表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

第八話 S.S.D.D.

Mine Resistant Ambush Protected エムラップ 待ち伏せや地雷でハンヴィーが棺桶なのでそれに備えるために開発されたとかなんとか

Objective Gunner Protection Kit 銃座に付いた射手は集中砲火を受けるので、それを守るための防御版。


邪教もお約束

Date: 2016年6月15日 6:36

Location: 前線作戦基地アンヴィル(FOB Anvil)

Person: 榊恒一中尉

---


兵站というものは生命線ではあるが実に裏方的だ。


勝った負けたの話は非常にシンプルだ。

誰が何を壊した、どこを取り返した、どんな化け物を仕留めた。そういう話は、兵士の口にも報告書にも残りやすい。

だが、弾、触媒、医療箱、識別袋、耐寒容器、燃料……

そういう地味なものが手元へ届かなくなったとき、一気にいろいろなものが死んだり壊れる。


榊は補給ヤードに積み上がる木箱を眺めながら、そんなことを考えていた。


いくらか涼しい朝だった。

フォークリフト代わりの雑なローダーが軋み、整備兵が怒鳴り、どこかで空箱が落ちる音がする。

木箱には国籍が混じっていた。英語。ロシア語。日本語。雑に上書きされた輸送記号。北部方面向けの識別印。

以前の墜落現場から拾われたらしい回収資材まで、何食わぬ顔で積み直されている。


八輪のHEMMET M977重輸送車が三両。。

その荷台へ、触媒容器、弾薬箱、医療備材、耐寒仕様の封入ケース、回収班用の資材が順に積み込まれていく。

北へ回す必要がある戦略物資だと、補給将校は苦い顔で言っていた。中東戦線も余力はないのだ。


その横で、白い煙を吹き上げている車両があった。第三分隊のAPCであるM113だ。


「ご老体が拗ねたな」


ラジードが煙を見上げてうんざり顔で言った。


「拗ねたんじゃない。死にかけだ」


整備兵がハッチから身を乗り出しながら言う。そして、周囲の騒音に負けないような声で怒鳴った。


「今日は無理だ!ラジエーターだけじゃない、あちこちガタが来てる!」


大声を出す整備兵を横目にラジードはいう。


「聞いたか、マックス。今日の俺たちは高級車だ」


ラジードは、少し離れた場所に停められた司令部手配のMRAPであるRG-31Mk.5を親指で示した。

運転手含め、総員10名を運ぶことができる。

角張った車体は砂埃にまみれているが、少なくとも白煙は吐いていない。

車内からの遠隔操作式のガンラックではなく、OGPK、有人の銃座にはおなじみM2重機関銃が取り付けられている。


「新しい車両はいいな。ケツが痛くならん」


「お前の尻の感想は報告事項に入らん」


「兵の士気は大事でありますぞ曹長殿!」


「ふざけてないで黙って乗れ」


ラジードが肩を揺らして笑う。少し離れたところでは、アリアが煙を吐くM113の鼻先を軽く撫でた。


「まあ、今日お前はおとなしく寝てろってことだ」


そう言ってから、彼女は整備兵へ向かって顎をしゃくる。


「帰ってくるまでに直しといてくれよ」


「無茶言うな」


榊は積荷の目録をめくる。前回の墜落物資から拾われた箱番号がいくつか混ざっていた。

本来ここにあるはずのない、多国籍な様相の墜落物資。そうやって戦争は繋がっている。


「榊中尉」


顔を上げると、エリックが立っていた。まだ顔色はよくない。

右肩から胸にかけての傷は治癒魔術と療養で塞がってきているが、軍服の下にはまだ厚い保護帯が巻かれているらしく、動きはわずかに硬かった。それでも、前よりは人間らしい顔をしていた。

ラジードが片眉を上げる。


「おう。治癒魔術万歳ってやつだな」


エリックは少し困ったように笑った。


「概ね間違ってはいませんね」


「笑ってるうちは大丈夫だ」


榊は積荷目録を閉じた。


「医者は何と言ってる」


「戦闘は不可。ですが、同乗と通信補助なら許可が出ました」


「つまり、無茶はするなということだ」


マックスが割って入る。


「する気はありませんよ」


そう答えたエリックの声は、少しだけ速かった。榊はそれを聞いて、それ以上は言わなかった。止める理由はある。

だが、ここで完全に後方へ置けば、こいつはまた置いていかれる側に戻る。強くなりたい。エリックはそう言っていた。


「乗るなら通信と記録だけだ」


榊は言った。


「撃ち合いが始まっても、前には出るな。分かったな」


エリックはうなずいた。


「了解です」


---


ブリーフィングは簡素だった。

簡易テントの中。地図板の上には、アンヴィルから北東へ伸びる補給路と、そこから分かれる乾いた脇道が描かれている。

小隊長は紙を一枚持ったまま、いつものように必要なことだけを言った。


「任務は護送だ。北部方面の集積ハブまで、積荷を三台ぶん届ける」


誰も口を挟まない。


「そこで北部方面向け便へ引き渡す。俺たちの仕事は、そこまでだ」


ハサンが地図の端に到着予定時刻を書き込む。補給将校は腕を組んだまま、積荷の欄を睨んでいた。


「ルートAが最短だ」


小隊長の指が、細い線を叩く。


「小橋と市街だった場所を抜ける。襲撃があるならここが一番やりやすいだろう。」


次に、少し南へ迂回する線へ移る。


「ルートBは遠い。燃料も食う。路外機動も増える。よって、橋が生きていればAを使う」

「知っての通り、人心も治安もよくない。魔獣もいるのにご苦労なことだ」


マックスは短くうなずく。


「また奴らですか?」


ラジードが鼻を鳴らした。


「終末論者なのか知らんが、あんな化け物どもを崇めるやつらの気がしれん。結晶教徒め……」


榊が言う。


「警戒を怠るな」


補給将校が、乾いた声で付け足した。


「盗るやつは盗るし、おかしなものを祭るやつに関しても、今に始まったことじゃない」


エリックが顔を上げた。


「結晶教徒……あまり詳しくないのですが、実際なんなんですか?」


テントの空気がわずかに止まる。小隊長ではなく、マックスが答えた。


「賊より質が悪い。物を奪うだけで済まない。世界が壊れること自体に意味を見てる連中だ」


榊も続ける。


「魔獣に食われて世界が綺麗になると本気で思ってる手合だ。あるいは、人間の手で壊した方が早いと考える」


アリアが壁にもたれたまま言った。


「どっちにしろ、ろくでもない連中さ。信じるもののみが救われるってな。」


「なるほど……」


そう小さくつぶやく。理解したというより、覚えた、という顔だった。

小隊長が話を切る。


「第一、先導。第二、荷台側面の警戒。第三は車列後尾と予備だ。榊は全体の前寄りで見ろ。エリックは通信補助」


「了解」


声が重なる。


「質問は」


ラジードが手を上げる真似だけした。


「MRAPの座席、ほんとに柔らかいんだろうな」


「乗って確かめろ」


小隊長はそれだけ言った。

復帰すると一皮むけるのあるある

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