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第二話 F.N.G.②

そういえばF.N.Gという単語を初めて聞いたのが某FPSで20年くらい前なのか

Date: 2016年5月1日 12:11

Location: メフラーン近郊・廃村(旧イラン国境)

Person:榊恒一中尉

---


「あの馬鹿野郎!中尉を援護しろ!ハサン、小隊長に報告!さらに新しいワレモノが出た!」


榊は通信手のハサンが慌てて無線機で連絡する声を後ろに走る。

滑り込むようにエリックに近づく。ああ、くそ……出血がひどいな。

エリックから命の雫がとめどなく溢れている。弱々しい呼吸音。焦点の合わない目。何度も見てきた、見たくもない顔だった。


「動かすぞ。――一、二、三!」


榊は一気にエリックの身体を抱え上げた。


「マックス!カウント三でそっちへ戻る!援護を!一、二、三!」


いつの間にか、高台に展開したアリアの側からも.50の発砲音が響き始めた。

数発食らったのか、上空をかすめた猛禽類型が大きくよろめく。砕けた結晶片が陽光を弾き、きらきらとした破片になって宙に舞った。

だが、エリックの救出はそう簡単にはいかなかった。

煙幕の向こうから、あの犬型ワレモノが低く唸りながら突っ込んでくる。結晶化した前肢が瓦礫を砕き、巨体が一直線に榊とエリックへ殺到した。

エリックを放せば、自分だけなら下がれる。

逡巡する間もなく、その考えを切って捨てる。それをやれば、エリックは殺される。


「――来いよ」


榊はエリックを半ば引きずるように庇いながら身を捻り、短い火矢を犬型の顔面へ叩き込んだ。

炸裂で視界を潰し、転倒まではさせる。これで触媒は品切れだ。だが足りない。榊はガリルを構え、素早く引き金を引いた。

排莢口から空薬莢が硝煙を曳いて跳ねる。すべて命中したが、それほど痛打を与えた様子はない。


「足止めにもならん……!」


弾倉が空になる頃には、犬型ワレモノは再び駆け出していた。

榊は空の弾倉を引き抜き、叩き込むように新たに装填する。

スライドストップを解除し、即座に撃とうとする。ほんのわずかな時間のはずだった。

それなのに榊には、永遠に終わらない作業のように感じられた。その間にも、犬型ワレモノの牙が迫るのが、妙にはっきりと見えた。

間に合わない!


ギャウン!


犬型ワレモノが悲鳴を上げた。榊の目の前には、赤黒くきらめく濁った鋭い結晶――ワレモノの顎があった。


何が……!?


見ると、ワレモノの足元から鋭い石柱がせり上がり、首筋へ深々と突き刺さっていた。

巨体はその場に縫い留められている。魔術!?軍の教本にも載る初歩術式だが誰が!?


はっとして振り向く。


朦朧とした、焦点の合わない目でなおワレモノを見据えたまま、エリックが倒れていた。

エリックは、どうやらまだ息があるようだった。まだ口が動いている。


あの負傷で発動させたのか!?


だが、それを確かめる前に、命を削って捻り出してくれた時間を無駄にはできない。今度こそ、致命打を与えなければ。

榊は犬型のワレモノを睨みつけ、手のひらを正面へ向けた。この術は榊固有の術式だった。当て方を最初に教えたのはサミーラだった。

まだ身体も出来上がっていなかった頃、砂まみれの演習場で何度も転がされながら覚えさせられた術でもある。


「地底の炭脈に眠るは、不倒の巨神の指先」


榊の掌の前で、地面から細かな砂が浮かび上がり、鋭い円錐形へと収束していく。


「十重二十重の地圧の檻を、炉熱で焙り、螺旋の牙に削り出せ」


砂粒は高圧にさらされ、高熱と魔力を帯びながら、硬く、鋭く焼成されていく。


「回れ、回れ、粉炭と灰の螺旋よ」


キィーン、という耳障りな音を立てて、必殺の矢じりは高速で回転を始めた。


「貫け、穿て、焦熱の楔――焼砂錐!」


破裂音を発し、集まりきらず空中に漂っていた砂塵が、発射の衝撃で一気に吹き飛ぶ。

師匠なら埃を立てるなと叱るかな。そんな苦い記憶がほんの一瞬だけ脳裏をよぎった。

魔力を帯び、碧い光芒を曳いた矢じりが、エリックのロックニードルで脆くなっていた箇所へ深々と突き刺さった。


キィィン!


