第十七話 変態捕縛
無人のはずの室内に、カタリ、と何かを動かす音が聞こえる。
ズリズリ、という音と共に、天井の天板がずらされた。そこからするりと侵入してきた侵入者は、部屋の中央に立ち、ぐるりと室内を見渡して腕を組んだ。
ものの少ない部屋だった。机が一つ、ベッドがひとつ、クローゼットがひとつ。クローゼットと机の引き出しにはそれぞれ鍵が取り付けられ、勝手に開けられないようにしてある。
侵入者は少し考えた後、腰のベルトに挟んでいた袋を引っ張り出した。腐ったような匂いが鼻につく袋だ。
顔を布でおおって匂いを防ぎながら、侵入者は鼻歌交じりにほかにもいくつかの袋を取り出す。そして机の上にそれを置こうとしたところで、突然、床に崩れ落ちた。
机に触れた指先から、強い電流が全身に駆け巡ったのだ。
「……どーよ。うちのルーカス従兄さん特製、不法侵入者撃退魔法は。結構きついでしょ」
「――――――ッ」
慌てて立ち上がろうとするものの、手足に力が入らないのか、再び床に倒れこむ。それを確認してから、私はベッドの下から這い出ると、あらかじめ用意しておいた縄を手にとったのだった。
制服を新調してから三日。そろそろ再犯するかと罠を仕掛けていた私の部屋に、予想通り犯人が飛び込んできた。
……いや、実際には微妙に予想通りではなかったのだが、そこはいいとしよう。
「ってことで、犯人捕まえましたー」
「……こいつが?」
私とセレンで寮の外まで連行した犯人を、委員長がまじまじと眺めた。
「いやぁ、まだ体がピリピリするんだけど。ちょっと強すぎない?あの魔法」
「拘束用なんだから当たり前でしょ」
「どうせならしびれるよりも縛られたほうがいいなぁ」
「今縛られてるじゃん」
「あ、ほんとだ。僕幸せ。念願叶っちゃった」
「……おい、こいつ馬鹿なのか?それとも被虐趣味でもあるのか?」
やや引いた様子で訊く委員長と、苦々しい顔で「さぁ」と答えるセレン。
しかし、引かれている本人は猫のような糸目をさらに細くして、貼り付けたような笑みを浮かべただけだった。
年は私と同じぐらい。少し長めの茶色の髪に、やや肉付きの悪い細身が特徴的な少年だ。
私は彼を手で指し示すと、自分の推論を述べた。
「えー、ちょっと予想外なんだけど、多分彼が件の迷惑人物ご本人さん。本当は模倣犯の方を捕まえるつもりだったんだけどねー」
「わぁ僕ってば有名人ー。迷惑人物ご本人ですっ!よろしくー」
にぱー、と迷惑人物は満面の笑みを浮かべる。ウォルトも「よろしくー」などと笑みを浮かべる。
「……おい待て、こいつがあれを作ったやつなのか?」
「恐らくは。持ち物もあれの材料らしきものがあったし」
とたんに視線が鋭くなった委員長を、まぁまぁ、と押さえ込む。
「……離せ。一発殴る」
「まぁまぁまぁ。そういうのは被害を受けた本人がやるもんでしょーが。私はやらないけど」
委員長はメガネのフレーム越しに鋭い視線を向けた。いつもはクールビューティーな瞳が、珍しく怒りに燃えている。
「被害に遭っているのはお前だけではない。たとえ本人が許したとしても、クラスの代表として俺は怒る」
彼が怒るのはわかる。でも、この犯人を殴らせるわけには行かない。
私と委員長は、しばらく一歩も引くことなく睨み合っていた。しばらくして、やっと委員長が折れる。
「……後でにしてやる」
「助かります」
渋々後ろに下がった委員長を笑みを浮かべて送り、そして私は振り返る。
「さて少年」
「それは僕のことかな?」
細められた瞳が探るように動くのを眺めながら、私は大きく頷いた。
「少し、気になっていたところがあるんだよね。君のやり口は自分の美学を徹底するにしてもやりすぎた。クラス全体を敵に回しておきながら、それでも君は犯行を繰り返した。派手に物を壊すでもなく、どこまでもインパクトの強いものを置くという形で」
いじめというのは、犯人を特定されない方がやりやすい。目立つようなことを行うよりは、できるだけ陰湿で、行っていること自体がバレないぐらいの方が良い。できるだけ地味で、それでいて特定本人にのみ大きな精神的ダメージを与えるやり口が、犯人を特定しにくいし一番ふさわしい。
しかし、彼の手口はその点に関しては真逆だ。誰もがいじめを行われていることを理解できる派手なパフォーマンス。しかも一つで広範囲に被害を及ぼす、しかしほとんどの備品を壊したり、傷つけることのない、不思議な手口。
「ねぇ、君はさ」
ここからは個人的な予測だけれども。
「見つけて欲しかったんじゃないの、私に」




