第零話 死の予感
嫌いだ、こんな世界なんて。
後ろで甲冑に身を包んだ兵士が私の背を突き飛ばした。震える足でなんとかバランスをとると、意味不明の言葉で私に早く進めと合図を送る。
嫌いだ。こんな世界。
学校帰りから全く着替えていない制服は、地下牢に転がされた時に泥まみれになった挙句、三日も着替えていなかった。手を縛られているせいで髪は手櫛すら通していない。身だしなみは最低。三日前の私が見たら絶句するだろうし、今の私も絶句してる。
突然飛ばされた得体の知れぬ世界は、最低な世界。そう、これが異世界トリップだって言うなら、私は他の恵まれてチートでハーレムでウハウハしているトリッパー達を全員呪ってやる。
苛立った兵士が、手に持っていた槍をこちらに向けた。刺されるのかな。刺されるのと、首切られて死ぬの、どっちが楽かな。首切られるほうが楽だよな。だって一瞬だもん。そんなことを考えながらも、私は恐怖で震える足をゆっくりと前に動かした。
聞き取ることのできない、ざわざわとした人々の喚声が通路の向こうから聞こえる。通路をなんとか歩ききり、その先の開けた空間に出たところで、私はもう座り込みたくなった。
人、人、人。広場を、たくさんの人が埋め尽くしている。そしてその中央に、私の処刑台は、あった。
その台の上にそびえる鈍い輝きの刃を見た瞬間、私の目から涙が溢れだした。
「い、やだ……」
ここで死ぬ。私は死ぬ。よくわからないけど死ぬ。なんで殺されるかわからないけど、私は。
ふざけてる。なんで私は死ぬんだ。私はただの被害者だ。気がついたらよくわからない場所に飛ばされていた、犠牲者。
通路を逆走しようとして、兵士に腕を掴まれた。必死にもがいてその腕を振り払おうとすると、隣からもう一人兵士が来た。二人係で押さえつけられて、そのまま台の上に引きずり上げられる。
抵抗しようとして膝を擦りむいた。石畳に立てた爪が二三枚剥がれた。ずるずると引かれる赤い線を見ながら、ほかにもそっくりな黒い染みがあることに気づいた。
そうだよね。みんな抵抗するんだ。そして抵抗の甲斐もなく、台の上に上げられて。
私に視線が突き刺さっていた。ねっとりとするような憎悪の視線だった。醜く無様な今の私に、その視線はきっとちょうどいい。
白馬の王子様なんていない。絶体絶命の時に白い馬に乗って助けてきてくれなんかしない。
「――――、―――――」
ねぇお願い。誰でもいい。
私を、助けてください。