甲高い音を立て、首筋から飛び込んだ光芒は内部を切削粉砕しながら貫き進む。

次の瞬間、内部で破裂、左後ろ脚ごと爆砕しワレモノの中身を後方へぶちまけた。

榊はそれを確認するより先に、首筋に穿たれた孔へ拳銃を突っ込んだ。


引き金を引く。

引き金を引く。

引き金を引く。

弾倉が空になるまで、ただそれだけを繰り返した。

最後の一発を撃つ頃には、犬型ワレモノの全身に無数のひびが走っていた。

そして最後の銃声とともに、そいつはきらきらとした破片になって崩れ落ちた。

榊は全身から汗が噴き出し、額から流れた汗が頬を伝い落ちるまでのわずかな間、その場で放心していた。


エリックの様子を確認しなければ……。


「エリック!」


榊は横たわり、ぴくりとも動かない彼のもとへ駆け寄った。エリックは目を閉じたまま、か細い呼吸を辛うじて繋いでいた。

生きている!

榊は間髪入れず、エマージェンシーキットから触媒結晶を引き抜き、エリックの手に握らせて砕かせた。


「冥府の管理者に希う。この者の招聘に、今ひと時の猶予を与えたまえ。――ステイシス!」


破砕された結晶から解放された触媒が短い詠唱に反応し、封じ込められていた延命魔術が発動させる。エリックの傷口をほのかな光が包む。

止血、鎮痛、脈拍安定を一時的にまとめて行う複合術式。前線の魔術師に支給されるエマージェンシーキット内のトラウマキット、ステイシスだった。

もっとも、あくまで時間稼ぎにしかならない。早く医魔術兵か衛生兵に引き継がなければ…榊は周囲を見渡し、怒鳴った。


「誰か手を貸せ!負傷者だ!」


声を聞きつけ、第二分隊のアイシャが低く身をかがめて駆け寄ってくる。第二分隊はなおも猛禽型へ牽制射撃を続けていた。


「止血はした!運ぶぞ!」


榊はエリックのプレートキャリアのショルダーハーネスを掴み、アイシャと左右に分かれて一気に引きずった。

マックスのそばまで後退し、どうにか合流を果たす。マックスは猛禽型へ弾丸を浴びせながら怒鳴った。


「容体は!」


「止血はした!だが時間稼ぎだ。すぐ衛生兵に回さなければ!」


「だろうな。ラジード!撤退するぞ、隊を集めろ!ハサン!小隊長に撤退支援を要請しろ!」


「了解!ダガー1よりダガー6!」

『ダガー6だ』

「重傷者一名!負傷者複数!重傷はエリックだ!即時搬送支援を要請!」

『了解。ダガー3をそちらへ向かわせる。』

「了解、ダガー6。オーバー」


「アリア軍曹の分隊が来るまで持ちこたえるぞ!」


返答が途切れるより早く、猛禽類型が再び頭上をかすめた。

結晶の翼が陽光を反射し、赤黒い破片を撒き散らしながら急旋回する。


「榊中尉、あの鳥野郎を叩き落とす。落ちたところへ一撃頼む。アイシャやれるか?」


「やれます」迷いなく答える。


アイシャは小銃を下ろし、背負っていたベネリM4を引き寄せた。

素早く薬室を開き、魔術触媒入りの膠着散弾――通称“鳥もち”――を押し込む。


「総員、中尉が本命を入れる!お前らはアイシャの援護だ。地面に落ちたら一気に叩く!」


榊はうなずき、足元の砂へ意識を落とした。機関銃兵が遠慮のない射撃を加え猛禽型をけん制する。

猛禽型は回避行動をとり、いらだたし気に叫び声をあげる。致命打には不十分だが近寄りたくはないようだ。

視界の端がちらつく。さっきの焼砂錐とステイシスの反動が、遅れてこめかみを殴ってきた。

だが、ここで止まるわけにはいかない。


魔術は連携だ。サミーラそういって頭をなでてくれたのを思い出す。

