女神「エクス・マキナ」
そして九話目にして異世界疑惑。
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初心者プレイヤー使って、ゲームの動き方説明の回、作らないとなぁ。
静まりかえった教会の中。光を睨み付けながら扉付近にいたレイは祭壇へと歩を向ける。
赤い絨毯に大半を吸収されながら、それでも完全には消えなかった小さな足音が沈黙の横たわる空間へ響いている。
「最初に疑問に思ったのは魔術を使った時だった。魔力という概念を扱う時、僕はMP量を今使えるブロックの総数と考え、必要最小限で望む形に組み上げるようイメージする。今まではそれが僕の内側だけで終わっていた」
とん、と右手親指で自身の胸を突くように叩く。
「けれど、この世界に来て直ぐ魔術を使った時。僕の外側にもブロックが散らばっていた」
AFOでMPはキャラ毎に設定され、そのキャラだけが影響を与えることが出来る値として存在していた。消費出来るのも回復出来るのも、値を保持するキャラのみだったのだ。
他人から掛けられた回復薬での回復も、一度そのキャラアバターを通すことで影響出来る値に変換していた。
「大気中に魔力が存在するという設定がAFOにも確かにあったから、そこまで再現されたのかとその時は思った。けれど次に疑問に思ったのは、この教会へ来てから。疑問というか違和感だな」
話ながらも歩みは止めない。真っ直ぐにエクス・マキナを目指している。
「それまでは暗い眼をしていたのに、アーサーの演説でプレイヤーの眼に生気が戻った。……僕達は今、アバターだ。心の動きが眼という小さな一点に凝縮される程、現実と遜色ない程、アバター技術が進化したというのか」
レイの背後でどうするべきか解らずに見守っていた面々が顔を見合わせる。
眼だけで解るか。現実でも解らないんだけど。何となくですが解るような気がします。
交わされる背後の会話を無視しながらレイは続ける。
「最後。これはお前が言った言葉にある。『生命活動の為の生理現象も再現』。空腹や渇水はAFOにもシステムとして存在した。だが態々宣言したということは、彼等はこの五日間でそれ以外の現象を体験しているということだ」
睡眠欲や食欲以外にも、生命活動に必要な生理現象は存在する。例えば、老廃物の排出。これはゲームにとってデメリットにならないだろうか。
現に、AFOを含めたトゥースリベルテ社が過去発表したVRMMOでは、それに関する施設は全て遊びや笑いの為のものだった。
「…………まさか」
「そう。最近の、特にトゥースリベルテ社のVRMMOはリアルすぎるから気付きにくいが、ここにはそれ以上の現実が存在している可能性がある」
「ちょ、ちょい待ち! って事は何か、ここはゲームじゃないってか!?」
「僕はその可能性を潰したいんだ。…………エクス・マキナ、もう一度問う。ここは、本当にアナザーフューチャー・オンラインの中か?」
視線を集めた光は静かに答える。
『いいえ。ここはアナザーフューチャー・オンラインの中でも、トゥースリベルテの所有するサーバーの中でも、ましてやネットワーク上に存在するどの場所でもありません』
先程までのような幾重にも重なる声ではない。小さな少女の声が驚愕の事実を告げる。ただ、彼女の声も困ったような、途方に暮れたような色を宿していた。
ふわりと光が散る。そこから現れたのは長い空色の髪を頭頂部で結い上げ、フリルやレースをふんだんに使ったワンピースの少女だった。
「……この様に、本来なら姿を持たない私にさえ形が与えられました。皆様のアバターのように受肉はしていないので、触れるホログラムのような状態なんですが」
整った眉を下げ、ワンピースの布地を握り締めながらも笑みを浮かべる少女。
「ステータス、オープン。キャラ情報開示」
言葉に反応して少女の前に浮かび上がったのはAFOおなじみの半透明なウィンドウ。
表示されているのはキャラクターネーム、アバターの性別、生命力、魔力、物理攻撃力・物理防御力・魔法攻撃力・魔法防御力・敏捷性・器用さの各装備品による補助数値、現在の状態異常というキャラ情報である。
キャラ本人にのみ表示されるこのウィンドウを他人へ開示するよう指示することで今現在、他人であるレイ達にも見れるようにしたらしい。
「これが?」
「性別の前をよく見てください」
促され、よく見てみれば「種族」という欄と「信仰対象」という欄が追加されていた。
エクス・マキナと書かれたキャラ情報には信仰対象が空白で刻まれている。代わりに種族の欄には「神族」の文字。
「この二つの欄は、AFO2にも存在しません。私の意識がプレイヤーの皆様と共にこちらへ無理矢理連れてこられた後、気付いたら追加されていました。……正直、私にも何が起こっているのか解らないんです」
項垂れるエクス・マキナを前に、全員がそれぞれキャラ情報を確認していく。そして種族に「人族」、信仰対象に「エクス・マキナ」の文字を発見した。
「皆様を帰す、送還というスキルが一覧にありました。でも『信仰心が足りません』って表示されて…………。事情説明する為に、降臨というスキルを使おうとしても『信仰心が足りません』って出て……皆さんが来てくれてなかったら、どうにも出来ず途方に暮れるところでした」
ぐすり、と鼻を啜り涙を浮かべながらエクス・マキナは座り、床に額を押しつけた。
「お願いします、あなた方の力を貸してください。メインAIとして、私、ゲームを楽しんでくれるプレイヤーの皆様を無事に現実へ帰したいんです!」




