第十三話 【無人√】
春子がいる部屋から逃げ出した日、俺は公園のベンチで夜を過ごした。
初めての野宿。
公園の夜は寒かった。その寒さが身に染みた。ホームレスの人たちのその強さが身に染みた。でも、俺にはちょうど良かった。その寒さが俺の冷えた心を後押しする。
俺は思った。
春子も冬子も俺にはもったいない女性だったと。俺に彼女達と付き合う資格はないと感じた。俺は彼女達と一緒の時間を送ることはできない。それはふさわしくないと思った。俺は彼女たち程強くない。彼女達と一緒に歩む力が欠けていると。
俺は朝が来るとそのまま会社に通った。
会社の皆に野宿をしたことがばれないようにコンビニで髭剃りを買い、身なりはただした。家を出た時スーツ姿なのは助かった。それでなければ春子の家に帰らなければならなかった。
その後、勤務を終えると春子のいる家に帰った。
そして春子に別れを切り出した。
春子は一日たって落ち着いていた。
泣き晴らしたようで目の周りは腫れていた。化粧でそれを隠していたがよく見れば分かる。俺の言葉を予想していたのか、彼女は俺の別れを受け入れた。
俺はそして冬子にも会いにいった。
冬子にも同じように別れを切り出した。彼女は怒った。だが、俺とベッドを共にし、俺が不能になったことに気づくこと納得して離れて行った。
俺はアメリカに行った。
俺に残されたのは仕事だけだった。
夢であった海外勤務に励んだ。
だが、夏子も春子もいない俺はどうにも活力にかけた。
英会話教室の時の様に湧き上がってくる思いは無かった。
ただ、仕事をたんたんと続けた。
◆◇
数年後
俺は予定だった二年の海外勤務を終えて日本に帰ってきていた。
仕事は結果はそこそこだった。悪くもないが良くもない。
普通としかいいようがない結果。
それから俺は春子にも冬子にも合わなかった。
そんな中、俺はとある女性と知り合った。
それは会社の部下だった。その女性スタッフは結婚していた。しかし、彼女は俺に好意を抱いているようだった。だからこちらからアプローチして関係を持った。俺は人づきあいを最低限にしていたが、同時に誰かと深い関係になりたいとも思っていた。
寂しかったのだと思う。だから求めた。結婚している女性なら、お互い寂しさを埋めるだけの関係が気づける。それだけの関係。利用しあうだけの関係。俺が彼女に対しても何の責任も義務を持たなくてもいい関係。そう思った。俺はその関係に溺れた。打算的なその関係。
俺は自分が女性に信頼、依存されることを恐れた。でも、それが欲しいとも思った。少しでもいいから欲しいと思った。だから結婚している女性と不倫を行う。
不倫女性なら俺に依存することは無いだろう。それで俺は関係を保てる。彼女もその中にある欲求をみたせる。それに本気になることはないだろう。それで満足だった。
でも、俺の心の片隅にある寂しさが消えることはなかった。
平穏な日常が過ぎていく。ストレスもなくたんたんと過ぎていく人生。
別に退屈はしない。世の中には娯楽が溢れている。仕事をし、それらを消費していけばある程度満足できる生活をおくれた。
でも、春子と生活していた時の心がじんわりと充たされる幸せも、冬子によってもたらされる激しいエネルギーとも無縁だった。
ただ日々が過ぎていく。時折感じる空虚さ。
そして常に心の片隅で感じる寂しさ。それは消えることがなかった。
何かに挑まなければ、何かを負わなければ、深いものは手に入れられないと分かっていた。でも、俺にはそれができなかった。
俺は諦めていた。俺はそれが欲しいと思ったが、それを手に入れる事は出来ないと思った。
確かに存在する空虚な寂しさ。俺はそれを見ないようにした。
それしか俺にはできなかった。
【無人√ END】
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