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第十三話 足場②

機械化歩兵の強みがあってるのかは不明。間違ってはいないと思う。リアル系のシミュレーションFPSをやると機甲化兵力の市街地での視界の狭さはなかなか大変。逆に対戦車装備のない歩兵は地獄。

Date: 2016年8月8日 0530頃

Location: アマーラ侵攻戦 前進中・ポイントエクスレイ

Person: エリック少尉

---


前進が始まると、速かった。

先頭はコールサイン、アイベックスのT-72Mの機甲分隊。その後ろにストライカー双輪装甲車25㎜機関砲搭載型(IFV)だ。そのあとを兵員輸送型(ICV)が銃座からM2を構え交互に左右を警戒している。

D9R(装甲ブルドーザー)は工兵要員とともにまだ後方にいる。障害除去など必要になれば前へ出る手筈だった。

ストライカーは舗装の残っている区間では容赦なく速度を上げる。主力戦車に随伴し、一気に侵攻、歩兵展開とともに火力支援を提供できる。これが機械化歩兵部隊の強みだ。

履帯には不整地踏破性で劣るものの、整地での機動力は比べるべくもない。

加速の感覚が違う。背中が座席へ押し付けられる。戦闘団に先行し、高速で侵攻し偵察を兼ねた強行突破を目的としている。ハサンが本部小隊の車両の中で短く報告している。


「ローカスト6、こちらフェネック3-4。先導しポイント・エクスレイにて展開予定。速度維持。現在魔獣との遭遇なし」


路面の凹凸を少なからず拾うため、速度も相まって車内はひどく揺れる。

別回線では航空管制や砲撃に必要な情報をやり取りする声が聞こえる。車内の空気は金属と汗と絶えない雑音で満ちていた。

一気に先行し、交差点に歩兵中隊が下車するための防衛線を構築するのが目的だ。歩兵中隊分の走行車両を用意することが難しかったことによる、苦肉の策だ。

カーターは目を閉じていた。眠っているように見えるが違う。地図と現地情報を結び付けているのだろう。エリックは短い付き合いながら何となくそう感じる。

エリックは無意識に地図へ目を落としていた。前はまだ直線だ。問題はその先の交差点だった。見えないまま入ることになる。


「交差点を確保、主攻が惹きつけ、砲兵部隊が砲撃、それを受けて側面から掃討しつつ前進でしたよね」


カーターは目を閉じたまま答えた。


「そうだ。川岸で主攻が対峙している魔獣群を側面から叩く。退路は常に考えておけ。それと俺たちは遊撃だ。負担の大きいところに送られる」


一拍置いて、目を開く。


「今日は忙しいぞ。覚悟しておけ」


---


ポイント・エクスレイに着いた時、最初に目に入ったのは魔獣が移動していく流れであった。陽動を兼ねて派手にやりあっている主攻へと集まっているようだった。

エリックたちは即座に下車展開し、防衛線の構築に当たる。対物ライフルを抱えた隊員と軽機関銃を背負った隊員が建物上部に陣取る。

分隊員はストライカーの銃座に着きチャージングハンドルを引く。25㎜機関砲の砲塔が西を向いた。

すぐに数匹のマザリモノが防衛線に狙いを定め駆け寄ってくるが、M2重機関銃の掃射によりバラバラに吹き飛ぶ。主攻の陽動が予定通り効いているためか、想定よりも抵抗としては小さい。

遅れてアイベックスが交差点の南北へ分かれて止まり、交差点の防衛線をさらに厚くした。歩兵中隊の兵たちは半壊した建物へ散り、屋根と開口部へ簡易火点を作る。ここを押さえれば交差点は見通しがいいので、通りへ出たものから順に撃てる。エリックのロックニードルにより足を飛ばされたワレモノにT-72Mから放たれるAPFSDS弾が突き刺さる。粉々に砕け沈黙する。


