本棚の裏で
昼休み。情報通の美少年後輩から呼ばれて図書室に来た。
そこで聞いた新たな話は、なんとも悲しい事に私の職業によっていじめられていると言う女生徒が沢山いるらしい、というもの。
……当事者の私には自覚がなかったのだけれど、なんでも水をかられたとか、教科書を破られたとか。一つも実行した記憶もない。というか動機がなければする気もない。
まさかそんな、ともう一度確認をする。
「本当にそんな話が……!? 」
「かなり信憑性の薄い話ですけど。僕の幼馴染もこれは無いってスキル使わず言うレベルの。ただ、その噂話がやたら広がってるのが問題ですね」
顔をしかめる美少年後輩。チャールズ君は白い髪に向日葵の花のような瞳の幻想的な美少年である。存在が幻想的なのである。今こうして話しているのも夢か疑うレベルの! 絶対この子モブじゃないだろうと思っている。
おっと、それは置いといて。
「あの子が? それなら私、安心できる……。ところでね、私ね、チャールズ君一人でもテンション上がるのだけれどあの子も一緒に来てくれたら大変嬉しい。何故かって」
チャールズ君の幼馴染。探偵が職業の女の子で、可愛い後輩でありとても気の合う友人である。
彼女と二人で話していると時間を忘れて盛り上がってしまうために、チャールズ君にいつも中断されている。
「はいはいはい、それはまた今度で。先輩はまずこの事件についてどうにかしないと」
「テンション下がる……」
最近こんな話ばかりだ。普段の行いのせいだろうか。美少年推しと体育でヒャッハーする以外は大人しいと思うのに。
「とりあえず、幼馴染が先輩のためにと珍しくスキルを使って調べてましたよ。これどうぞ」
悲しみに暮れていると紙の束を渡される。それをペラペラとめくってみると……。
「ありがとう。うん? 何これ」
「こっちが先輩の行動記録、こっちが噂話の内容と、それが広まった時間記録。それとこっちがーー」
「その噂話をし始めた人の大元、つまりこの事件の犯人の行動記録です。シャルロッテ先輩」
ふんわりと、けれど芯のある少女の声。その持ち主が現れた。
「ソフィ後輩! 会いたかった! 」
駆け寄って抱きしめ合う。
「私もです。 シャルロッテ先輩の悪口が許し難かったので、ニート希望なのにせっせと働いてしまいました! 」
「ありがとう……! 」
マイソウルフレンド! フォーエバー! 永遠に! ズッ友だよ!
「盛り上がるのはその辺でやめて」
空気を改めて、本題に移る。
「えっと、私による虐め話が学園中に広まっている件について」
「んんっ。 そうですね、前からシャルロッテ先輩が出てくる噂はありましたけど、前回は転校生が言いふらしていたあからさまなものでしたね」
ソフィが前回を振り返る。
「私が体育でテンション上がっちゃったやつだね」
「それ、話捻じ曲げて言いふらしてますよね」
体育関係なくなってましたし、とチャールズ君が付け足した。
「悪意ありありですよね」
うむむ、と悩む。体育の件で恨まれた可能性あり……。
「異性絡みの可能性もありますね。あの人なら」
「学園の王子様関係ってこと?」
「ノア様関係ならば全力で叩き潰すしかないな……! 」
溢れ出た戦意を後輩二人に落ち着けと宥められ引っ込ませる。
「えー、それで。前回は転校生が噂の犯人なのはあきらかで、動機はまあ置いておきましょう。それで今回被害者とされた人物はあやふやで話にならないものなんですけど、犯人は転校生です」
チャールズ君が話のネタバレをしてきた。
「おお……」
薄々わかっていた……。
微妙なショックを感じていると、ソフィに制服の袖を引っ張られた。
「ちょっと上手く話せないんですけど、転校生の目的は別にあって、その目的を達成する為にシャルロッテ先輩が邪魔だから排除しようとしている。って感じなんだと思います」
「流石探偵……!」
探偵関係ないです、とソフィは否定した。
「もしかしたら、なんですけどね。チャールズから聞いた話と、実際に調べたらもしかしてって思うことがありまして……」
「僕にも理由を話さないんですよ、ソフィ」
「これはまだ説明できないから! ごめんなさいシャルロッテ先輩。私もっと調べてみます」
「私こそ申し訳ないのだけど、ありがとう」
そして二人と別れ、大事に紙の束を腕に抱えて教室に戻る。
図書室から出る間際。残った二人に、一人の男が本棚の裏側から近付いたことも知らずに。
「シャルロッテが世話になったようで、感謝しよう。初めまして、俺はルーク・ザカリー・フォーサイス。お前達のどちらかだがーーーー転生者というものに心当たりはあるか?」
「…………!? 」
後輩二人は「私は探偵になりたくない!」という短編より登場しました。