五月三日 十四時十五分
東京第一地区の有名な繁華街。その反対に位置するオフィス街も、大型連休特有の賑わいを見せている。
家族サービスに勤しむ夏生は、娘の芽生を連れ、芽生の所望するパフェを食べに、此処オフィス街へと足を運んだ。
学校のこと、勉強のこと、友達のこと、そして母親のこと-
歩いている間でさえ、芽生のお喋りは止まらない。
そんな愛娘の弾む声に、夏生の頬が緩む。
通称“煉瓦通り”と言われる、飲食店が軒を連ねる場所に着いた。
狭い車道を挟んだ向こう側に煉瓦造りのビルが見える。お目当ての喫茶店はこのビルの一階にある。
クリーニング店の配達車が死角になり、喫茶店の入り口が確認できない。
芽生は夏生の手を引き、ズンズンと進んでいく。
「パフェは逃げないから」
「逃げちゃうかも知れないじゃん!」
配達車の正面に回り込んだその時だ。
助手席側の死角から「ワッ!」と言って現れるソイツに、運転席に座っていた男性は跳ね上がり、窓越しから目を丸くしてこちらを伺う。
そして夏生は、びくともせずにこう言い放つ。
「何でお前が居るんだよ」
この一ヵ月、首を長くして待っていた。
大型連休は人手不足な上に、厄介な患者も多く運ばれて来る。
去年までは家族サービスに奮闘する同僚の背中を恨めしく見送っていた。
今年は同僚の痛い視線を乗り越えて休暇を獲得できた。
左手に感じる小さな手の温もり、その朗らかな声と無邪気な笑顔が、日々の残業で満身創痍になった心を癒してくれる。
なのにどうして。
眼前の満面の笑みは正しく凶器で、心に巻かれた包帯を容赦なく引き千切っていく。
「わたしが誘ったんだよ」
と、耳を疑う愛娘のその言葉。
追い討ちをかけるように続ける。
「春くんとね、父さんと皆んなで、黒猫パフェ食べようねって約束してたんだー」
春と芽生はアイコンタクトをかわし、『サプライズ成功』と言わんばかりに、ニッコリと笑い合った。
ずっと気付いていないフリをしていたが、やはりそうなのか。
芽生は春を気に入っている。
「驚いた?」と父を見上げると、娘は瞬時に察知する。
父親が難しい考え事をしていると、眉間に皺を寄せて動作が固まることを芽生は知っていた。
今がまさにそれで、「あー始まっちゃった」と言うと、芽生は父の手を引き、喫茶店まで導いていく。
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二重瞼がハッキリしていて、ややつり目気味のシャープな雰囲気が好きだとか。
鼻先は尖りすぎてなくて自然な丸みを帯びているのがチャーミングだとか。
鼻筋が真っ直ぐで、横から見ると滑らかなラインが堪らないだとか。
スッキリとした輪郭に収まるパーツが美しいだとか。
背も高くて、細マッチョで雄みを感じるだとか。
その他諸々-
ヤツといると嫌でも聞こえてくる、女性達のそんな言葉の数々を思い出した。
アイドルの様な、女性を虜にするその見て呉れに、我が娘もまんまと沼ったという事なのか。
いやいや、芽生のDNAは俺と彼女の半々が受け継がれている。
歳の離れた兄の様な存在なのだろう。
そうでもしないと説明がつかない。
こんな女関係にしまりの無いヤツ、遺伝子レベルで眼中に無い。(はず)
自分の中で決着をつけた夏生は、喫茶店の水を飲み干し、春にこう言った。
「春、たまには奢れ」
埜本 夏生
年齢: 27歳
職業: 病院総務
身長: 178㎝
体重: 68kg
近況: 近隣の小学校から脱走したチャボを病院駐車場で捕獲した
桧村 春
年齢: 28歳
職業: フリーランスという名の無職
身長: 181㎝
体重: 62kg
近況: 知り合いの小学生男児に頼まれ、脱走した兎を捕まえる
加藤 芽衣
年齢: 6歳
近況: 春くんと夕飯を食べた