戦闘団指揮官の全体通信が飛んだのは、その少しあとだった。


『川の南岸に魔獣の誘引完了。予定通り砲撃を行う。観測射着弾まで六十秒。各員、着弾近い、注意(デンジャークロース)。衝撃に備えろ。廃墟の崩壊に注意されたし。アウト』


激しい爆発音と振動が続く。


『弾着修正。これより効力射を開始する。デンジャークロース。アウト』


後方砲兵陣地からの砲撃だ。FOBアンヴィルからMLRSのGPS誘導ロケット、自走榴弾砲からの絶え間ない砲撃が続く。頼もしい衝撃だ。しかしワレモノの殲滅には至らないだろう。

これは広域魔術の発動まで釘付けにすることが主な目的である。ようやく音がやんだ段階で新たな無線が入る。航空魔術師部隊の指揮官だ。

作戦では単純な爆撃だけでは排除しきれないワレモノを中心とした、高脅威個体を魔術の追撃で排除する手はずとなっていた。


『こちらウィーティア6。これより爆撃地点に広域殲滅術式による追撃を行う。地上部隊は注意されたし。アウト』


エリックは反射的に身を低くした。

火災旋風めいた炎の柱がいくつも巻き上がり、生き残ったマザリモノやワレモノを等しく焼き上げていく。続いて巨大な水塊が落ちた。砲撃のように地面を叩き、視界の端で建物の一角が崩れた。

火災の鎮火もかねての選定だろう。噴煙。粉塵。魔術の余波が空気を押し潰す。さすが航空魔術師だ、と思った。それらが終わったとき、果たして掃討するほどの数が残っているだろうか?とエリックは感じた。

エリック達の直掩魔術師である上空のウィーティア1は断続的に見えるものを送ってくる。しかし立ち上る煙と建物で状況報告はどうしても断片的なものになる。


「少尉、クレアボヤンス(遠隔監視)は使えるようになったな?」


カーターが唐突に質問する。クレアボヤンスは離れた地点の状況を見ることができる汎用魔術だ。ただし、発動できることと実戦で使えることは同義とはならない。広域の情報を収集した場合の負荷と消耗が大きいので、あまり使う者がいない癖のある魔術と考えられている。


「はい。まだピンポイントでの情報収集は難しいですが、ある程度なら」


エリックは答えた。カーターはすでにクレアボヤンスを使っていた。カーターの使い方はただ広く長く覗いているわけではない。周辺の要点だけを短くつかみ、地形と経験則で穴を埋めている。進行方向の予測や接敵のタイミングの想定精度が非常に高い。言われてみればなんてことのない方法だが、いざやってみると非常に難易度が高い。エリックはこれで何度どやされたかわからない。

カーターの表情は変わらないが、粉塵と広域魔術の余波で、いつもより情景を拾いにくそうだった。


「いいぞ。欲張るな。見えた断片をとにかく繋いでいけ」


助攻の指揮官である、歩兵中隊長が声をあげる。


「爆撃で散ったやつらを掃討、主攻の抑えてる魔獣を側面から叩く。前進!」


その直後、角の向こうで群れの先頭がもつれた。砲煙の切れ目から、もとはコヨーテであったであろうワレモノが一体、次いで二体、半ば滑るように交差点へ飛び込んでくる。25㎜機関砲が先に鳴る。重く詰まった破裂音が路肩と個体の表層をまとめて削り、突き抜けて後ろの建物の壁を削る。よろけたワレモノ達へさらに25㎜機関砲から放たれるAPFSDSの追撃が行われ完全に砕けて消える。砲撃の効果で弱っている個体が多いようだ。

シェルショックなのか、本能がまだ強いマザリモノを中心に、逃げ出す個体がみられた。魔獣の列は止まらない。脇道から外れた個体が別方向からも顔を出し、各車の銃座に据えられたM2が短くリズムを刻んで通りへ押し返す。通路の奥ではなお魔獣群が西へ流れていた。交差点に出たものだけが、こちらの獲物になる。


