招かれざる訪問客
説明が長い話です。ダラダラしてます。
『 あなたの望んだリアルがある。
あなたの望んだ冒険がある。
さあ、今こそ旅立ち新たな開拓を!
アナザーフューチャー・オンライン、正式サービス開始! 』
画面を流れる音と映像、文字をぼんやり見つめていた城咲レイは、呼び鈴の音で現実に引き戻された。
椅子を軋ませながら立ち上がり、チェーンを掛けてから玄関の扉を開く。
「……どちら様ですか」
「失礼致します。城咲レイ様でしょうか? 私、トゥースリベルテの石塚真奈美と申します」
チェーンの長さだけ開いた隙間から、黒いスーツに身を包んだ女性が笑顔で名刺を差し出してくるのに対して呆気にとられる。思わずで受け取った名刺には、確かにトゥースリベルテという社名と彼女が口にした名前が刻まれていた。
名刺を裏返し、表に戻し、と矯めつ眇めつ眺めてみるが、生憎レイにはそれが本物かどうか判別する術はない。
一度扉を閉じ、もう一度押し開けた。
「取り敢えず、中へどうぞ」
チェーンを外して。
「……失礼ですが、警戒心薄いって言われません?」
「押しかけ強盗にしては、扉の前にいるのは女性一人ですし。あなたが入ってから鍵掛けてしまえば仲間も入れません。もし訪問販売でも流されにくいので、別に。……最も、トゥースリベルテ社の名前を出したのだから、訪問販売の線は限りなく低いでしょうが」
トゥースリベルテ社。それは特殊なVRMMOを運営する、頭脳集団をトップに据えた会社である。
二十数年前、VR技術が現実となり、満を持して生まれたVRMMOを人々は喜び迎えた。だが、それは結局MMOを自らの肉体で遊ぶだけ。シナリオも、技も、作れる武器も。全てが決まり切った物だった。
多くのプレイヤーは仕方ない事だと諦めたが、一部のゲーマーは満足しなかった。
「自由でリアルな第二の世界をVRに」。
その目標を掲げ、一人の少年が同志を集めて試行錯誤し、生まれたのがトゥースリベルテ社だった。
一作目は、NPCの台詞のバリエーションを増やすことから考え始めAI開発に着手し、人と変わりなく思考し会話出来るAIを搭載したVRMMOを作り。
二作目には、メインシナリオやクエストの進行に数多の分岐を増やすことから考え始め、メインシナリオという考えを出来る限り薄くした、フリーシナリオとも言えるVRMMOを作り。
三作目では、装備やアイテムをパーツごとにカスタムすることから考え始め、多少手間は掛かるが自分のイメージ通りのアイテムを作成出来るようにした、生産職向けとも言えるVRMMOを作り。
四作目として、様々な状況からスキルを発動出来るようモーションの種類を増やすことから考え始め、物理戦闘職に喧嘩を売るかのようなリアル戦闘が出来るVRMMOを作った。
「……で、自由なVRMMOを売りにするトゥースリベルテ社の社員が僕に何のようです?」
石塚をリビングへ案内し、インスタント珈琲を出してからレイは本題を促す。
珈琲に息を吹きかけ、冷ましながら少しずつ飲んでいた石塚はそれに応え、カップをソーサーに戻して顔を引き締める。
「AFO2……アナザーフューチャー・オンラインをご存じですか?」
「エンシェントフロンティア・オンラインの続編、と言うことぐらいは」
エンシェントフロンティア・オンライン、通称AFOはトゥースリベルテ社の第五作目にして、それまでの集大成として発表された人気VRMMOだった。
生き生きとしたAI、世界を開拓するという目標のみを与えられたフリーシナリオ、生産者によって多種多様な形・性能を持たせることが出来るアイテム類、スキルのモーションに縛られない戦闘。
そこに加えられた新要素、アイディアと工夫次第で無限の可能性を解き放つことの出来る、魔術。
十年という長い期間稼働し、何度もバージョンアップされ、半年前に開拓が終了したと言うことでサービスを終了した。
AFO2はAFOサービス終了後の未来、の可能性の一つという名目で生み出された第六作目だった。
「確か、三ヶ月のβテストがこの間終わった、とか」
「はい。公募でのクローズドは三ヶ月ですが、その前に二ヶ月程デバッグや動作確認などを内々で行ったので正確には五ヶ月テストに費やしました」
「……それでも短くないですか」
「基礎はAFOとほとんど変わらないので」
石塚の返答に軽く頷き返してレイはマグカップの中の珈琲を啜る。
「…………そう、変わらなかったはず、なんです」
ぽつりと落とされた言葉に核心が来たかと視線を向ければ、石塚は膝の上に乗せた手を落ち着かないのか頻りに弄っている。
「サーバー環境もゲームの仕様も、AFOと特段変わったことはなかったんです。AI達だって普通でした。実際、βテストは上手く行ってたんです。なのに……」
唇を噛んで一度目をきつく瞑る石塚。
「……なのに、正式サービスが始まった途端、サーバーがこちらからのコマンドを一切受け付けない暴走状態になってしまったんです。唯一受け付けるのが、プレイヤーのログインのみでした」
「ログインのみ……ログアウトは?」
「こちらからの強制ログアウトも、全く。稼働初日十数分でその事態が解ったので、すぐにメディアを通じてログインしないようにと通達したのですが……」
「既に多くがログインして、更に数日経ってもログアウトしてこない、と」
厄介な話だった。
VR世界に精神がある為、サーバーを強制停止することは出来ない。
かといってこのまま手を拱いて事態が長引けば、中で創作小説のようにデスゲームが始まってしまっていた場合、プレイヤーの多くは命を落としていくだろう。
レイは視線を先程まで見ていた録画DVDへ向ける。
一体どれだけの人間が、こんな事態になると思っていたのだろうか。
「ここからが本題です」
石塚の言葉で視線を彼女へ戻す。真剣な目で見つめられ居心地が悪くなり、先程啜ってから手にしたままだったマグをテーブルへとそっと置いた。
「運良くAFO2にログインしていなかった方の中で、AFO時代上位にランクインしていた方が数名いらっしゃいました。私どもは今現在、その方々に声を掛けさせて貰っています」
それはつまり。
「AFO2にログインして、どうか我々が事態を収拾するまでデスゲームからプレイヤーの皆様を護っていただけないでしょうか」




