チート要望
漸くログイン……直前です。
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突貫のチートってちょっと不安に思うのは私だけですか。
扉がノックされ、開かれる。
視線を集めた石塚が軽く頭を下げ、ボードと筆記用具を持って中へと入ってきた。
「失礼致します。技術者からの伝言をお伝えしにまいりました。『キャラクター作成画面まではこちらから制御可能なことを確認しました。FAO時のアバターで入れます。登録スキルも移行しました。ただし、キャラのステータスや装備品等のステータスは初期設定のものに変更となってしまいます』とのことです」
登録スキルとは、決めた動きや魔力の流れをスキルとして登録・使用出来るシステムである。
この登録スキル、主に魔術師が多用している。戦士系が臨機応変に技を使わなければいけないのに対し、魔術は標的や着弾地点を変えるだけで済む。もちろん現実的に考えるならば、魔術とて臨機応変であるべきだが。
他にも、特殊な行動を行うことで貰える遊戯スキルもこの登録スキルに括られている。教会という限られた場所でのみ使え、AFOメインAIから今日の運勢を告げられる「神託」は、実際のゲーム進行に直接関わることのない遊戯スキルの最たる物だ。
ただし、今の状況ではその遊戯スキルも馬鹿に出来ないだろう。見方を変えれば「神託」は唯一、サーバーの現状支配者であるAFO2メインAIと更新出来る手段だからだ。
「それは有り難い! 誰かこの中で神託を使えないか?」
アーサーはどうやらいち早くそれに気付いたらしい。他に聞くということは、アーサー自身は取得していないのだろう。もしくは、遊戯スキルを手当たり次第取りすぎて把握出来ていないのか。
「俺、使えます。……最初、聖騎士目指してたので。ロールに役立つかなぁ、と」
苦笑しつつケイが告げる。
最初、と言うことは飽きたか諦めたかしたのだろうか。少し気になったがレイは追求を止めた。
アーサーは顎に手を当て、考えながら口を開く。
「ではケイ、ゲームに入ったら神託を使って欲しい。確か王都レンディアには立派な教会があったはずだからな」
「解りました」
「あと、ゲームに入ったら各々遊戯スキル含めて全ての登録スキルを確認しておこう。俺達が目指すのはゲームのクリアではなく生き延びることなのだから」
「すっかりあんたがリーダーね。……まぁ、その意見には賛成だわ」
「んにー、リリルの登録スキルって何があったかなっ」
全員がログイン後の事へと思考を飛ばしかけた時、まだ残っていた石塚が筆記用具でボードを叩く。
「それと、皆様に補填を。……全員が生き延びる為に、必要だと思われるチートを挙げてください。一人につき一つまでですが、作成画面でお渡し致します。細かい調整をする時間がありませんので、一点特化になると思いますが……」
「――――チート(cheat)とは、直訳すれば『ズル』あるいは『騙す』という意味の英単語で、日本のコンピュータゲーム用語としては、主としてメモリエリアに細工するなどの手法で、制作者の意図しない動作をさせる行為を指す。
日本語におけるチートは和製英語化しており、英語におけるMODまでを安直に含意して使用される場合があり、本来の意味とはやや変質(用途を限定)している点に注意する必要がある。
以上、Wikipediaより抜粋」
「ええっと、レイ君? いきなり何を?」
「いや、気にするな。言いたくなっただけだ」
ユートの言葉を流し、レイは机上の飲料に手を伸ばす。ペットボトルの緑茶を選び、封を開けて口付けながら石塚を見る。
その視線を受け、石塚は少しだけ困ったような笑顔を浮かべた。
「そう、ですね。本来のチートとは違います。……ただ、そう言われても仕方ない、本来ならゲームバランスを崩すアイテムもしくは能力を、皆様に」
「例え強い敵を前にしても、簡単に死なないように、と言うことですね」
「はい」
サイカの穏やかな言葉に頷く石塚。
