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美しきこの世界で  作者: 猫柳
第一章  新しい居場所
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第七話  外敵

「お嬢様」


人の流れに乗って歩いていると、突然耳元で声がした。反射的に振り返ろうとした私を、声の主が押しとどめる。


「申し訳ありません。無断にて護衛をさせていただいていた、公爵家の騎士フレッドと申します。お嬢様、先程から、女性の二人組が、お嬢様の後をつけております」

「私の?」


前を向いて普通に歩きながら、上ずる声を抑える。


「はい。さっきの出店に立ち寄ってからでございます。身なりを見る限り、お嬢様と同じどこかのご令嬢かと。連れているのも侍女一人のようでございます。どうなさいますか?追い払いましょうか?……と」


そこで、フレッドは小さく舌打ち。


「近づいてきています。あと三十秒もしないうちにここに来るでしょう。害なせるとは思いませんが、殺気が……」

「喧嘩売りに来たってところですかね」

「平たく言うと多分そうです」


私はぽりぽりと頭を掻いた。ここ最近、大分図太くなった気がする。


「んじゃ、話ぐらいなら聞きますか」

「アカネ様、ここ最近血気盛んですね……」


呆れたようなレティの声に、私は笑う。


「一人じゃないからね」




一人じゃないから、強く居られる。






道の脇に移動したところで、私の後を追うように少女が二人、人ごみから転がり出てきた。


「なんの御用ですか?お嬢さん方」


腕を組み、至って無表情で私は二人を見据えた。いつの間にかフレッドさんは姿を消していたが、恐らくどこかに潜んでいるだけだと思う。顔を見損ねたが、屋敷に戻ったら無事お礼を言うことができるだろうか。


二人組のうち、主人格らしき方が私を見返すと、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。


「もちろん、卑しきクロッカス人が王都を闊歩しているという由々しき事態を回避するためですわ。ルーネルの国民として為すべき義務でしょう?」


ルーネルとはこの国の名前である。安い挑発だ、と私は笑った。


「私はクロッカス人ではありません。公爵家の茜……アカネ・コレットです。何か文句……」

「蛮族が御嬢様に気安く喋りかけないでくださいまし」


私の言葉を、二人組の侍女の方が断ち切る。それに続いて、令嬢も鼻を鳴らした。


「公爵家も世が末ね。よりにもよって、野蛮で卑しい蛆虫を家に迎えるなんて。あぁ、でもあなたにはお似合いの場所かもね?蛆虫は腐った場所に住むモノだものね」


ぎりり、と隣で歯を食いしばる音が聞こえた。ごめんレティ。心の中で小さく謝る。


「御嬢様、蛆虫などに話しかけなどしては御嬢様が穢れてしまいますわ」

「そうね。学園に通うことすらできない頭の持ち主にどれだけ語りかけても、言葉の無駄ということよね。うふふ」

「蛆虫と馴れ合う人間がこの国にいるということ自体信じられませんわ。ねぇ」


「楽しそうですねぇ。言いたいことはそれだけですか?」


彼女たちは気付いていないようだ。さっきから私が全く表情を変えていないことに。

彼女たちは初めて私の表情を見て、怪訝そうな顔をした。


さぁ、今度は私のターン。


「僭越ながら、この無知な私にお名前を教えていただけますか?きっと、さぞかし身分のお高いお方なのでしょうね、お嬢様は。なんせ、公爵家に喧嘩を売るぐらいなんですから」


二人の顔が引きつった。


公爵家は、傍系ながら王家の血を引く、王族に次ぐ高位の貴族だ。いくら養子を弄るためとはいえ、彼女たちは私と共に「公爵家」を「腐った場所」などと形容した。


それに加えて、私と関わる人間の存在を否定してくれた。まったくもう。


「私と馴れ合う存在がそんなに気に入らないのでしたら、もっと表立って非難してみてはいかがです?クロッカス人と似通ったあの女をかばう人間などみんな消してしまえ、と。あぁ、私と仲の良い従兄は、私の代わりに喧嘩を買ってくれるかもしれませんねぇ。お嬢様、ライナス殿下をご存知ですか?」


「い、とこ……、っ卑しいですわよ。血も繋がっていないくせして、勝手に王太子殿下の名を担ぎ出すなど……」


「勝手にじゃありませんよ?私とライナスは、名前を呼び捨てにし合う仲ですから。お疑いになるのでしたら、ライナス……殿下に直接お伺いしてはいかがです?お伺いできる身分でしたら、のことですけど」


ニッコリと笑いながら、私は心の中で手紙をしたためる準備を始めていた。もちろん中身はライナスへの謝罪。別れ際に「いつでも頼ってよ」なんて言われちゃったもんで、つい担ぎ出してしまった。今度謝罪に行こう。日本流スライディング土下座を見せてやろう。本当に申し訳ありませんでしたッ!


「さて、そろそろお名前を教えていただけませんか?お嬢様」



心の中で十回ほどスライディング土下座をしながら、私は少女たちに笑みを向けたチェックメイトした


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