掛布グループ以外の学校や予備校なども水増ししていましたが、スケープゴートにされて、批判の矢面に立たされました」
「覚えがいい。その後はどうなった?」
「生徒数が激減して、掛布大学を除いて、すべて廃校になりました。バブルの崩壊や、放漫経営のツケ、裁判を起こされて敗訴するなど、経営難に陥りました」
「掛布グループが執った起死回生の手段は?」
「グループ名の変更です。「掛布」から「長尾」に名前を変更しました。当座の資金を確保するために、校舎を売却しました」
「おしいな。ひとつ抜けがある」
「ええと、なんでしたっけ?」
「掛布予備校だ」
「あっ。忘れていました。予備校は売れ残ったんでしたね。立地条件が悪くて、買い手が付きませんでした。税金などが重荷になりました」
「掛布予備校は全国規模で展開していた、これも忘れるな。あとで重要になってくる」
「はい。掛布予備校は全国規模で売れ残りました」
「次だ」先生は続けた。「長尾大学とは?」
「レベルの低い大学で、大学の卒業証書を売っているような状態です。行政側も税金をつぎ込んでいます。大学の卒業証書が売れると気づいた長尾グループは、高校の卒業証書も売れると考えました」
「素晴らしい。長尾グループが開校した高校とは?」
「沖縄県最果島最果村の、私立沖縄サンフラワー高等学校です。地域の活性化を口実に、廃校になった小学校を買い叩きました」
「私立沖縄サンフラワー高等学校の実情は?」
「廃墟同然です。校門には小学校と書かれたままです。実際に使われた形跡はありません」
「事件の被害者である泉さんと、私立沖縄サンフラワー高等学校の関係は?」
「泉さんは、私立沖縄サンフラワー高等学校の生徒でした。ですが、あくまでも書類上でした」
「ここまでは完璧だな。では次のステップに入ろう」
「どのような内容ですか?」
「通信制高校に認められた、ある特殊な制度だ。この制度が最大の要点だ。日本の教育界の暗部だ。多くの有識者や有識団体から、二十年以上にわたって再三指摘されている暗部だ」
「どんな制度ですか?」
「通信制高校には協力校の設置が認められているのだ」




