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奇跡の先に君がいた  作者: 朝凪 紡


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2/7

初めての夜

仕事が終わると、私は急いで自室へ戻った。

その勢いのまま、ベッドをのぞき込む。

しかし、そこにハムスターの姿はなかった。


(やっぱり、どっか行っちゃった…?)

そうだよね、と冷静に思いながらも焦りが募る。

探そうとベッドから目を離そうとした。

そのとき──

視界の端で、何かが動いた。


反射的にそちらに視線を戻す。

もぞもぞと、何かが動いていることに少し安心する私。

少し待っていると、掛布団の隙間から、ぴょこっとハムスターが顔をのぞかせた。

(もう、何してても可愛いじゃん)

「よかった…」

心の中で思ったことと、口からこぼれた言葉は、まるで噛み合っていなかった。

「寒かったんだね、ごめんね。うちのホテル、温度調整できなくて」

弱に設定した冷房でも、ハムスターには寒かったのだろう。

それでも、暑さで熱中症になるよりは、その方がいいと判断したのだ。


「お腹空いた?厨房に蕪の葉っぱがあったから、お願いしてもらってきたんだ」

差し出すと、ハムスターは鼻をひくひくと動かしながら近づいてくる。

そして、小さな口で少しずつ葉っぱをかじり始めた。

「まずは、病院に連れて行かないとね」

雄か雌かもわからない。

どこから来たのかもわからない。

念のため、診てもらっておいて損はないだろう。

ちょうど明日は休みだ。

(ついでに、ペットショップも行こう)


「あっ……」

そこで気付いた。

すべて揃って心置きなく過ごせるのは明日以降。

私は、今晩のことを忘れていた。

「どうやって寝よう?というか、どこ走り回ろう?」

そう呟くと、ハムスターが布団から出てきて、てくてくと歩き始める。

どこへ行くのか見守っていると、私の枕元までやって来て、そのまま伏せるように体を丸め、目を閉じた。

「えぇ、そこで寝るってこと?」

ハムスターは一度だけ目を開けると、頷くようにもう一度ゆっくりと目を閉じた。

(本当に言葉、通じてない?)

それならそれで、好都合ではある。

「だけど、私、寝相悪いから、つぶしちゃうかもよ……」

それは冗談ではなく、本気の心配だった。

それでもハムスターは、大丈夫と言いたげにもう一度だけ私を見上げ、安心しきったように目を閉じる。

(まぁ、気を付ければいいか。けど、走らなくても平気なのかな?)

確かにハム次郎も、回し車で走らず、そのまま眠る日もあった。

一日くらいなら、大丈夫だろう。

私は、そう自分に言い聞かせ、それ以上深く考えないことにした。


そうして寝支度を済ませ、ベッドへ入る。

ほどなくして、私は静かな眠りへ落ちていった。


***


詩乃しのが寝息を立て始めたころ——

小さな体が、そっと彼女の頬へ近づく。

柔らかな鼻先を、そっと頬へ寄せた。

安心したように目を細めると、小さな命は、そのまま彼女の寝顔を静かに見つめ続ける。


その優しい眼差しを知る者は、誰もいなかった。

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