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『月の迷宮』(第2巻)「禁断の塔の戦いへの叙事詩より 及び 外伝」  作者: nico


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外伝 その一 『レニの谷のカン』①



 カンの父親は鍛冶の村として名高い『レ二の谷』で打たれる武具の出来を見極めるために、ミタン王府より派遣された士官の一人だった。


 そこでひとりの長老の娘と出会って恋に落ち、カンが生まれた。

 しかしミタン軍閥の名門の長であるカンの祖父はその結婚を正式なものとは認めず、母子を都に呼び寄せることを許さなかった。


 そのため鍛冶職人の中で育ったカンは幼少の頃からその技巧の才を認められ、十才を過ぎた頃には、すでに古来の技術を習得する特別工の一人に選ばれていた。

 それから更に何年もの修業を積んだ暁には、僅かな者にだけ許される『秘伝の奥義』継承者候補の一人として、その名が挙がるだろうと思われていた。

 そんなカンはまた、都の父親の依頼を受けた駐在士官達からみっちりと剣術も仕込まれていた。

 


 しかしそんなカンに、突然の転機が訪れる。都に住む父親が急逝し、カンの剣の腕前を知った祖父が呼び寄せたのだ。一門の跡継ぎである異母弟はまだ幼く、暫くは後見が必要だった。


 

 『レ二の谷』では曾て流民だった一族の古よりの守り神『火の神』、その象徴たる『聖なる火』を絶やすことなく奉っていた。それが、主神『月の神』と『森の精霊』への信仰の篤いミタンに於いて『レ二の一族』を特異な位置に置いていた。


 

 カンが谷を離れる日の前夜、族長がカンをその守り神を祭る祭祀小屋に招いた。

 族長は、故郷を後にする若者を長椅子に座らせると言った。


「よいか、カン・・これまで学んだ秘法は今後一切、何があろうと口外してはならんぞ」

「はい」

「うん、良い子だ・・ほれ、これを一つ食べなさい」

 

 そう言うと、族長はカンに緑色の丸薬のようなものを差し出した。


 食べると、暫くして口の中いっぱいに苦みが拡がった。

 思わず顔をしかめながらも一生懸命飲み込もうとしている様子を静かに見守っていた族長は、何とか食べ終えたカンに言った。


「苦いか・・口外出来ぬ秘密の・・苦しみの味だ」


 それから、部屋の隅に置かれた見事な酒壺から美しく赤く澄んだ色をした液体を大盃に注ぎ、それを若者に差し出した。


「ほれ、これを飲みなさい。これは秘密から解放される歓びの美酒だ。わしからの別れの贈り物だ・・」

 

 それはミタンの地では栽培が難しく、収穫が極めて少ない果実から作った酒で、集落の者でもそれを味わう機会は一生の間に数えるほど、例えば自らの婚礼の時くらいだった。

 その味は、誰でも一度飲んだら忘れることが出来ないといわれ、『天の祝福』と呼ばれていた。

 勿論、カンもまだ一度も口にしたことはない。


 一口飲むと、暫くして・・何とも云えない香しさと蕩けるような甘さが広がり、それまで口の中を占領していた痺れるような苦味を押し退けた。


(・・これが天からの・・祝福の味・・?)


 そうしてその貴重な天上の美酒をグビグビとまるで水でも飲むように一気に飲み干すと、その祝福に身を委ねるように背凭れに寄り掛かり・・トロンとして・・静かに目を閉じた。

 しかしその目は閉じるまつ毛の間から、そんな自分の様子をジッと見つめている族長の表情を捉えていた・・。



 暫くして、部屋には長老達が次々と姿を現した。


「誰かおったのか」

 少し遅れて最後に入って来た一人に族長が訊いた。

「いや、オーボがその辺りにいたんだ」


 いつも村のあちこちを歩き回っては一人で喋ったり歌ったりしている男が、こんな時間に小屋の近くを徘徊していたらしい。


「・・では準備に取り掛かりましょうか」

 長老の一人が、カンの身体をそっと寝椅子に横たえると言った。


「・・もうしばらく待ちましょう。すっかり眠ったと確認できるまで」

「セン殿、悪いな。あんたの孫にここまでやりたくはなかったんだが」

「いや、族長。お気持ちは分かっております・・」

「カンはまだ若い。いくらこれまで学んだ秘伝は口外しないと言っても、これからの長い人生何があるか分からん・・結局はカンのためだ」

 そう言って副族長が口を挟んだ。


「・・口外出来ない秘密を握っているというのは、本人にとっては反って危険な事ですからね。もちろん我々一族にとっても・・」

 一番若いマキが言った。








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