カーターはいつの間にか詠唱を終えていた。


「11時方向の建物角から5匹、15秒で来るぞ!拘束するから斉射準備!」


声は短い。説明はしない。必要な座標だけを伝える。

指示したように15秒後、ワレモノ1体とマザリモノ4体が駆け出してくる。射線が通る箇所に差し掛かった瞬間、5頭はまとめてカーターの魔術であるいばらの蔦に絡めとられ転倒する。蔦というよりは有刺鉄線に近い。

慌てたようにもがき、蔦から逃れようとするが剃刀のように鋭い刃が付いた蔦が高速で巻き付き表面を削りだす。細い蔓が高速で回転し、表面を削る。皮膚というより鉱物の層を剥いでいるような手応えが、見ているだけでも分かった。


「撃て!」


カーターの指示に合わせ、5体に向けて火力を集中させる。魔力表面層を削られたため、弾頭はめり込み確実にダメージを与えた。

その制圧が終わらないうちに、カーターはビルに数匹まとまって潜んでいるのをとらえていた。


「フェネック2-6よりローカスト1-6。北西のビル内に数匹いる。砲撃でビルごとやってくれ。中身の拘束と削りはこちらで引き受ける」


「ローカスト1-6、了解。アイベックス、頼めるか?」


「アイベックス、了解。HEATを撃つ。注意しろ。」


次の瞬間、北西の建物が内側から抉れた。破片が道路へ散り、拘束された個体ごと建物が崩れる。

カーターの魔術により拘束され、削られた魔獣はその重みに耐えきれず押しつぶされる。

爆撃の混乱によって散らばった魔獣を掃討しつつ前進を継続する。


---


上空からウィーティア1による状況報告は続いていた。


「北は煙が相変わらずで詳細が見えない」

「魔獣2体を建物陰でロスト」

「西から3体来るぞ」


断片ばかりで、位置も数も方向も細切れだった。

カーターはそれを嫌がる様子を見せない。クレアボヤンスの焦点を短く切り替えつつ、部隊の前進先の敵情を集めて分析する。エリックへの指示は必要なぶんだけ飛ぶ。

エリックは無線と地図と、車列位置と、カーターやウィーティア1からの情報の断片をつなぎ合わせようと必死だった。ただ報告を受ける作業ではない。断片をつなぎ全体をとらえる作業だった。

その時、爆圧で落ちた大きな瓦礫が道路を塞いだ。部隊の侵攻が停まる。


「工兵!」


工兵隊が出ようとしたところで、数体のワレモノが正面へ躍り出た。機甲火力がそちらへ向き、一瞬正面の制圧力が落ちる。

エリックは視界の端に左翼の路地へ走る二体を見た。


「カーター大尉、ワレモノが二、左翼へ!」


その直後無線が入る。


『ローカスト1-6よりフェネック2-6、左翼支援を要請。魔術師負傷。』


カーターが正面を見たまま、ほんの一拍だけ逡巡した。カーターのいる本隊もあまり余裕はなかった。いばらが二体を止めている。だが、全部は見きれない。


「大尉、私が行きます」


エリックはガリルを握りしめていた。緊張は、ある。だが行かなければと考えていた。


『フェネック2-6、了解、エリックを送る』

「行け。お前しかいない。急げ!」


エリックは返事もそこそこに走った。


---


左翼の路地は、交差点より狭かった。崩れた壁が両側へ迫り、上は半分だけ残った屋根が影を落としている。通路の先ではローカストの兵士たちが必死に射撃していた。中隊付きの魔術師が一体を地面へ縫い留め、そこへ弾を集めている。だが顔色は悪く、止血の跡が腕にまだ生々しい。


