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 僕たちが民家にたどり着いたあと、すぐに事件は解決されたよ。

 警察の人に詳しく話をする必要はなかった。僕と泉さんの身なり見てもらっただけで、理解してもらえたんだ。

 鏡で自分の姿を見たんだけど、映ったのがだれだかわからなかったよ。それほど酷い状態だった。

 獄長は即座に逮捕されて、施設は閉鎖。全員無事に助かった。

 めでたしめでたし、じゃ終わらないよね。人生は死なない限り終わらないんだ。僕の人生も、泉さんの人生も。

 警察は、入居者全員の家族へ連絡を取ったんだ。ピジョンスクールの惨状を伝えたんだ。杜撰な有様だったとね。

 ピジョンスクールの実態を知ったら、だれだってブチ切れちゃうよね。人の弱みにつけ込んで、バカ高い費用を請求したんだもの。それに、宣伝内容と実情が違いすぎた。

 その日のうちに、保護者たちは飛んで駆けつけてきたよ。比喩じゃないよ。本当に飛行機で飛んできたんだ。

 自分で言っちゃうのもアレなんだけど、過保護な保護者とか、モンスターペアレントみたいな保護者ばかりだったからね。

 一部の保護者は凄かったよ。高級外車をプレゼントした人の父親だったかな? 近くにあった角材をぶん回して、「ぶっ殺してやる、ぶっ殺してやる」と獄長をぶっ殺そうとして、警察は逆に獄長を保護したくらいだよ。

 僕の両親は、獄長に怒りはしなかった。ただただ僕に謝っただけだ。「申し訳ない、申し訳ない、変な施設を紹介してしまった、申し訳ない、事前に調べるべきだった」とね。

 ふたりの気持ちが身に沁みたよ。僕も少しは成長したらしい。

 家族が長野まで来られなかった入所者は、電話で連絡を取り合っていたよ。家族のほうから掛かってきたり、自分から掛けたりしていた。

 入所者の全員が、家族との連絡や再開を喜んでいたよ。ただひとりを除いてね。

 そう、泉さんだ。彼女だけは、家族から連絡が来なかったんだ。泉さんも連絡を取ろうとはしなかった。

 泉さんが連絡をせずとも、警察のほうから泉家へ連絡が行ったはずなのにね。泉家がピジョンスクールでの事情を知らないはずはないんだ。あそこでの惨状を事細かに知っているはずなんだ。だけど、いくら待っても、泉家からの連絡は来なかったんだ。

 僕も泉家をある程度は知っている。泉さんが本当の子供じゃないのは知っている。施設へ来るときのやり取りを、この目で直接見たんだ。

 それでも、連絡のひとつくらいは取ってもいいはずさ。あり得ない家庭環境だよ。

 泉さんは行くところも帰るところもないんだよ。体調だって悪く、すぐに治る状態じゃなかった。だれかの助けが必要だった。

「泉さんはこれからどうするの?」って訊ねたんだけど、彼女は少しだけ考えたそぶりを見せると、東京に行くと答えたんだ。手持ちのお金がある、東京には仕事のひとつでもあるだろうって。これからは、ひとりで生きていくって。

 これは泉家との絶縁なんだ。彼女は泉家から抜け出せたんだ。抜け出したんだ。

 僕が見た最後の彼女は、警察でもらった安物の上下のジャージを着ていた姿だった。ブカブカで、みっともなくて、痩せさらばえて、死にそうだった。

 そして、言葉通り、最後に見た姿になった。

 別れはなかった。気づいたときには、彼女はすでに出発していたんだ。だれにも見られることなく、いつの間にか去っていたんだ。

 警察がいうには、彼女は新幹線を使わなかったそうだ。普通の電車で東京を目指したんだ。お金を節約したかったのだろうね。

 彼女は僕に助けを求めなかった。助けてもらえないと彼女に思われたんだ。僕はその程度の人間だったんだ。

 僕だけじゃない。泉さんは、あそこにいただれにも助けを求めなかったんだ。入所者の家族にも、警察にすら助けを求めなかった。

 自分はだれにも助けてもらえないと思ったのだろうね。そう思っちゃうよね。

 ピジョンスクールでは、だれも彼女を助けなかったんだもの。

 檻の中で監禁されたとき、だれにも助け出してもらえなかったんだもの。

 獄長は恐ろしいけど、たったひとりの人間でしかなかった。化け物や怪物じゃない、ただの人間さ。

 入所者は百人以上いたんだ。全員がその気になって立ち向かえば、獄長なんか倒せたんだ。百人も必要ないね。十人で十分さ。たったそれだけの人間が刃向かえば、泉さんを助けられたんだ。

 あの場にいた全員が、獄長の共犯者さ。不正を知っていながら黙っているのは、共犯なんだ。だれかが苦しんでいるのに手を差し伸べないのも、共犯なんだ。

 僕が無理矢理助けるべきだったんだ。あのとき、手を差し伸べるべきだったんだ。あのとき、ああしておけば。僕はそんなことができない人間だったんだ。

 なんで助けられなかったんだ。助ける機会があったんだ。

 僕が助けていたら、彼女は死なずに済んだのだろうか? 

 死なずに済んだんだ。間違いなく助かったんだ。断言できる。絶対に助かったんだ。


 これが、僕が知っている限りの、泉さんに関する話さ。

 僕が犯人のひとりである理由が、わかったよね」

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