それを受け、全員が悩み始める。何を貰えば負けないでいられるのかを真剣に。
けれど落ちかけた沈黙を消し去ったのはジンの明るく単純な言葉だった。
「ならばわたしは、硬い物を斬れる刀を貰いたい! 破壊不可なアイテム以外が壊せるようになれば、きっと巨大な亀の敵が出て来ても勝てる!」
何となく、レイは目の前の少女が刀を持って彼女の数倍の大きさを誇る亀を一刀両断する光景が見えた気がした。
吹き出し、肩を震わせるサイカ。恐らくレイと同じ物を幻視したのだろう。
「では、私は視界に入った物に必中出来る能力を。複数の弓矢を複数の敵に当てるのは、夢だったんです」
真面目に考えていた者達の肩から力が目に見えて抜けた。
例え死のゲームだとしても、楽しむ心を忘れてはいけないのだ、と二人の言葉から悟ったようだ。
少しでもいい、楽しめるような精神的余裕を保っていなければ、更なる非常事態に陥った時に見いだせる活路も見えなくなる。そして活路が見えなければ待ち受けるのは敗北だとレイは知っている。AFOを始めた頃はその敗北が日常茶飯事だったのだから。
「それじゃあリリルはポーションを作る能力! HPが1でも残ってたら全回復するような、強力なポーションをMP消費で作る能力がいいなっ。効果の高いポーションって、要求材料が多かったりなかなか手に入らなかったりするんだよね」
「ならアタシは消費MPを1にする能力が欲しいわね。高難易度になればなる程消費MPってバカにならないもの」
ジンとサイカの要求を書き終えた石塚がリリルとフラムの要求をボードに記入していく。
ペンの動きからすると、ボードの用紙にはそれぞれのキャラネームの他に予め選択肢と記入欄が印字されているらしかった。
「…………高レベルボスからも、存在を隠せるローブを」
「俺は体当たりで吹き飛ばされない能力を」
盗賊と盾らしい選択をするアスマとケイ。
それぞれが選択するごとに、レイは少しずつ眼を細めていく。
「ええと、大人数を一度に治せるように、範囲指定の回復術って出来ますか?」
「可能かと」
「じゃあ、それで」
「俺は魔術を斬って無効化出来る剣を。敵の即死魔法、なんてのがあったら危険だからな」
ユートとアーサーの選択も済み、残るはレイとユークリフのみ。
パイプ椅子に背を預けてだらけた様子のユークリフがレイを見る。
「お前はどーすんだ、レイ」
その視線に肩を竦めることで答え、飲み干したペットボトルを机に置いた。
「破壊不可、強化可能の杖を。あと、アバターは少し手直ししたいのですが」
「作成画面で新規作成も可能です」
「解りました」
レイの回答にユークリフ以外が目を見開き、まじまじと顔を見つめてくる。それを鬱陶しいなとは思うが、敢えて今選択の真意を教えることはしない。
石塚さえも訝しそうにしながらペンを動かしている。
「お前、性格悪いって言われない?」
「お前にだけは言われたくないな」
「ごもっとも」
ケタケタとユークリフは笑い、まぁ大丈夫そうだし工夫次第で何とかなるだろ、とパイプ椅子を傾かせた。
「んーじゃ、俺は伸縮自在で強化可能な槍にするわ」
「…………皆様、これでよろしいですね?」
全員の要望を書き終えた石塚が最終確認をする。もちろん全員が頷くことで肯定を返す。
暫くお待ちください、と足早に部屋を去っていく石塚を見送った後、全員の視線がレイへと向かう。一部は時折ユークリフにも向けられる。
「何であんなチートにしたか、って説明は……」
「面倒」
一言で切って捨てるも、溜息を吐いてレイは続けた。
「と、返したいが協力者だからな。一つはジンの武器のような能力を持つ物を受け止められるように。もう一つは……AFO2に行けばそのうち嫌でも解るだろう」
それを受けて今度はユークリフへ視線が向かう。
ニヤニヤ笑う顔を見て、言う気がないと悟ると溜息混じりで視線は散っていく。
三十分後。突貫で作られたチートを手に入れる為、彼等はAFO2のキャラクター作成画面へとログインしていった。




