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『月の迷宮』(第2巻)「禁断の塔の戦いへの叙事詩より 及び 外伝」  作者: nico


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終章 『下弦の月』 その4



 シュラは、そんな『精霊の森』の女王リデンを見つめた。


 曾て・・美しい森の泉の淵に、月に照らされて横たわる姿に一目で心を奪われた。その時から少しも変わることなく麗しい。

 

 その輝くような純白の髪だけは、砂漠の強い陽射しのせいか褐色がかってきているが・・それもまた陰影を作って、また別の魅力が加わったようにも思える。

 ・・鬱蒼とした深い森も似合うけれど、月の砂漠もよく似合う。いや近頃では、その髪の色の変化のように、砂漠の方がより似合いそうな気さえする・・。


「・・では、いっそ,ここに『リデンの森』をお造りなさい。憂い顔のあなたを、そういつまでも見ていたくはありません・・」

 

 リデンは一瞬の沈黙の後、シュラを見つめて言った。


「全ての森と緑野を破壊しようとしている、張本人のあなたが・・」

「あの美しい森が焼失してしまったことは、私も残念に思っています。しかし地震が起こって大規模な亀裂が入り、水が枯れてしまったことまではお責めにならないで下さい・・」


 そう言うシュラの月のように涼しげな瞳には、リデンの問い掛けに対する答えは何も見えない。


(・・シャラは、あなたの頭の中から這い出した唯の傀儡。あなたのために『魔月の神殿』を作り上げ、そしてシャラの中で、シュラ王・・あなたが目覚めた時、その居場所はなくなった。・・シャラの心の迷宮は、ただの廃屋。でも下手をすると捉えられてそこから永久に出られない・・。でも、シャラの消えたあなたの心は・・)


 リデンは再び眼前に広がる砂の大海原に目をやった。


 大波に耐えて揺らぐ小舟・・そんな小さな一本の木が幻視の中に現れた・・。

 ・・その木が枯れた大地から少しでも水分を吸い上げて必死に枝を伸ばそうとしている、緑の葉をつけようとしている。・・やがて、実を付け、落とし・・芽を出し、若木に成長する・・。


〝・・憂いなき森の精霊リデン。兵達に平和を与え、心さすらう者には安らぎをもたらし、傷ついた者にその力を蘇らせる『精霊の森』の女王リデン。そのリデン様ご自身が一体、何を思いわずらうや・・?〟


 そんなハマの言葉を反芻したリデンの脳裏に、曾て『幽玄の森』の主が語った、長い間の森の物語が蘇る・・。


 巡る季節の毎に新たな芽を出し、巡る年月のうちに森に育つ。凍土の中に眠る種・・氷河に閉ざされた後も、その小さな種から新たな生命が再生し、風に運ばれ、砂漠にさえ種子は芽吹く・・。


(・・戦うべき真の相手は、目の前の王ではない・・森の精霊たる私自身・・?委ねる相手は・・時。現在・・未来・・。水・・水・・シュメリアは元来、豊かな地下水に恵まれていたはず。水脈・・確かシュラ王は曾て、国中の水脈の調査を命じたのでは・・)


 リデンは砂漠から視線を戻し、傍らのシュラに目をやった。


(・・悪魔と取引して・・公共事業に乗り出す・・?)



 愛するシャール・・シャールの身を案じて『月の神殿』に行ったサアラは、その後、シャールに会うことはなかった。シャールに極めてよく似た人物、シュメリアのシュラ王は、春の森の愛娘にさしたる興味は示さなかった。

 

 サアラは混乱を極めた。・・シャールがそこにいるのに、シャールはそこにいない。

 同じ顔、同じ声、同じ身体・・でも、眼差しも、声音も、態度も・・違う。

 

 そのシャールが愛しているのは自分ではなく、双子の姉のリデン。『精霊の森』の誇り高き女王。

 同じ顔、同じ声、同じ身体なのに・・眼差しも、声音も、態度も・・違う。

 サアラは混乱を極めた・・。


〈・・なぜ、私ではないの・・なぜ・・)


 かつてマンザを苦しめた同じ思い・・。かつてマンザを狂わせた同じ思い・・。


 『春の森』は消失した。柔らかな若緑の森、喜びの泉・・。

 曾ての美しかった森の愛娘サアラは、『月の神殿』の地下深く、暗い渓谷の水の底、水面に映る『月の鏡』に失った愛を探している・・。


 ある満月の夜の・・月の映る水面に、亡き人の姿が現れる・・。

 それは失った愛に巡り会える、黄泉の国への入口・・ジッと見つめて、ジッと見つめて・・。


 ・・映る『月の鏡』の中に、きっとあの人の姿が現れるはず・・現れる・・はず・・。


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