その場で彼女は仲間から、単身突っ込むイノシシが何言ってんだといって笑われていたが……


焼砂錐の同系統魔術、焼砂杭。飛ばして穿つのではなく、地から突き上げ獲物を串刺しにするための術だ。


「アイシャ!弾切れだ!来るぞ!」機関銃兵のアリレザーが叫ぶ。


猛禽型が再度、一直線に突っ込んでくる。アイシャは一歩前に出て、散弾銃の銃口をわずかに先行させた。

パンッ!乾いた破裂音。散った膠着散弾が猛禽型の左翼と胸元へまとわりつき、半透明の粘着膜が結晶の羽根を一気に固める。

翼のバランスを崩した猛禽型は大きくよろめき、そのまま石壁へかすめるように激突した。

砕けた瓦礫と結晶片を撒き散らしながら地面へ叩きつけられ、なおも爪で地を掻いて起き上がろうともがく。


今だ。榊は手のひらを地面へ向けた。


「地底の炭脈に眠るは、不倒の巨神の拳骨」


足元の砂と砕けた石片が、熱に浮かされたようにふるえ始める。


「岩よ、凝れ。砂よ、結え。焦尾の一点に収束せよ」


砂粒が魔力を帯び、赤黒く焼けながら細長い杭の形へ収束する。


「叩け、叩け、鉄床の律動よ」


地面の下で、何本もの熱い牙が獲物を狙ってうねった。


「縫えよ、留めよ、灼熱の楔――焼砂杭!」


岩の砕けるような音とともに路面が弾け、三本の焼けた杭が猛禽型の翼の付け根、脚、尾羽の根元をまとめて貫いた。

貫いた杭の表面からは、芽吹くように細い棘が枝分かれし、翼膜と関節をさらに絡め取っていく。

巨体は地面へ縫い留められ、結晶の嘴を鳴らしながら狂ったようにもがく。


「撃て!」


マックスの号令と同時に、第二分隊と第一分隊の銃口が一斉に火を噴いた。

擲弾手は40ミリグレネードを装填し、猛禽型の足元へ撃ち込む。小銃弾と破片が次々に叩き込まれるが、やはり決め手にはならない。

激しい抵抗に、焼砂杭がみしみしと悲鳴を上げ始めた。赤熱した枝杭の先端が砕け、結晶混じりの破片が飛び散る。


「まずい、砕ける!」


誰かの叫びが榊の耳に刺さった。とっさに腰の手斧を引き抜くと、ありったけの魔力を刃と全身にまとわせて猛禽型ワレモノへ駆け出した。


「馬鹿が!撃つな、撃つな!榊に当たる!」


ラジードの怒鳴り声で、周囲の銃声が一瞬だけ散る。

碧い魔力をまとった手斧を、榊は猛禽型の頭部へ叩きつけた。


硬質な結晶が割れる音が響き、手斧が頭蓋の中ほどまで食い込む。

その衝撃で猛禽型の全身にひびが走り、甲高い断末魔とともに赤黒い破片へ崩れ落ちた。

榊の手の中で手斧も役目を終えた可能ように崩れ落ちた。


「今のうちに運ぶぞ!」


そのタイミングで、第三分隊のAPCが犬型のマザリモノを弾き飛ばしながら路地へ突っ込んできた。


「さっさと乗りな!走れる奴は走れ!」


アリアの怒鳴り声と同時に後部ハッチが開き、支援班の兵士たちが下車展開して制圧射撃を開始する。

ポン、ポン、と軽い発射音が続き、展開されたスモークが周囲を白く塗り潰した。


エリックを車内へ搬入し、榊はすぐさま車外へ取って返す。


「よし、行け!」


次の瞬間、支援兵の六連40ミリグレネードランチャーが撃ちだされた。

魔術触媒入りの炸裂弾が青白い爆炎を連ね、追いすがろうとしていた犬型どもをまとめて呑み込む。

その炎にひるんだのか、その後に追跡の気配はなかった。一団は後方の小隊本隊とようやく合流し、そこで初めて短い息を吐くことができた。


触媒による速射は威力精度ともに落ちます。

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