「一体は抑えた!」


誰かが怒鳴る。


「もう一匹はどこへ行った?」


次の瞬間、別の兵士が叫んだ。


「気をつけろ!ワレモノが上に回ってる!ヒョウだ!早いぞ!」


エリックは足を止めた。上だ。


「カバーしてください!探します!」


そう叫ぶと同時に、クレアボヤンスの詠唱を行う。発動そのものはできる。だが、何を見るか、どこまで拾うかの勘はまだ浅い。だがやるしかない。

視界が引いた。俯瞰。屋上の陰だ。パキパキと結晶の槍を顔の前に生成し、射出の角度を取る個体が見える。


「3時方向!伏せろ!」


兵士たちが身を伏せる。結晶槍が壁を紙のように貫いて室内で爆散した。破片が周囲に突き刺さる。兵士は応射するがうまく当たらない。動きが早すぎる。

エリックは呼吸を整えた。見えた。だが今の一瞬だけだ。カーターのように周囲の断片をつないで追い続けることは、まだできない。このままではまた隠れる。


「俺が足止めします」


白い顔をした中隊付き魔術師へ言う。


「無理を言いますが、あなたはとどめをお願いします」


相手は一拍だけエリックを見た。年上だ。中尉でもない。だが今、必要なのは階級より順番だった。


「よし、やれ……」


エリックは頷き、詠唱を始める。詠唱による魔力の収束を感じたヒョウのワレモノが屋上から飛び降り、襲い掛かる。


「泥濘は恵みであり、悪しきものの足をとらえる捕縛の泥となす。泥濘はとらえたものを久しく離さず。われらの土地を侵すことなかれ。われらの敵に足かせを!泥濘の足環!」


局所的に足場を泥のように崩し、動きを奪う魔術だ。突然現れた泥濘に嵌まったワレモノは、跳ぼうとした脚が沈みそのまま固定される。


「今です!」


その声を聞く前に中隊付き魔術師の術式が重なった。雷鳴にも似た音が響き、圧縮された何かがすさまじい速度でワレモノの胴を砕く。バランスを失ったワレモノが身をよじり、その一瞬へ兵士の射撃が集中した。

沈黙。下の一体はまだ生きていたが、動きは鈍っていた。エリックは即座にそちらへ視線を戻す。

兵士が二人、位置を変える。別の一人が破片で血を流しながらも射撃を続ける。エリックがとどめを刺し、そこでようやく残る一体も止まった。


「クリア」


誰かが言った。喜びはない。確認だけだ。エリックは自分の呼吸が荒いことに、その時初めて気づいた。

無線で交差点正面の状況が知らされる。

工兵が障害を排除し、ポイント・エクスレイは完全に押さえられた。個体が減り襲撃は減りつつあった。助攻群は主攻が抑え込んでいる川岸へ侵攻する準備が整う。

再集結した時、T-72Mが前へ出ていた。交差点周辺の残敵を押し返し、上ではウィーティア1が接近前の個体へ魔術による狙撃を行い接近される前に倒している。派手ではない。だが、ああいう正確な一発は魔獣と言えども嫌だろうと思った。

戦闘後、煙はまだ低く残っていた。工兵が通路を整え終わり、後続車列がポイント・エクスレイを抜け始める。負傷者。弾薬。回収班。通信要員。交差点はもう戦場というより、次へ続く中継点と変わっていた。


カーターが隣へ来た。


「よくやった」


エリックはすぐに答えなかった。何かをなしたというより、その時いちばんましなものを選んだに過ぎない。あるのはベストではなくいつだってベターだ。そう繰り返す榊の顔が浮かぶ。


「視野を広く持て。使えるものがないか常に考え続けろ」


無線が重なった。


『ローカスト6より各員。交差点確保。工兵隊は再集結し後に続け。先導はアイベックス、金床を待たせてる、槌役を遂行するぞ。アウト』


足場はかけた。だから踏み込む。交差点を押さえること自体が目的ではない。

ここを通して、さらに前へ進むのだ。


現実で部下の育成の悩むので、部下の成長を書きたかった。次回はエリックと榊のそれぞれの戦場です。

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