第一話 保護者
「……よし、これでいいだろう。すまなかったね、もう少し早く助けられればよかったんだが」
わずかに血の滲んでいた私の首に大げさなぐらい包帯を巻いた壮年の男性が、すまなそうに言った。
「とりあえず、頭と体がくっついているから大丈夫です」
とんだ異世界トリップだ、と私は心の中でため息をついた。気を抜くと、さっき首筋まで落ちてきた鈍色の刃を思い出してしまう。
処刑台にて首をはねられそうになっていたところに、間一髪で駆けつけてきたのは白馬の王子ではなく、軍人のおじさんだった。目の前のこの人である。
ギロチンの刃は、ちょうど私の薄皮一枚を切ったところで、魔術により停止させられた……らしい。気絶してしまってよくわからないのだが、止まっていなければ今頃死んでいただろう。
「うちの甥がもう少し役に立てば、あんな怖い目に合わせずにすんだんだが……本当にすまんね」
「叔父上、俺のせいにしないでくれませんかね。俺が無能なせいで彼女が危険な目にあったみたいじゃないですか。無能なのは俺じゃなくて腐りきった俺の上司ご一行です」
「似たようなものじゃないか。全員牢屋送りにしてしまえ」
「だからそのために証拠資料まとめてるんでしょーが。そして俺は関係ない!無罪だ!」
壮年の男性と口論を繰り広げるのは、部屋の奥で大量の書類を整理している青年だった。
彼は神殿のほうに所属する見習い魔術師で、私に習いたての翻訳魔法を掛けてくれたのも彼だった。おかげで現在彼らと普通に話すことができているのである。
私がこの世界にやってきたのは、この国の神官たちが召喚術という魔術を開発し、その実験に引っかかってしまったから。なんとも運の悪い話で、最悪なことに、不完全な召喚魔術のせいで、私は召喚陣以外のところ――どうも王宮だったらしいのだが――に飛ばされてしまった。
さらにさらに運の悪いことに、この世界は黒髪差別のある種のテンプレ的な国だった。王宮に現れた不審者、しかも黒髪、さらに言葉も話せない。神殿のほうも召喚術を国に未許可で行っていたため、我関せずの態度を貫こうとした。
「ここ最近は国の許可も取らずにやりたい放題だったからな。国王陛下ももう少し先に諌めとけってんだ。ま、自由にやれないのがきついのは俺もわかるけど、それにしたって人の命かかりそうな危険な奴はなぁ」
ぶつぶつと青年が文句を言う。
私はくるくると髪を弄んだ。肩まで伸ばしていた髪は、首の後ろだけ短くなっている。括れば隠れる程度の量だが、いっそ全部切ってしまおうか。
「ところで、私はこのあと、どうなるんでしょうか」
これが一番気になるところだった。私が聞くと、青年は顎に手を当てる。
「そうだな、神殿預かりは危なすぎるからな。多分王宮あたりに……」
「私が引き取るが?」
壮年の男の言葉に、青年は固まった。
「や、叔父上……それはどうかと思いますよ。妥当なところに引き取ってもらったほうがいいですって」
「何を言ってるんだ。いつ悪意の塊と遭遇するやもしれん王宮になんて置いておけるか。ここで助けたのも何かの縁、彼女は私の養子にする」
「おっさんと二人暮らしさせる気で!?……ご本人は、どっちがいい?」
私に話を振られたので、私は自分の意見を言った。
「衣食住が保証されてればどこでもいいです」
「……こりゃまた基準低いな……」
青年がぽりぽりと頭を掻いた。
私は疲れていた。混乱もまだ収まってはいなかった。とりあえず欲しいと願ったのは、最低限のその三つだった。
男性がぽんぽんと頭を撫でる。私はこれでも中学に上がる年なので、子供扱いはやめてほしい。
「大丈夫だ。確かに保証しよう。それともう一つ、君の自由もね。私の娘になってくれるかい?お嬢ちゃん」
私は一拍の後、椅子から立ち上がって深々と頭を下げた。
「私、仙道茜といいます。これからよろしくお願いします」
予約投稿していたらなぜか二話が二本投稿されてました。一話が行方不明になりました。慌てて書き直しましたが、いろいろとおかしい可能性もあります。いつか手直しします。




