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 思い返せば、ピジョンスクールの宣伝は下手だったと思うね。ホームページには美辞麗句が並べ立てられていたけど、あまりにも綺麗事ばかりでインチキ臭さが漂っていたし、少しでもチェックしていたら、トラブルは未然に防げていたと思う。

 そんなことがわらないほど、ふたりは視野狭窄に陥っていたんだ。僕の発言のせいだけどね。

 ピジョンスクールに連絡を取ったときのことは、いまでも鮮明に思い出せる。かみ合わない電話のやり取りだったよ。

 父さんは「ホームページに書いてあることは本当なのか?」とか、「子供の健康にいいのか?」といった質問を必至にしていたんだ。

 ピジョンスクールは「そちらの経済状況は?」とか、「社会的立場は?」とか、「親御さんの職業や収入は?」と、逆に質問してきたんだ。こちらの経済状況を探ろうとしていたよ。金を持っているかを知りたがったんだ。

 僕の家は経済的には裕福だったんだ。父さんも母さんも身体的な弱さを、学業で補っていたんだ。いい職業に就いていたし、高収入でもあった。

 「金銭なら大丈夫。子供が助かるならば、家を売り払ってでも金を支払う」とまで父さんは言い切ったんだ。

 ピジョンスクールの車が我が家にやってきたのは、かみ合わない電話をやり取りした日の午後六時ごろだったかな。長野県にある山奥の施設から、青森の住宅街まで、ミニバンでやってきたんだ。自動車で十時間もかかるんだよ。時間的に考えると、ピジョンスクールの人は、電話を終えた直後に出発したことになるね。

 こんな慌ただしい行動をするなんて、よほど僕たちがカモに見えたのだろうね。事実、カモだったのが泣ける話さ。

 ピジョンスクールの所長の第一印象は、そんなに悪い感じではなかったね。年齢は五十~六十くらいで、小柄な人だった。髪の毛は短く刈り上げられていて、肌は日に焼けていて健康そうだったよ。典型的なスポーツマン風というやつ。唯一気持ち悪かったのが、全体的にテカっていたことさ。油の塗りすぎなのか、体質なのかは知らないけど。

 話し方は明朗快活で、必要以上に大きな声を出していたね。

「お子さんのことはすべて私にお任せください。何事も早い方がいいのです。いますぐ行きましょう」

 僕たちからすれば急な話だったよ。電話で連絡を取りました、その日のうちに施設の人がやって来ました、そのまま施設へ行きましょう、だもの。

 当然、掛かる費用や、施設での衣食住の取り決めなんてなかった。所長からすれば、僕を入所させてから取り決めた方が都合がよかったんだ。

 所長は、僕を無理矢理ミニバンに押し込んだんだ。拉致といっても過言じゃなかった。捲くし立てるように「早い方がいい、早い方がいい」と連呼していたよ。

 そのまま、僕は連れ去られたというわけだ。

 時間にすると十分にも満たない出来事だったよ。手慣れていたし、上手いやりかただった。弱みにつけ込んで、思考停止させるんだ。


 僕の住んでいた青森から、施設のある長野の山奥までミニバンで移動するあいだ、所長はムッツリと黙り込んでいたよ。なにひとつ口に出さなかった。話しかけても、ずっとダンマリだった。結局、十時間近い移動時間のあいだ、所長は一言も喋らなかったよ。

 施設に到着したのは、深夜の午前三時ごろで、僕がミニバンから降りたとき、外は真っ暗だった。なにも見えなかった。山奥だけあって、街灯はなかったし、施設にも外灯はなかった。存在する明かりといえば、自動車のライトくらいだったよ。

 そのとき、なにかに腕を捕まれたんだ。もの凄い力だったよ。所長が僕の腕を引っ張って、施設の中に連れ込んだんだ。

 真っ暗だったから、視認はできなかったけど、音だけは聞こえたんだ。見えないと、聞くしかないからね。

 扉を開け閉めするような音と、鍵を閉めるような金属製の重々しい音だった。 

 不安だったよ。けど、そんな思いも即座に消え失せた。

 僕は吹っ飛んだんだ。言葉通りさ。吹っ飛んだんだ。前方から強烈な衝撃を受けて、そのまま後ろに倒れたんだ。後頭部を打ち付けて、目眩がしたよ。なにがなんだか理解できなかった。

 倒れたままうえを見上げると、真っ暗な闇の中にふたつの光を見つけたんだ。異常な光り方だった。ギョロギョロ動いて気味が悪かった。その光りは、所長の血走った瞳だったんだ。

「糞ガキが、余計な手間取らすんじゃねえよ」

 そこでようやく気づけたんだ。僕は所長に顔面を殴られて吹っ飛ばされたんだって。

 そして、この施設がとんでもなく危険なところなんだって。

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