ヴィランとライバルヴァルキリー
ビシッと軽い音が鳴る。それと小さな痛み。反射で下げた頭を上に向けるとピンと伸ばした手。そしてルーク様。
「……最近扱いが雑ではないでしょうか、ルーク様」
「それはこっちの台詞なんだが、シャルロッテ」
ため息混じりにルーク様は言った。
何の事だろうか。
「そんな事より、ルークさん。貴方は何の用でこちらに?まあ、シャルの事でしょうけど 」
「そんな事で済まされてたまるか。……シャルロッテがこの件に対して消極的だから、どうしたいのか聞きに来ただけだ」
それは返答次第でもしかして骸骨メイドのエラさんのお話に繋がったりしますか?
会話の難易度が高くなるぞ、と思った時、私は気付いた。
「何故二人とも私が大暴れするかのような推測を立てるのでしょうか? 」
解せぬ。
「私はただ、メアリーさんの動機がわからないので様子を見ているだけですよ」
彼女も転生者だとして、何故あの様な行動をしているのか。体育の件を除いても私に虐められたという噂は複数上がっているらしい。何故だろう。
それを知るべく私は下手に刺激せず情報を集めようと決めた。
「いや、それがわからない」
「同じく、それがわからないわ」
「解せぬ……!」
私の持たれているイメージとは何なのだろう。
塩の様なしょっぱさを感じた。ざっくりと心が切れました。微塵切りです。今ならキャベツの塩もみになれますよ。心の料理本が囁いた。嫌だ。
料理本は本棚にしまって私は立ち直る。
…………この二人に前世の漫画抜きで上手く説明できるだろうか。いや、難しく考えずありのままの私の心で大丈夫だ。
「職業差別反対! 私はおおらかな心を持っているのでこのくらいでは怒りません! 」
「お前なら即座に投げ飛ばすくらいはするだろう」
「シャルなら物理的にこの件を沈めると思うわ」
「………………。」
私とは、一体。
「うっわ。まだいたの、あんた。早く帰ってほしいんだけど」
「おお、ノア! よく戻った。さあ、来い」
「はあ……」
「あ……あ……! 」
天使のお帰りだ。塩漬けにされた心が水洗いされて行く。ルーク様のテンションは上がりジャンヌは下がった。私は尊さで息苦しくなった。
「シャルロッテが落ち込んでるみたいだったけど、何話してたの」
皆の反応をスルーしてノア様が聞く。
私が飛び跳ねる気持ちを抑えている間に三人が話をしている。
「それは謎」
ノア様の一言。実に簡潔で分かりやすい。私が国語の先生ならば百点をノア様に捧げただろう。……先程からルーク様がノア様にデレデレしつつ私の頭をチョップしている。何故。
「シャルは何か私に、私達に隠している事はない? 」
ジャンヌが私をチョップするルーク様の手を払って問いかける。
「……ないよ! 」
「物凄く怪しいのだけど」
「大丈夫だよ。心配性なんだから、ジャンヌは」
「別に、そんなことないわ! 」
にっこりと私は微笑んでジャンヌの両手を掴む。大丈夫だから安心してと気持ちを両手で送る。頰を赤らめるジャンヌに私は勝利を確信した。
「何だあれ羨ましい」
「魔王うるさい」
理由不明の高難易度が残っていた……。
「えっと……」
目の前にルーク様が立ちはだかる。
「俺も同じように頼む」
両手を包み込む様に握られて今度は私がジャンヌの様に顔を赤く染めた。頭が真っ白になる。
「キモイ」
スパン! と高く鳴り響くノア様の手で繰り出されたルーク様への頭への攻撃。思いっきり叩いたと思われるその音に意識がはっきりとした。
「ルークさん! シャルに気安く触らないでいただきたいわ。今シャルと仲がいいのは私なのですから! 」
「おわわ! 」
私をひっぱり背後に隠してルーク様に目を釣り上げて怒るジャンヌ。
「…………っは! ノア! いきなり拘束スキルは酷いだろう! 」
「十秒足らずでスキル解いた癖に。そもそもあんたがキモくはしゃいだのが悪い」
「兄はキモくない」
「キモすぎ」
「話を聞きなさい! バカ兄弟! 」
そうして時間は過ぎ、クラスメイトが揃ってくる頃になり解散した。まだ今日は始まったばかりである。




